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○0540 『迷いと決断』 出井伸之
△0539 『レバレッジ・リーディング』 本田直之
△0538 『日本の電機産業再編へのシナリオ』 佐藤文昭
△0537 『星を継ぐもの』 ジェイムズ・P・ホーガン
△0536 『感染』 仙川環


○0540 『迷いと決断−ソニーと格闘した10年の記録』 >出井伸之/新潮社新書

 ソニー関連の書籍を再読中だが、本書が発売されていたので、再読を一時中断。やはり、ビジネス関連の書籍はあまり昔のものを読み直してもピンと来ないことが多い。その点、本書は非常にタイムリーで面白かった。

 いろいろと毀誉褒貶の多い経営者であったが、個人的には好きなタイプ。よって、本書の読み方も好意的になるのだが、最初に1つだけ苦言を呈しておきたい。その苦言とは「経営者たるもの、経営の秘密、特に人事に関することについては、誰にも明かさず、墓場まで持っていくべきではなかったか」というもの。後任社長の安藤国威氏の人事が失敗だったの言い放っている点に対して抱いた感想である。ファウンダー世代の空気を一掃したかったという理由を述べてはいるものの、ソニーの社長という大役を安藤氏に対して、失礼ではないかと感じた次第。

 これ以外は、総じて勉強になる内容であり、やはりソニーという先進的でかつ大規模な企業を率いるのは、並大抵の苦労ではないのだと思った。特に感心したのは、垂直産業と水平産業の違いにいち早く着目していた点。生産方法が自由で、企業の独自性が出しやすいテレビは典型的な垂直産業である一方、CPUやハードディスクが標準化し、各パーツを様々なメーカーが作成するパソコン産業は水平産業というのである。こうやって文章で書かれると当然のことのように感じるが、大手と呼ばれる日本の企業群が、この違いに気付けず、大きな痛手を被っているのが現状である。

 社長就任前の社内でのポジションが「異論役」というのも面白い。役員会などで異論を出すことによって議論を活発化させようという、前社長の大賀氏の意向もあったようだが、そんな異論役を社長にしてしまうところに、ソニーの懐の深さが感じられる。日本企業では人間関係を重視するあまり、活発な議論が行いにくい風土があるように感じる。ビジネスと人間関係は別物と割り切り、活発に議論が交わされる欧米企業に遅れをとってしまうのは仕方のないことなのであろうか。一方、ソニーが日本企業の中で異彩を放っていたのは、このような議論がきちんとなされていたからなのかもしれない。

 ソニーに関する書物を読んでいると、出井氏が社長になるまえに作成したレポートの存在がよく取り上げられている。このレポートのおかげで社長になれたと書いている書籍もあったように記憶しているが、今までその内容に触れたものを読んだことがなかった。今回、出井氏自ら、そのレポートの内容に触れていたのは興味深かった。提言は3つ。(1)足し算できない、性質の異なる売上を足しているのではないか。エレクトロニクス部門以外に、映画部門や音楽部門、保険部門など多様な業種を抱えるソニーにおいて、売上の単純合算に意味はなく、EBITDAを管理指標とすべきだという提言である。(2)環境の変化とそれに適したエレクトロニクス分野の再編成。成熟したAVと急成長が予想されるコンピュータ・通信の二本柱に分けて再編成しようというもの。また工場の余剰についても懸案事項としている。(3)事業分野の再構築。エレクトロニクス、エンタテインメント(映画・音楽)、放送・通信・出版事業という3分野に再構築しようというもの。

 その他、気になった部分を抜粋。

  • CEOの4つの責任:(1)企業経営のビジョンを明確に持つこと。(2)これを実行するための仕組みを作り、執行すること。(3)組織の暴走を防ぐための企業統治(コーポレート・ガバナンス)の仕組みをつくること。(4)後継者育成の仕組みづくりと実際の後継者の選択。
  • 盛田氏の言葉:外国に進出するなら、その国のインサイダーにならなければうまくいかないよ。インサイダーになるためには、まず現地法人を作って、その国の人を雇うことだ。雇うからには一流の人。一流の人が来てくれるような会社を作らなければならない。

  • 上からやれと言われている「表の仕事」だけでは面白くない。それはそれできっちりと処理しながら、一方では本質的にいま何が起こっていてどう対処すればいいのかを自分なりに分析する「裏の仕事」をやっておかないと発展が無い。つまり日々のオペレーションと、大局的な流れを見る作業のふたつが必要。
  • 井深氏にVHSをやる旨報告した際に「動画なんてもう今さらどうでもいいじゃないか。なんで静止画をやらないんだ?」と言われた。当時は分からなかったが、デジタル画像のことを言っていたのだと後から気づいた。つまり、同じレイヤーで転換をやるくらいなら、一歩先に進むことで巻き返せばいいじゃないか、というゲキであった。

  • 社長就任時にソニーが真っ先に取り組むべきであった問題:(1)バランスシートが傷んでいる。(2)DVDのフォーマット戦争で無駄な時間を費やしている。(3)ソニー・アメリカのマネジメントをコントロールできていない。
  • 社長就任時に、ソニーの特許はどの部署の誰が出したのかを知りたくなった。ソニーの価値というのは具体的にはどのような人がつくっているのかという興味から。このおかげで沢山の技術者と知り合い、表に出てこないソニーの技術の歴史を学ぶことができた。

  • われわれは変わらなければならない。しかし過去を否定するわけではない。築き上げてきた過去へのリスペクトを持ち、それを礎にして新しい出発をしなければならない。そういうメッセージを浸透させたいという気持ちを一言で表わしたのが「リ・ジェネレーション(regeneration)」 日本語に訳すと再生・再建となってしまい後ろ向きのニュアンスになるので、日本語訳を禁じた。
  • ウォークマンの世界的ヒットを見ながら考えたのは、技術にはストックの技術とフローの技術があるということ。ストックの技術というのはテープレコーダーやラジカセ。これが普及して誰もが録音済みのテープを持っていたからこそ、フローの技術であるウォークマンが生きた。

  • 子会社の上場廃止、完全子会社化は、膨れ上がり続けていたソニーを、シンプルなガバナンスしやすい形に整えるためにどうしても必要なことだった。本体であるソニー株式会社のほかに3つの実質上の子会社が株式を上場していたのでは、資本としては同じ会社が、4つの会社として上場していることになる。1つの価値に対して、違う魅力を感じている株主が4人いるという切り売りの状態は理屈に合わない。
  • 目指していたのはホールディング・カンパニーであり、ソニー財閥。出身がエレクトロニクスであろうが、エンタテインメントであろうが、理系であろうが文系であろうがソニー全体のことを考え、リーダーシップが取れる人が、存分に活躍できるようにするためには、純粋な本社機能をもったホールディング・カンパニーが必要であった。
  • クオンタムリープとは、量子力学の世界の連続線上にないジャンプのこと。地道な練習を重ねていると、あるとき突然、ポンッと上達する瞬間があるが、このような日常我々が経験する飛躍的な成長の瞬間を重ね合わせて考えたもの。
>2007.01.29.MON


△0539 『レバレッジ・リーディング』 >本田直之/東洋経済新報社

 速読ではなく「多読」を推奨しており、興味深い内容。私の理解としては、速読とは「速く」「全体を」読むもの。本書で提唱している多読とは「必要な部分だけを」「多く」読むことである。

 つまり、事前に目次をしっかり見ることで読むべきポイントを定めておき、そこを重点的に読む。逆に言うと、不要と思った部分はバッサリと切り捨てて、「読まない」という選択ができるかどうかである。ここで、金融のプロである山崎元氏が、読書にかけるコストの話をしていたのを思い出した。つまり読書のコストとは、本そのものにかけるお金だけでなく、自分の時間的コスト(時給5,000円の人が2時間かけて本を読めば10,000円)を意識しなければならないというもの。本書の真髄にも通ずると思うが、不要な部分を切り捨て、読書にかける時間を短縮することで、費用対効果をアップさせることができるであろう。

 中でも興味深かったのは「カラーバス効果」というもの。タイトルや目次から、自分が手に入れたい情報を事前にイメージしてから読書をすることにより、必要な箇所が自分のアンテナに引っかかりやすくなるというものである。今日は赤いバスが何台通るかと意識しながら道路を歩くと、普段よりも赤いバスをたくさん見かけるという事象からきているものである。

 特にビジネス書については、本屋でパラパラと立ち読みしてから買うパターンが多いのだが、5分ほど全体を眺めて見たときに、自然に目に入ってくる知識と、購入してからじっくり読んで得る知識に、さほど差がないように感じることがある。これこそが本書で言うところの「多読」なのであろう。

 私自身は、速読法を学んだわけではないが「頭の中で声を出さずに読む」という手法は身につけているつもりである。これによって、小説であればきちんと1行ずる、ビジネス書であれば2〜3行ずつ読むことができる。いわゆるフラッシュ・リーディングと比べるとスピードでは敵わないが、それなりのスピードで読むことが可能である。今後は、購入した本の不要な部分を思い切って捨てる勇気を持てれば、「多読」を実践できるのではなかろうか。

 本書ではまた、読了後の活用が大事だとも述べている。私の場合は、この読書日記が活用の糸口となるのだが、恥ずかしながら書きっ放しであることが多く、あまり過去の日記を読み返していない。少なくともビジネス書については、過去日記を読み返すことで、自分自身が咀嚼できる部分が多いような気がする。せっかく時間をかけて書いた書評であるから、読み返して活用しなければ…。

>2007.01.28.SUN


△0538 『日本の電機産業再編へのシナリオ−グローバル・トップワンへの道』 >佐藤文昭/かんき出版

 簡単に筆者の提案をまとめると、複数ある日本の大手電機メーカーを2つのホールディング・カンパニーに分け、それぞれの事業ごとに、事業を統合していくというもの。研究開発や設備投資などの重複が避けられるし、実現すれば本当に強い日本メーカーが生まれるであろうと、大いに期待できる提案である。

 しかしながら、実際のところ実現は難しいのではないかと感じてしまう。本提案の実現に向けては、現在の各社社長の同意が必要となるが、自社の名前が消えてなくなる可能性のある再編に、首を縦に振れるだけの決断力を持つ社長が何名いるであろうか。総論賛成、各論反対となるのが目に浮かんでしまう。結局自分の在任中はちょっと、と躊躇する経営者が大半ではなかろうか。

 唯一道があるとすれば、政府主導の再編ではなかろうか。例えば、昨今の銀行の再編にどこまで政府が関与していたかは知らないが、多少の介入はあったのではないかと推測する。同様に、大手電機メーカーの再編にあたっても、経済産業省あたりのトップダウンで進めるしかないように感じる。要は、政府に言われて仕方なく、という「お墨付き」かつ「免罪符」が必要ということである。

 また、経営者を外部から招聘すべきという説にも、実現の難しさを感じる。エルピーダの坂本社長は我が国日本においては稀有の存在ではなかろうか。前述の通り、再編そのものにさえ非常な抵抗勢力が存在しそうである中、社長の座まで奪われては、賛同を得られないであろう。となれば、内部からの人選はやむをえないであろうが、少なくともたすきがけ人事のような不合理は排して、真の意味の実力主義とすべきであろう。

 今年の5月から三角合併が解禁となり、日本企業は戦々恐々としてくるであろう。すぐに大型の買収があるとは思わないが、それでなくとも自動車や精密機械くらいしか優位性を保っている企業が少ない日本において、お膝元ともいえる大手電機メーカーがみすみす外資に買収されていく様はあまり見たくはない。生き残りのための決断が迫られている。

>2007.01.26.FRI


△0537 『星を継ぐもの』 >ジェイムズ・P・ホーガン/創元SF文庫

 背表紙あらすじ:月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。

 小松左京の『SF魂』に触発されて再読。海外の小説はあまり読まないのだが、理由はお粗末で、登場人物の名前を覚えるのが大変だから。少し格好をつけておくと、翻訳の場合、翻訳者の完成によって小説そのものの微妙なニュアンスが変わってしまうのではないかと感じている為である。さらには母国語である日本の小説にもまだまだ面白いものが沢山あり、海外に手を出す余裕がない為でもある。ちなみに毎年ウォッチしているこのミスも、このホームページでは国内のものしか取り上げていない。

 そんな中で本書を手にしたのは、椎名誠の推薦文を見て。帯に書かれていたのか雑誌の紹介だったのかは失念してしまったが、椎名誠が自信を持って進めるSFということで購入したのを覚えている。実際に初読の際は、意外なラストに非常に興奮したものである。今回は残念ながら、というか私にしては珍しく結末を覚えていたため、初読の時のような興奮は味わえなかったが、一方で懐かしさに浸りながらの読書となった。

 それにしてもよくできたプロットである。SFと謳いながらも「ルナリアン」の正体とは?というミステリー仕立てにもなっている。様々な仮説から真相にアプローチする手法は非常に科学的であり、つまりは主人公のヴィクター・ハント、ルナリアンの正体を突き止めるプロジェクトリーダーとなり、どんな仮説にも十分な実証がない限り偏重せず、マクロ的視野で真相を突き止めていく。1970年代に書かれた小説ということだが、日本の作家にこのようなプロジェクトチーム的な発想をする人がいたであろうか。仮説と検証という作業が、文化として根付いているように感じた次第。SF小説を読みながらも、こんな風にビジネス小説を読むような感覚に陥ってしまう自分が悲しいような、誇らしいような…。

>2007.01.21.SUN


△0536 『感染』 >仙川環/小学館文庫

 背表紙あらすじ:ウィルス研究医・仲沢葉月は、ある晩、未来を嘱望されている外科医の夫・啓介と前妻との間の子が誘拐されたという連絡を受ける。幼子は焼死体で発見されるという最悪の事件となったにもかかわらず、啓介は女からの呼び出しに出かけていったきり音信不通。痛み戸惑う気持ちで夫の行方を捜すうち、彼女は続発する幼児誘拐殺人事件の意外な共通点と、医学界を揺るがす危険な策謀に辿り着く―。医学ジャーナリストが描く、迫真の医療サスペンス!第一回小学館文庫小説賞受賞作。

 『感染』というタイトルからウィルスが物語の中心かと思って読み始めたが、実際は臓器移植、しかも子供の臓器移植がメインテーマであった。後半部分にかけては豚などの臓器を移植する「異種移植」が取り上げられており、なかなか興味深い内容であった。

 人物の方もメインキャラクターはよく書けている。医師としての責任と子供の父親としての責任。この2つに板挟みにされていた夫・啓介の葛藤を、妻であるウィルス研究医・仲沢葉月の目を通してうまく描いている。しかしながら、主人公と夫との関係は非常にうまく書き込まれている一方で、新聞記者とのやりとりや、刑事たちとのやりとりについては、少し違和感を覚えてしまった。何と言えばいいだろうか、物語に事件性を持たせるために仕方なく新聞記者や刑事を登場させたような感覚を抱いたのである。その分、書き込みも不足しており、いっそのこと刑事不在でもよかったのではないかとさえ感じる。確かに誘拐や放火といった事件に警察が登場しないのも違和感を感じるかもしれないが、応募小説であり枚数制限があったことを考えると、他の部分をもっと充実させたほうがよかったように感じる。

 デビュー作としてこれだけのものが書けるかと問われれば、否。しかしながら一読者としては細かなディテールが気になってしまうのである。読み手というのは気楽なものだ。

>2007.01.20.SAT

苗村屋読書日記 [108]

     



































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