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△0095 『盤上の敵』 北村薫
△0094 『社長の覚悟が会社を変える』 岸永三
○0093 『第三の時効』 横山秀夫
△0092 『プラナリア』 山本文緒
×0091 『肩ごしの恋人』 唯川恵


△0095 『盤上の敵』 >北村薫/講談社文庫/2003.06.05

 いい意味で期待を裏切られた作品。まず、タイトルに騙された。チェスの勝負の話だと思って読み始めたら、寓話風にするための工夫だという。次に、作者の冒頭の挨拶。自分で物語の内容に触れて、「読むな」と警告するのは異例だと思う。第一部を読み、主人公がテレビ局勤めだということで、ドッキリカメラ風の作品かと勘違いしたし、男性の目と女性の目の二人の視点から書かれていることから、叙述トリックではないかと疑ったりもした。考えながら読書をするのが目標だが、今回ばかりは考えすぎてしまった。

 さて、結局は非常に正統派の作品。テーマが重い割には文体が軽く、どうせならもっと重厚な仕上がりにしても良かったのではないかと思う。しかし、日常に転がっているミステリーなどを好んで書いてきた筆者であるから、雰囲気まで重くはしたくなかったのであろう。自分の読者層を知っており、彼らに対する気遣いを見せつつ書いているように感じた。しかし、敢えて言うなら、そういった気遣いを取り払って、思い切って方向転換をするのも必要なのではないかと思う。作品によって、作風を使い分けても良いだろう。宮部みゆきなんかは、社会派ミステリー、SFミステリー、歴史ミステリーと3つの顔を使い分けているではないか。

>2003.06.05.THU


△0094 『社長の覚悟が会社を変える』 >岸永三/日本実業出版社/2003.06.03

 サンデープロジェクトで取り上げた、伊藤忠の変革を、本にしたもの。ほとんどテレビは見ないのだが、こんな内容だったら見てみたかったと思わせるほど面白かった。どこの企業でも抱えている閉塞感を見事に打ち破った、丹羽宇一郎という経営者に、心底脱帽。彼の人となりを表す文章がいくつかあるが、印象に残ったのは「絶対に逃げない」というもの。これは簡単そうで余程の実力と自信がないと出きるものではない。

 第7章では丹羽氏本人にスポットを当てているが、そこに出てくる彼の言葉を抜粋。「自分で自分を評価する人は不満が高じて、ある段階で努力することを止めてしまいがち」「サラリーマンの実力は同じペースで伸びるものではありません。努力を続けていると、ある日、突然、一段上がる感じで飛躍するのです。(中略) 飛躍の日まで絶対に諦めないことです」「相場での経験は、世界で何か出来事があると、それが相場や経済にどう影響するかという視点、感覚を養うのにプラスとなり、経営者としてものを見る時に大いに役立っている」

 第5章の全社員総会の模様は圧巻だった。普段、私自身が感じている不満に対して、丹羽氏が見事に答えを出してくれた。
Q:社内向けの内向きの仕事が多く、社員の力が外に向かっていないと思う。 → A:会社はものすごく官僚化している。社内の書類作成に労力を使うのは無駄だ。書類を3割減らしたり、会議では直接担当者から報告するなど、色々試そうと思う。
Q:経営陣の中に、事業会社を一段低く見る考え方が多い様ですが。 → A:将来は事業会社をベースにした経営になると思っている。現時点でも、個々の事業会社を強くしていくことが緊急の課題で、本社が上だなんて考えは全くない。
Q:本社で不要な人材が事業会社に行って、当然のごとくポジションが与えられている。 → A:部課長は若い方が良いと言うことがあるが、だからといって、若手が中高年より人間的に優れていると言えるか? 若手には情熱、気力、チャレンジ精神がある。中高年社員には人脈、信頼などがある。お互いにないものを補って欲しい。
 答えにくい質問にも逃げずに真摯に答えている姿には心を打たれた。一体どれだけの人間がこの様な質問に対する解答を持っているだろうか? 日頃から問題意識を持っていなければ、簡単に答えられる問いではない。

 最後のインタビューでは、これぞ経営と思わせるような判断、発言に接することが出来た。まず、4,000億円を一括処理する時の判断理由。「これまで何回も損失処理をしてきており、社員にしてみると、またか、と疑心暗鬼になってしまう。それならば、もうこれで終わりですと言い切る方が、前向きに仕事が出来ると思った」 前任者のしがらみを断ち切って経営改革した時には「会社が危機的な状況の時に、先輩の経営者達が自分をどう見るのかなどということを考えても仕方ありません。会社や社員にとって何が一番良いことであるかを考えれば、先輩がどう思うかなどということは気にならないはずです」

 丹羽氏は更に言う。商社不要論に対抗する為、現場主義を貫き、川上から川下まで主体性を持って関与することと。耳が痛い話ばかりで、大いに反省。まだまだ頑張りが足りないと痛感。

>2003.06.03.TUE


○0093 『第三の時効』 >横山秀夫/集英社/2003.06.02

 連作短編集というのだろうか、F県警捜査第一課を舞台に、一連の登場人物が物語を繰り広げる。一班の朽木、二班の楠見、三班の村瀬という個性派の班長を抱える捜査一課は最強軍団とも呼ばれるが、班どうしの確執はすさまじく、お互い競い合うことにより高い検挙率を保っている。6章立てだが、どの章も素晴らしいので、全てについて感想を述べたい。

『沈黙のアリバイ』…第1章ということで軽いジャブのような作品。個人的にはさほど面白いと思わなかったので、横山秀夫も最近は作品を出しすぎて質が落ちたかなと思ってしまった。結局、全編を通じて一番たいしたことのない作品だった。という訳で特に感想無し。

『第三の時効』…表題作でもあり、さすがになかなかの出来映え。ラストのウルトラC的なトリックも面白かったし、どんでん返しも意外だった。結末に至るまでの伏線も十分で、短編とは思わせない重厚な作品だった。また、楠見の人物描写がいい。はっきり言って好きなタイプではないが、この様な粘着質なタイプの人間を書くのは難しいのではないだろうか? むしろ論理的で刑事の中の刑事といった雰囲気の朽木の方が描写はしやすいだろう。その楠見が持ち前の粘り強さで事件を解決していく。ラストは、そこまで周到に準備していたのかとちょっと白けてしまったが、許せる範囲。

『囚人のジレンマ』…心理学に出て来る囚人のジレンマを実際に利用して、犯人を落とす楠見。その後ろで、3人の優秀だがアクの強い部下に囲まれ、部下とのジレンマに悩む、一課長の田畑。2つのジレンマの対比が面白く、こういう遊び感覚を捨ててしまったら、作家は駄目だろうなと思った。ラストも、退官間近の先輩に花を持たせるあたりがニクイ。本書のナンバー・ワン作品だった。

『密室の抜け穴』…天才型の三班班長、村瀬が登場。時間差で2つの卵を生み、強い方が生き残るという、生まれた時から熾烈なサバイバル競争を演じるイヌワシの卵を比喩にして、刑事たちの出世競争を描いている。まさかと思うようなラストだが、この様な足の引っ張り合いはどこの組織にもあるだろう。話しの筋は面白かったが、何だか嫌な側面を見た思いがして、後味の悪い作品だった。

『ペルソナの微笑』…一風変わった作品で、一風変わった矢代という刑事が活躍する。幼い頃、騙されて犯罪の片棒を担がされたトラウマをバネに、刑事になった男。班長の朽木にはその秘められた屈辱を買われて、抜擢された。表面では笑顔を装いつつ、一本筋の通った若者。飄々と、というわけではないが、何となく真似のしたくなるキャラクターだった。

『モノクロームの反転』…題名がネタバレなのでマイナス1点。一家3人を惨殺した事件のため、異例の三班・一班合同捜査となる。必然的に村瀬と朽木の競り合いになるのだが、このあたりのテンポのいい責めぎあいが面白かったので、1点回復。ラストページのセリフにジーンときてプラス1点。朽木の背中に男気を感じた。

 全体を通して、人物描写が秀逸。最後の作品を除いて、タイトルもいい。やはり、昨今のミステリーは人物が書けないと駄目だと思う。永遠の名作『マークスの山』以降、私の中では本作品にも共通する、刑事たちの地道な捜査や、刑事どうしの確執などが面白くて仕方がない。寡作の高村薫に比べて、コンスタントに作品を書きつづけてくれる横山秀夫には感謝したい。でも、書き過ぎで筆を乱さない様お願いします。

 さて、久しぶりにテレビを見ていたら、ある殺人事件で、民事では有罪になった被告が、刑事で無罪になったというニュースをやっていた。真偽のほどは不明だが、疑わしきは罰せずということで、無罪になったそうだ。本当に無罪であれば、冤罪というのはあってはならないことなので、めでたしめでたしだが、今回の事件はどうも腑に落ちない。たまたま『第三の時効』を読み終えた直後だったので、この本に出てくるような有能な刑事がいたらどうなっていただろうと考えてしまった。現職の刑事さん達が無能というのではないが、実際はどうなのだろうか? 虚構の世界では、刑事どうしの確執を描きながらも、それぞれが優秀で、事件も解決に至っているので救いがあるが、無能な刑事達の、確執ばかりの世界だったら全く話として面白くない。日本の治安も徐々に悪くなってきているので、ぜひとも警察には頑張ってもらいたい。

>2003.06.01.SUN


△0092 『プラナリア』 >山本文緒/文藝春秋/2002.05.15

 これも妻本。唯川恵とテイストは似ているが、私としては、山本文緒の方がよっぽど好きである。本書は短編集だが、読み飛ばしたせいか表題作しか記憶に無い。その『プラナリア』だが、24歳の若さにして乳癌で乳房を失った女性と、切っても切っても再生するプラナリアとの対比が、妙に生々しかった。自虐的な主人公と、彼女をささえる恋人。軽いテイストで書かれているが、乳房を失った女性のやるせなさや、なげやりな感じがうまく描かれている。

 短編というのは、書くのも難しそうだが、批評をするのも難しい。短編集にいたっては、気に入ったものだけを取り上げればいいのか、全作品に触れた方がいいのか、悩むところである。そんなワケで、ずっと短編集は取り上げてこなかったのだが、さけては通れない道なので、ちょっと練習。今回は、1年前に読んだということもあり、記憶に残っている表題作のみを取り上げた。別に、ルールなど必要ないのだが、面白いと思った短編集は全作品を、つまらなかったものについては、一番出来のいいものを取り上げていくことにしたい。

>2003.06.01.SUN


×0091 『肩ごしの恋人』 >唯川恵/マガジンハウス/2002.05.13

 妻が仕事の参考にと買った着た本を、私が先に読んでしまった。感想を聞かれてつまらなかったと答えたのを覚えている。その後、妻がこの本を読んだかどうかは定かではないが、これが直木賞受賞とは吃驚である。なぜ、『半落ち』が駄目で、これがいいのか理解不能。女性としての生き方がテーマなのだろうが、非常に軽く感じてしまった。きちんとした女性はもっとしっかり生きている。『女たちのジハード』を見習って欲しい。そういえば、会社のシステムがまだ落ち着いていないのだが、そんな状態でコンサルタントの女性が、海外旅行に出かけてしまった。さすが外資系と吃驚し、呆れたが、こんな人がいるから、女性はやっぱり・・・と言われてしまうのだ。最初から腰掛のつもりで働いているのならいいが、一応、総合職として頑張るつもりのようなので、さらに頭に来る。ヤル気の無い人と無責任な人はとっとと辞めて貰いたい。

>2003.05.31.SAT

苗村屋読書日記 [19]

     



































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