△0065 『症例A』 多島斗志之
△0064 『Twelve Y.O.』 福井晴敏
△0063 『スピカ・原発占拠』 高嶋哲夫
○0062 『そして扉が閉ざされた』 岡嶋二人
○0061 『エトロフ発緊急電』 佐々木譲


△0065 『症例A』 >多島斗志之/角川書店/2001.09.09

 本書はこのミスにランクインしていたので手にした作品。ミステリーと思って読み進めると、しっぺ返しを食う。どんな犯人が出てくるかと期待しながら読んだので、途中で一度投げ出してしまった。この物語は犯人探しではなく、病名探しの物語である。そう思って読み進めると、日本ではまだまだ開発されていないジャンルであり、興味深く読み進めることができた。結論を言うと(ネタバレ)、☆入院患者の亜左美は多重人格者であり、驚くべきことに、女医の広瀬由起までも多重人格者なのである。

 最近は、『マークスの山』や『永遠の仔』など精神障害者またはそれに近い人物の犯行を描くミステリーが多いが、犯罪という装飾なしに多重人格という症例を描ききった作品として価値あるものだと思う。最後尾に列挙された参考文献の数々。筆者の勉強量に圧倒される。振り返って見ると、テーマの重さに読み進めることが困難だったのかもしれない。また、この物語をミステリーと位置付け、世に広く知らしめた宝島社の慧眼にも感服した。軽薄な小説が、芥川賞だの直木賞だのを受賞しているが、この様な一本筋の通った小説こそ、もっと読まれるべきであると思う。

>2003.05.03.SAT


△0064 『Twelve Y.O.』 >福井晴敏/講談社文庫/2001.07.07・2003.04.28

 再読。最初に読んだきっかけは、『亡国のイージス』である。『亡国』の面白さに感服し、たまたま文庫本が出ていたので手に取った次第。前回読んだ時は、『亡国』のイメージが強すぎたためか、さほど面白く感じなかった。そのせいか、ほとんどストーリーを忘れており、再読にもかかわらず、面白く読むことが出来た。最初のうちは、コンピュータ・ウイルスや、飛べないヘリパイ(ヘリコプター・パイロット)など、楡周平作品との共通点が目に付いたが、後半へ進むにつれ、それをも上回る壮大な構想が見えてくる。スパイ物とも言える内容のせいか、やたらと隠語・暗号が出てくるので、ネタバレ覚悟で少々解説を。

 ☆「ウルマ」=理沙のこと。訓練された人間兵器。「トゥウェルブ」=東馬のこと。12才(12 Years Old)から変わり始めた自分の人生を呪ってつけたコードネーム。「アポトーシスU」=軍のコンピュータを無力化するコンピュータ・ウイルス。「BB文書」=東馬の出生にも関わる秘密文書。日米間の関係にも大きく関与している。(米国大統領が東馬の父という事実が隠されている。東馬の母に捧げた大統領直筆サイン入りのブロークン・バイブル) 「GUSOHの門」=沖縄辺野古弾薬基地に隠された秘密兵器。(新エネルギー開発実験の過程で生まれた毒ガス兵器。後生と書いてぐそうと読む。伊良部諸島の民話に出てくる死後の世界のこと) 物語のラストで出てくるあるパスワードは「12」の先にある未来。あたしたちが生きていく世界。「21」世紀は果たして生きるに値する世界足りうるだろうか?☆さりげない一言がセンチメンタルな気分にさせてくれる。

 話は変わるが、作品中に出てきた「沖縄フリーゾーン構想」に惹かれた。もともと貿易を自由化しようだの、税制優遇しようだのと話題に上る沖縄であるが、規制の多い日本だからこそ自由な島があっても良いと思う。独立とまではいかなくとも、日本から少し離れてもよいのではないだろうか? 私は妻と共に大の沖縄好きで、すでに4〜5回は訪れているのだが、毎回心を洗われる。最初に訪れたのが久高島、次が阿嘉島、そして与那国・波照間と、比較的人の少ないところを選んで旅をしてきた。大自然の中、水平線を眺めると、日常の些細な悩み達がすっと消えていく。ああ、沖縄に行きたくなってきた。

>2003.05.02.FRI


△0063 『スピカ・原発占拠』 >高嶋哲夫/宝島社文庫/2001.05.06・2003.05.01

 本書は元・日本原子力研究所所員による原発占拠の物語である。記憶を辿りながら感想を書こうと思ったのだが、楡周平の『クーデター』と記憶が混在しており、再読してみた。こちらはさすがに元研究所員が書いただけあって、緻密でリアルである。そういえば、『クーデター』は原発を狙っただけで、破壊することも中に入りこむこともなかった。そういった意味でもこちらの方が危機的状況を描いているといえる。また、原発と言うと、日本海側にたくさんあるというイメージから、北朝鮮からの攻撃を思い描きがちであるが、本作品はロシアのテロリストによる占拠をテーマにしている。

 主人公の日野は原発に関する技術屋である。彼が敬愛するロシアの学者サリウスがテロに加担していると知り、落胆するが、彼からの手紙によりその苦悩を知ることになる。結局サリウスとしてはチェルノブイリの悲劇を再発させてはならないという警鐘を鳴らすためにテロに加わっていたのだが、いいように利用されていただけで終わってしまう。しかし、サリウスの叫びこそ長年原発に関わってきた筆者の叫びに他ならないと思う。原発を開発する身であった筆者であるから、まっこうから否定はしないだろうが、大きなリスクを抱えているのだよと、我々の耳元で囁いてくれているように感じる。世の中には原発反対を掲げる人も多いが、そんな人に限って電力をばかばか使っていたりするのである。闇雲に反対するのではなくメリットとリスクとをよく考慮して、言うべきところをしっかりと言わなければ、意見として通っていかないだろう。そういう意味でも、危機意識の低い日本に、原発の持つ「リスク」を提示してくれる名作と言えよう。

 東海村の事件や、昨今の東京電力の不祥事など、今の日本に原発を維持していくだけの技術力はないのではないかと思わせることが多い。いや、技術力の欠如と言うより、やはり「危機意識」の欠如なのだろう。この手の本が売れるのに、一向に危機意識が高まらないのは、結局、小説とは虚構の世界だという認識が抜けきらないからだと強く感じた。

>2003.05.01.THU


○0062 『そして扉が閉ざされた』 >岡嶋二人/講談社文庫/1995.10.09・2003.04.30

 一時期、岡嶋二人を読み漁っていたことがある。結婚前で会社の寮生活を送っている頃だ。寮の周りは古本屋が充実しており、文庫本中心のものが3件あったため。全作品を格安で手にいれることが出来た。名前の通り二人で書いていると知ったのは、結構後になってから。中には駄作もあったがコンスタントに面白い作品を書く作家だと思っていた。中でも特に面白いと感じたものが本書『そして扉が』と『99%の誘拐』『クラインの壷』の3作である。奇しくも、本書の解説で島田壮司が挙げているものと同じ、いや偶然ではなく、作品の質から言えば必然であろう。結婚の際の引越しで、ほとんどの作品を手放してしまったが、そのまま持ってきたのもこれらの3作。今回、読書日記を機に、本書を読み返してみた。

 結末を覚えているせいもあり、初読の時に比べるとインパクトに欠けるが、まずは舞台設定がいい。核シェルターという現実離れした設定なのだが、考えてみればこの作品、80年代後半のものである。当時は冷戦の真っ只中、核戦争や第3次世界大戦も空想の世界ではなかった。そんな時代背景もあり、核シェルターに閉じ込められた男女4人。現在の妻の影響で、ちょこちょこと舞台を見る機会があったためか、作品の舞台が核シェルターだけに限定されているという設定に演劇的なものを感じた。今回も同じ感想を持ったのだが、回想シーンを上手くセリフに乗せることが出来たら、一級の舞台になるのではないだろうか? いわゆるフーダニット型の推理小説だが、4人の中に犯人がいない、あるいは4人のうち3人が犯人という設定(ネタバレギリギリ?読んだ人には分かります)がトリッキーで面白かった。推理小説でありながら、大胆な実験小説でもあると思う。

 さて、ご存知の方がほとんどだろうが、岡嶋二人は、井上泉と徳山諄一の二人組みであった。1989年『クラインの壷』を最後に解散してしまったが、一方の井上氏が今、井上夢人と名前を変えて、さらに強力な作品を書きつづけている。毎回新作が楽しみな作家の一人であり、今後も読みつづけていきたいと思っている。

>2003.04.30.WED


○0061 『エトロフ発緊急電』 >佐々木譲/新潮文庫/1998.02.28・2003.04.29

 久しぶりに周五郎賞の作品。本書は真保裕一の言う「縦軸」つまり歴史を舞台とした冒険小説である。真珠湾攻撃の情報を得るため日本に潜入した、日系人スパイ、ケニー・サイトウ。彼を取り巻く人々を通じて、戦時下の日本を描いている。前半は米国でスパイとしてスカウトされたサイトウを描き、中盤で日本への潜入と諜報活動、ラストは択捉島へ渡ってからの、ゆきとのラブロマンスと機密情報発信で括っている。目まぐるしく舞台が変わるため、600ページというボリュームを感じさせず、一気に読めてしまった。日系人ということで日米の狭間に立ち、クールにかまえながらも自分のアイデンティティを追い求めるサイトウの様が見て取れる。また、ヒロインのゆきもロシア人との混血で、日本という国を覚めた目で見ているように感じた。色々印象的な人物たちが登場するが、私が一番感情移入したのは牧師のスレンセンである。聖職に就きながらスパイという相反する行為を続ける男。その陰には南京大虐殺で日本兵に恋人を虐殺されたという暗い過去がある。彼もまた牧師とスパイというどっちつかずの世界に暮している。

 話は変わるが、作中に出てくる盛田という青年。スレンセンに無線を作ってやるのだが、これはソニーの盛田昭夫のことだろうか? どこかでそんなことが書いてあるのを読んだ記憶があるが定かではない。時期的にはマッチするので筆者の遊び心かもしれない。また、真珠湾攻撃については米軍が事前に察知していたという説を良く聞くが、真実はどうなのだろう。結果として攻撃は成功したといえるのか? 最終的に日本は敗戦しているのだから大局的に見ると失敗だろう。何事もそうだが、一部分が上手くいっているからといって、全てがOKとは言えない。人間は追いこまれると良いところだけを見ようとする傾向がある。悪い情報こそ早く耳に入れなければならない。不況が長引く中、「敗戦国日本」に学ぶことは多いように思う。

>2003.04.29.TUE

苗村屋読書日記 [13]

     



































[PR]ベビー用品はたまひよ♪:子育てが楽しくなる便利アイテムいっぱい