◎0100 『マイナス・ゼロ』 広瀬正
○0099 『GO』 金城一紀
△0098 『動機』 横山秀夫
○0097 『ダブルオー・バック』 稲見一良
○0096 『勝利のチームメイク』 古田敦也他


◎0100 『マイナス・ゼロ』 >広瀬正/集英社文庫/1995.04.16・2003.06.12

 ついに100冊突破である。約4ヶ月で100冊だから結構いいペースではないだろうか? まぁ今までは過去の蓄積もあったので、何とかいいペースで更新できていたが、これからはそうも行かないだろう。気合を入れなおして再スタートである。せっかくの100冊目なのでお気に入りの本を紹介したいと思い、再読したのが本書『マイナス・ゼロ』である。最初に読んだのは高校生のとき。当時はまっていた星新一がエッセイか何かで絶賛しており、手にしたものである。その後、社会人になりたての頃に読んで、今回は3回目。最後のネタを知っているにもかかわらず、楽しく読めた作品である。いわゆるタイムマシンものでSFというジャンルに属すると思うのだが、ミステリーの要素も色濃く、今ならばこのミスの上位に食い込んだに違いない作品。文庫本も出ているので、未読の方にはぜひとも読んでいただきたい作品である。

 さて、舞台は戦時中の昭和20年に始まる。主人公の浜田俊夫14歳の戦争体験が導入。そして18年後(タイムマシンで行ったのではなく、普通に年月を経て)32歳となった浜田が、タイムスリップを経験していくのである。最小限の登場人物で構成される物語は舞台を見ているようである。しかも登場人物の一人ひとりが魅力的で、物語を一層引き立てている。また、昭和初期の古きよき時代も描いており、解説で星新一が当時の懐かしさを語っている。これは、先日読了した『GO』で私が感じたものと同じではないだろうか。これらの人物描写や街の風景の描写に熱が入りすぎ、若干冗長さが出ているが、400ページ超の大作にもかかわらず、一気に読めてしまう面白さである。最初に読んだときには、それこそ寝る暇も惜しんで読み終えたものである。

 改めて読んでみると、ラストのどんでん返しには私の嫌いな偶然の要素も結構入っていたが、これはタイムマシンというパラドックスを生み出す機械によって作られた必然であると納得してしまった。また、主人公の浜田が勤める電機メーカーというのが、当時の東京通信工業(現ソニー)ではないかと思わせるシーンがあり、思わずニヤリとしてしまった。更には、物語中に筆者まで出てきており、遊び心満載である。読了後、パラパラと本をめくっていて、作品が昭和45年に書かれたものであることを知った。私の生前の作品である。現在でも充分通じる面白さであり、いい小説というのはいつまでったっても色あせないものだということを感じさせられた名作であった。

>2003.06.12.THU


○0099 『GO』 >金城一紀/講談社文庫/2003.06.11

 ポップな文体、リズムのいい文章。それでいて、考えさせられるテーマ。在日韓国人の男の子と日本人の女の子との恋を描いた作品であるが、背景には差別問題が潜んでいる。しかし、それを暗くならずに、あくまでも明るく書きとおしたところにこの作品の意味があると思う。まずは、純粋なラブ・ストーリーとして読ませ、その後、興味のある人は差別問題のことをちょっとでも考えてくれたらいい、というのが作者の意図ではないだろうか?

 この作者は1968年生まれで、2000年に本作品で直木賞を受賞している。計算すると32歳のときの作品ということになる。私自身が今31歳ということもあり、同じ世代の人がこれだけ頑張っているのを見ると、嬉しい反面、ちょっとばかし嫉妬を覚える。それはさておき、舞台となっているのは恐らく作者が高校生の頃だろう。ということは私が中学生の頃。作品中に出てくる、音楽や映画が、自分の中・高生時代のものと重なっており、ノスタルジックな気持ちにもさせられた。先日、東野圭吾の『あの頃ぼくらはアホでした』を紹介したとき、知人が、自分の生きてきた時代とマッチしていて非常に面白かったと絶賛していたと書いたが、その意味がやっとわかったような気がする。

 本作品は父と子の物語でもある。元ボクサーの破天荒な父親だが、息子のためにハワイへ行くことを口実に、朝鮮籍から韓国籍に転向したり、息子のためを思って、本気で殴りかかったり。タクシーを止めての決闘のシーンはすがすがしいものを感じた。父親というのは男にとっては乗り越えなければならない壁だと感じることがある。私も高校生の時には親父のことが嫌いでたまらなくなり、家を出たい一心で地方の大学を受験した。開放感に包まれた大学生活を終え、社会人になって初めて、親父の苦労を知った気がする。今では、親元を離れて10年以上たつので、あまりそういったことは意識しなくなったが、父親といえども人間だということを知った気がする。

 さて、本書には哀しい死が1つある。そのシーンを電車の中で読んでいたのだが、鳥肌が立ち、背中が痺れたような感覚に陥ってしまった。普段はミステリーを読むことが多いせいか、こんな感覚は久しぶりだった。電車の中だったので泣くに泣けなかったのだが、何となく落ち込んでしまった。虚構の世界なのだろうが、作者の体験談的な部分も多いと感じていたので、もしかしたら、実際にあった理不尽な死なのかもしれないと思うと、一層哀しくなってしまった。

 いろいろ盛りだくさんの本書であるが、ラストはハッピーエンドである。恋愛小説として読むもよし、差別問題や親子問題を考えるために読むもよし。お薦めの一品である。

>2003.06.11.WED


△0098 『動機』 >横山秀夫/文春文庫/2002.11.10・2003.06.09

 最近、続けて横山作品を読んだので、再読してみた。最近の作品を読んだせいか、再読のせいかは分からないが、表題作を除くと、それほどでもないと感じてしまった。全部で4編あるので、ひとつずつ紹介していこう。(最近、BBSに辛口とのコメントが多いので、気を遣ってしまう。まぁ、自分のスタイルなのでこのままで行きますが・・・)

『動機』・・・一括保管した警察手帳が紛失する話。これは面白かった。と同時に、人の優しさにジーンと来た。世の中には自分のために責任逃れをする人は多いが、他人をかばおうとして嘘を付く人は少ないのではないだろうか。そもそも他人のために嘘を付くということは、自分にとってはリスクなのだから。本作品には2つの暖かい嘘が出てくる。嘘を付いた人も立派だし、その嘘をかばおうとして更に嘘を重ねた人も立派。読んでない人にはなんのこっちゃというような感想になってしまったが、まぁ、この章だけでも読んでください。

『逆転の夏』・・・全体を通じて重苦しい作品。犯罪を犯した主人公が、刑期を終えて出所してくるのだが、職場で上司とうまくいかない。そんな折にかかってくる、殺人依頼の電話。最後のトリックはさすがだが、ちょっと凝り過ぎの感あり。以下ネタバレ注意。『13階段』のネタにも触れています。☆まず、保護司に悪意があると言う点、そして、保護司がその立場を利用して、出所してきた人間を罪に陥れようとする点。全く同じではないが『13階段』との共通点が多い作品である。時期的には横山の方が先に書いているが、作品としては『13階段』の方が上だと思う。

『ネタ元』・・・筆者の新聞記者時代の経験を元に書いた作品か。『半落ち』でも見せた、事件記者の苦悩が伺える。男性社会の日本で、女性ならなおさらである。記事を追うことに追われ、人間としての常識を失っていく様が怖い。

『密室の人』・・・こちらも女性にスポットを当てた作品。夫が裁判官なのだが、審議中に居眠りし、更には妻の名前を寝言で呟いてしまう。考えてみると、この作品もちょっとした動機について書いている。殺人と言った大仰な事件は出てこないが、日常の家庭生活に潜む暗部をサラリと描いた作品。ちょっと偶然に頼りすぎている部分があり、不満が残ってしまった。

 やはり横山秀夫は警察小説がうまいのでは。まぁ、警察だけでなく、検事や判事の目から事件の真相を追うというスタイルをとっている『半落ち』の成功は、これらの短編で培った筆力の成果なのかもしれない。

>2003.06.09.MON


○0097 『ダブルオー・バック』 >稲見一良/新潮文庫/2003.06.08

 なかなか凝った造りの連作短編ハードボイルドである。シャクリと呼ばれるポンプ・アクション6連発銃のウインチェスター・M12。この銃が数奇な運命をたどり、4人の男たちの手を渡っていくのだが、これら4人の話を綴った作品。第1章は腰だめでクレーを打つ達人、第2章は都会の生活を捨てた父親、第3章はあくどい養豚業者、第4章は北朝鮮のスパイ。それぞれが1つの短編として楽しめるだけでなく、各章の間に入る断章により、次の物語への期待が膨らむ。シャクリの持つ特徴を充分に活かしながら、進められていく各章が心地よい。特に気に入ったのは第2章の『斧』である。冒頭から「斧という字の中に父がいる、ということに今頃気付いた」とシャレた文章である。書き出しの通り、父と子の話なのだが、父親がそれとなく息子に伝える野生生活の知恵が、最後に少年を守ってくれるという、伏線に感心してしまった。特に象徴的だったのが、どうしようもない局面に立たされたとき、じっと待つこと、じっと堪えることが最も懸命な選択肢だという言葉。結局、この言葉に少年は救われるのである。

 この、『斧』と比べると、他の3章はさほど面白いと感じなかった。設定や構成は面白かったが、いかにもハードボイルドという感じが好きになれない。そういいつつも、この『斧』だけで"○"を付けてしまいたくなる。そんな作品集だった。

>2003.06.08.SUN


○0096 『勝利のチームメイク』 >岡田武史・平尾誠二・古田敦也/日本経済新聞社/2003.06.07

 一流選手・監督たちによる一流の対談である。いかにチームを強くするかということに主眼を置いた会話なのだが、いかに組織を強くするかという、ビジネスの世界にも通ずるものがあり、非常に刺激を受けた。岡田・平尾・古田の3人が、それぞれ2人ずつで対談していく形式で、特に平尾×古田の章が面白かった。

 まずは、古田の言葉から。「やればできるという言葉をよく聞くが、実感しないとわからない。実感すると”できる”ということを信じられるようになる。”奇跡は信じていても必ず起こるものではない。でも、信じない者には起り得ない”」 私は学生時代にボート部に所属していたのだが、4年生の夏、最後のインカレで大敗した後、放心状態になってしまった。しかし、不思議なことに初めて悔し涙を流さなかった。最後の夏ということで出来る限りの努力をしたつもりであり、満足感があったからだと思う。しかし、最終日に、優勝チームがゴール直後に拳を天に向けて突き上げているのを見て、本当に自分はベストを尽くしたのかと自問自答してしまった。彼らは日本一を目指して練習してきたからこそ、そうなれたのであり、予選突破を目指して練習してきた我々とは、最初から目指すところが違っていたのである。当時は大して強くなかった母校において、日本一などというのは夢物語に過ぎなかったし、目標というのは具体性が必要だから、いきなり日本一は現実離れしていて目標たりえなかったと思う。しかし、である。目指しもしないのに日本一になれるわけがない。傲慢といわれようとも、夢を語るべきではなかったか? そんなことを22歳の私は考えていたのだが、31歳の私は日本一など目指していないのである。これではいけない、日本一の何かを目指さなければ!!

 ・・・と、10年前の思いを回想しながら、読み進めていったのだが、古田の「勝率が10%でも20%でも上がるなら、そのための努力は惜しみたくない」という言葉は、何かしなければと思いつつ、口だけで終わっている自分には耳の痛いものであった。また、古田は後輩育成にも力を注いでいる。若手のピッチャーにも自分のサインに対して首を横に振れというのだ。これは、ベテランである古田のいいなりにならずに、自分の投球については自分なりに考え自分で責任を持てということである。上司の意見に唯々諾々と従うだけでなく、自分の意見を言う。そして責任を取る。ビジネスの世界でも全く同じである。また、ヤンキースへ行った松井選手のことを「配球を読んでくるタイプ」と「反応で打つタイプ」に分けられないと評している。つまり、臨機応変に二つのタイプを使い分けることの出来る一流の選手だというのだ。これもビジネスに通ずるものがあり、じっくりと論理的に考えて決断を下すべき場合と、スピード重視のヒラメキで判断を下さなければならない場合があり、両方の判断力を兼ね備えていないと一流にはなれないということである。

 一方の平尾であるが、彼の判断力はすさまじい。野球のように、一球一球区切って進めていくスポーツと異なり、ラグビーは始まってしまえばまさに一瞬の判断が要求される。パスを受けた瞬間にストーリーを頭に描き、思いを込めてパスを繋ぐ。この一瞬の判断の積み重ねが勝敗を決めていくのである。それに比べるとビジネスマンの楽なこと。今日中に判断を下して欲しいといわれることはあっても、1秒で結論を出せと言われることはない。正しい即断ができるよう、普段から問題点を洗い出し、その内容を吟味しておかなければならない。

 スポーツの世界でも日本人はリスクを取りたがらないという。しかし、平尾は普段からリスクを取っていないやつが、本番でリスクを取れるわけがないという。細かいことまで他人にリスクヘッジしないと動けない人がいるが、そうなったらお終いということ。リスクを取るためには、出来るだけリスクを減らすように緻密な分析が必要だし、思い切りという度胸も必要である。最後は自分に返ってくると思うとそれだけ真剣になるだろうし、真剣勝負を続けてきた人に、防具に守られた人が勝てるわけがないのである。

 最後に岡田の言葉。最近のトレーニングは非常に科学的に進められているが、時には非科学的なものも必要だという。要は「根性」の世界なのだが、これは、ボート部時代に嫌というほど叩き込まれた。とにかく、炎天下を2時間以上も単調な動きを繰り返すのである。冬場には凍るような水に足を踏み入れ、漕ぎ出すのである。確かに仕事では体力よりも精神的なストレスが大きいが、あの時の苦しみに比べると、と思うと何とかなるような気がする。本当に立ち上がれなくなるまで漕ぎ続けていたあの頃が懐かしい。

>2003.06.07.SAT

苗村屋読書日記 [20]

     



































[PR]子育てママさんへ:3年毎に15万円うけとれる保険?