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△0070 『ハサミ男』 殊能将之
△0069 『ストロボ』 真保裕一
◎0068 『半落ち』 横山秀夫
△0067 『行きずりの街』 志水辰夫
△0066 『怒涛の厄年』 三谷幸喜


△0070 『ハサミ男』 >殊能将之/講談社文庫/2003.05.09

 結構楽しんで読むことが出来た作品。最初の100ページくらいで、多重人格者の別人格が真犯人かと思ってしまった。まんまと騙されたわけだが、叙述トリックあり、警察小説的な要素ありで、面白かった。まず、叙述トリックの部分だが、(以下ネタバレ注意。『慟哭』のネタにも触れています)☆『慟哭』が1人を2人に見せかけているのに対して、『ハサミ男』では2人を1人に見せかけるトリックを使用している。☆こういったトリックは余程注意していないと見ぬけないので、少々ずるいなとも思うのだが、読み返すとちゃんと伏線が張ってあったりすると、やられたと思ってしまう。今回はいい意味でだまされた作品だった。また、叙述トリックだけに頼らず、きちんと警察内部の葛藤や捜査を進めていく過程も描写されており、文体だけ読むと軽く感じる小説なのだが、重厚な部分も垣間見える作品となっていた。特に、『マークスの山』とは比べ物にならないにしても、主人公以外の刑事についてもよくキャラクターが書きこまれており、それぞれの性格に合わせた捜査方法を展開している点も評価したい。

>2003.05.09.FRI


△0069 『ストロボ』 >真保裕一/新潮文庫/2003.05.08

 本書は連作短編集といった感じの作品。いきなり第5章から始まり、フィルムを巻き戻すように主人公が若返っていく。一番のお気に入りは第2章の「一瞬」。主人公の恋人が一枚の写真を見て涙が止まらなかったというシーンで泣いてしまった。フィクションにもかかわらず、この主人公が取った写真を見てみたいと思ってしまった。たまたま私の今の年齢が主人公と同じ31歳だったこともあり、仕事への取り組み方などを考えながら感情移入してしまった。何者かになりたいという一所懸命な思いが、空回りして恋人を失ってしまうが、得たものも大きかったと思う。何日も病院に通う粘り強さ、納得のいく仕事をするまで諦めない根性、いつもカメラのことばかり考えているというひたむきさと集中力。今の自分にかけているものが無いかと自問自答してしまった。

 主人公が過去を遡っていくという手法が面白いと思ったが、作者はもっと周到であった。あとがきに書かれている本書の種明かしを読んでははぁと唸ってしまった。ミステリーを意識して書いたと言うだけあって、それぞれの章で涙を誘われながらも、日常に潜む小さなナゾが解き明かされていくという小さな楽しみがあり、すらすら読めた作品であった。しかし、難点をいうと「泣かせよう」という意識が勝ちすぎたことか。5章立てのうち4つの章で人が死んでいる(連続殺人事件ではない)。泣かせてやろうという作者の意図を感じて、実際に涙をこぼしたのは第2章だけであった。死を介さずにハート・ウォーミングなストーリーにした方が好感を持てただろうし、そちらの方が泣けたかもしれない。

 本書をきっかけに、今まであまり意識することの無かった「写真」についての認識を変えることができた。私は映像よりも活字派なのだが、一枚の写真が持つ力を感じることができたように思う。『半落ち』ででてきたペンの力と、本書で出てきた写真の力。結局は発信元の思いがどれだけ強いかによるのだと思う。強い思いで仕事に取り込まねばと思わせてくれる作品であった。

>2003.05.08.THU


◎0068 『半落ち』 >横山秀夫/講談社/2003.05.06

 このミス週刊文春のダブルNo1は伊達ではない。久しぶり読書欲をくすぐる一冊。続きが気になって仕方なく、一気に読み終えてしまった。私が感じたテーマは2つ。「生きる意味」と「個人vs組織」である。まず、検事の佐瀬にある被疑者が「検事さん、あなたは誰のために生きているのですか・・・」と問うシーン。自分自身に問いかけられている気がする迫真のセリフであった。また、本書は警察官、検事、新聞記者、弁護士、判事、刑務官と犯罪に携わる人々の様々な視点から物語を進めているが、それぞれに共通するのが組織への抵抗である。それぞれが正義感に燃え、個人としてギリギリの線まで組織に抵抗する。1つの犯罪を様々な視点から眺めるというのは、高村薫の『レディ・ジョーカー』でも言っていたが、今回は各章毎に主人公が交替し、より鮮明に視点が入れ替わる。しかし、最初の章に出てくる、志木が一番印象的であり、全編を通じて登場する。ラストでも重要な役回りを演じており、彼が主人公といっても過言ではないだろう。各章の主人公同士の繋がりも無理が無く、前の章で次回の主人公をチラリと匂わすあたりも旨いと思った。

 『レディ』でも感じたが、新聞記者というのは過酷である。常に特ダネを追い求め、1回抜いてもまた次を狙わなければならない。せっかくの特ダネも世間では次々に入ってくる新しいネタに押し流され、忘れられてしまう。夜討ち朝駆けとはよく言ったもので、非常に大変な仕事だと思う。そんな中、刑事部長が放った言葉が印象的だった。「報道は自由だ。だが、君らのペンが幾つもの命を握っていることは忘れんでくれ」 しかし、新聞記者の中尾はその言葉を受け止めることができなかった。ここでもまた、組織という大きな波に飲み込まれもがいている一個人を見たような気がする。

 介護問題も深刻である。痴呆症の父親を抱える判事の藤林とその妻のやり取りには涙を誘われた。妻が語る介護の苦しみや、梶の犯した罪が実は優しさから来ているのではないかという洞察には驚かされたが、一方で藤林が妻に対して抱く、感謝の念、親父を殺さずにいてくれてありがとうという、人間としては当然の思いも印象的であった。

 喫茶店で読んでいたにもかかわらず、ラストでは思わず泣いてしまった。しかし、冷静に考えるとなぜ梶はなぜあそこまで空白の2日間について黙秘を続けたのだろうか? 最初からずっと気になっていたので、拍子抜けする思いもあった。ところで本作品は直木賞候補になりながら落とされてしまったそうである。落選理由がネタバレなのだが、某誌の記事によると、☆受刑者がドナー登録をすることが出来ないのだそうだ。☆確かに法律と矛盾しているというのはまずいのかもしれないが、直木賞という文学賞に、そのような問題が関係するのだろうか? 練りこまれたプロット、登場人物たちの内面をえぐる力強い筆致。人々に感動を与えるラストシーン。どれをとっても文学としては一級品である。申し訳ないが昨今の直木賞受賞作を見ていると審査員の力量を疑ってしまう。矛盾を承知であえて受賞させても誰も文句は言わないと思うのだが・・・。

>2003.05.06.TUE


△0067 『行きずりの街』 >志水辰夫/新潮文庫/2003.05.05

 本書は1992年度このミスの第1位作品である。志水辰夫という作家の作品を読むのも初めてで、期待して読み進めた。しかし、10年前に書かれた作品というのを差し引いても、期待通りとはいかなかった。ミステリーというよりもハードボイルドのテイストが強い作品であり、元教師の普通の主人公が、獅子奮迅の活躍をする。主人公の弱さも魅力の一つなのだろうが、これだけ事件が起こっているのに全く警察が出てこないというのに、違和感を感じた。教師と2人の教え子という関係はなかなか面白い設定だったが、12年もの歳月を一瞬にして埋めることが出来るのかも疑問だった。また、行方不明の教え子を探すためとはいえ、主人公のモチベーションがもう一つしっくりいかない気がした。期待が大きすぎたためか、批判的なことばかり書いてしまったが、最後にもう一ひねりあると面白みが増したと思う。

>2003.05.05.MON


△0066 『三谷幸喜のありふれた生活2・怒涛の厄年』 >三谷幸喜/朝日新聞社/203.05.04

 三谷幸喜は妻から紹介された脚本家。今まで、舞台など見たことも無かった私が、見事にはまってしまった。本の感想を書く前に、妻と一緒に見に行った舞台の感想を記してみたい。

 『笑の大学』 実は一番好きな作品。これを最初に見たことで三谷幸喜にはまってしまった。西村雅彦と近藤芳正という名優がたった二人で、しかも一つの部屋を動かずに、あれだけの笑いを紡ぎ出せるということに驚いてしまった。もちろん上演中は笑いっ放しだったのだが、終わった後に感じたのは「驚愕」であった。近藤芳正が演じるのは、戦時中の様々な規制の中、舞台を成功させようとする座付きの脚本家。一方、西村雅彦は不謹慎な笑いを排除しようとする検閲官である。舞台の何たるかをまったく知らない検閲官に対して、脚本家が説明を行うことにより、素人の私にも分かりやすい話となっていた。説明臭くなく、セリフの中で自然に時代背景や舞台の世界を思い描かせてしまうあたりはさすがである。最期にはちょっとセンチメンタルなテイストもかませ(少し涙ぐんでしまった)、そうかと思うと突如下ネタを連呼しながら幕が閉じていくのは、三谷幸喜一流の照れだろう。

 『君となら』 斉藤由貴主演のコメディ。おじいちゃんといってもおかしくない年上の男性との婚約話を描いたもの。斉藤由貴が家族に婚約者の年齢を言い出せなかったり、婚約者の息子が斉藤由貴に一目ぼれしてしまったり、というシチュエーションが次々に笑いを生んでいく。つじつま合わせが合わさらなくなり、もう駄目かと思った瞬間「奇跡的につじつまが合って」いたりするからたまらない。事前にテレビ放送を見ていたのだが、それでも思いっきり笑ってしまった。

 『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』 伊東四朗、角野卓造、沢口靖子などそうそうたるメンバーだったのだが、『君となら』とテイストが似ている感じがして、目新しさを感じなかった。もちろん上演中は大笑いさせてもらったのだが、三谷幸喜に対する期待が高すぎたせいか、私の中の評価はもう一歩といったところ。それにしても、伊藤四郎は素晴らしい役者である。

 『彦馬がゆく』 江戸幕末期、浅草の写真師・神田彦馬を中心に、歴史上の人物たちが繰り広げる人情喜劇。午後から会社を休んで見に行ったのでよく覚えている。しかし、席が後ろの方で、役者の表情があまり見えなかった為、なんとなく消化不良で終わってしまった。また、登場人物が多く、それぞれに見せ場を作ろうとしすぎているような気もした。三谷幸喜は少人数の芝居の方が得意なのではないだろうか?

 さて、本の感想であるが、自分で読書日記をつけているだけに、非常に参考になる作品であった。誇張もあるのだろうが、自分の日常をこうも見事に笑いに転換するというのは、やはり才能なのだろう。一番笑ったのは、三谷のお母さんがどんぶり一杯の血を吐いて入院したときのこと。お母さんが「ウチのどんぶりは小ぶりですから・・・」本当か嘘か知らないが、抱腹絶倒してしまった。よく、泣かせるよりも笑わせる方が難しいというが、確かにそうだと思う。少し手馴れた作家にとっては、「死」「子供」などのキーワードを上手く散りばめれば、泣かせることなど朝飯前ではないだろうか? それに比べると笑いというのは泣きよりも個人差が激しく、難しいだろう。

 そんなエッセイだが、2箇所で泣いてしまった。1つ目は『You Are The Top 〜今宵の君』の上演直前に、主演予定だった鹿賀丈史が倒れてしまい、急遽、浅野和之が代役として出ることになった時のシーン。初日を無事終えたとき、共演した戸田恵子が感極まって泣き出したという場面でつられて泣いてしまったのである。プロとしての自覚と困難を乗り越えた達成感からだと思うが、今自分は泣き出すほどの仕事をしているかと自問してしまった。その後の浅野さんのセリフもかっこいい。「僕はまだ台詞を言っているだけです。まだまだこれからです」

 もう1箇所は伊藤俊人氏の逝去の場面である。もともと、『君となら』や『古畑任三郎』の時から注目していた役者さん。妻など熱狂的なファンで、西村雅彦よりも味があっていい役者だといっていた。伊藤くん、伊藤くんと面識も無いのに友達のように呼んでいたので、新聞記事で逝去のニュースを聞いたときは呆然としてしまった。最期は『ショムニ』が遺作のように扱われていたが、もっとクオリティの高い作品に沢山出ているし、三谷が言うように、これから味が出てくる役者であった。今更ながらご冥福を祈りたい。

>2003.05.04.SUN

苗村屋読書日記 [14]

     



































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