△0110 『午前三時のルースター』 垣根涼介
×0109 『顔に降りかかる雨』 桐野夏生
△0108 『リアル・ワールド』 桐野夏生
△0107 『陰の季節』 横山秀夫
△0106 『不況もまた良し』 津本陽


△0110 『午前三時のルースター』 >垣根涼介/文春文庫/2003.06.25


 数十ページ読み進めて、どこかで読んだことがあると感じた。たまに、以前読んだことを忘れて本を買ってしまうことがあるのだが、今回は、テレビドラマを見たのだと思い至った。そういえば本作はサントリーミステリー大賞受賞作。ドラマ化される賞である。たしか永作博美が出ていたな、と読み進めるうちにうろ覚えの記憶が蘇ってくる。2時間ドラマの中に、いろいろ詰め込むと収拾がつかなくなるだろうし、ある程度ストーリーと関係ない部分は削りこまないと駄目なのだろうが、ドラマではせっかくの父と息子の関係が、特に息子の父に対する思いが描ききれていなかった様に思う。

 逆に言うと、今回、小説という形での物語では、主人公長瀬の優しさや、父を追う息子の切迫した感じがよく描かれていた。ラストを知っていたため、楽しさは半減してしまったが、父親が失踪した気持ちもよく理解できた。日本という元気の無い国を捨てて、ベトナムという"熱い"国へという思いも共感できる。

 途中で出てくる様々な妨害は、ちょっとやり過ぎだし、その理由にも無理があるような気がしたが、一応辻褄はあっている。現地で出会った協力者達のキャラクターもよく書きこめている。中でも運転手のビエンを描いている文章が、胸に残った。「金を稼いでゆく中で、その代償として心のどこかをスポイルされてゆく。そして報酬以上のやりきれなさと虚しさが、心のひだにこびりつき沈殿してゆく。そんな夜を過ごしてきた男…それがこのビエンだ」

>2003.06.25.WED


×0109 『顔に降りかかる雨』 >桐野夏生/講談社文庫/2003.06.24


 積ん読本の中からたまたま手に取ったのが本書。2冊連続で桐野夏生だが、特に意図したわけではない。私の嫌いな偶然か、無意識下の選択か、それとも何か必然性があるのか? そういえば本書は、2年ぐらい前に買って、少し読みかけた後、酔っ払ってどこかへ置き忘れてしまったもの。もう一度買うのが癪だったので、なかなか読む機会がなかったのだが、この度目出度く古本屋で入手。

 さて、前置きが長くなったが、ミステリーとしてはデビュー作であるということ、乱歩賞応募作品のため枚数に制限があったことを前提としても、あまり面白いと感じなかった。過去に本を失くした時も、面白ければすぐに買いなおしていたであろう。今までずるずると読まずに来たのは、やはり惹かれる面が少なかったからだろう。いきなり舞台がドイツへ飛ぶところなど、意味合いがよく分からず、構成に甘さを感じた。一度しか出てこない人物が真犯人の協力者という設定は、ミステリーとしてはルール違反のような気がする。また、死体写真などで気を衒った感があり、悪趣味的な印象が拭えない。乱歩賞応募作品ということで力が入りすぎ、欲張りすぎたのだろうか。本作品の後は、順調にいい作品を書きつづけているのだが。

>2003.06.24.TUE


△0108 『リアル・ワールド』 >桐野夏生/集英社/2003.06.22

 題名の意味がいまひとつ掴みきれなかったが、まずまずの作品。人間の、というよりも女子高生の心の裏側、内心で考えていることを描こうとしている。女子高生も、馬鹿なことをしゃべりながらも、それぞれ意外に複雑なことを考えているんだよ。でも、それは結構、友達なんかにバレバレなんだよ、という構図である。この小説を書くにあたって、女子高生に取材をしたのだろうか? 最近、女子高生と会話をしたことがないのでよくわからないが、女子高生の内面に触れるという意味ではいい線をついているような気がする。しかし、これが事実に基づいた実体だったら、恐い。ヤマンバルックの女子高生も恐いが(外見が)、テラウチみたいな女子高生も十分恐い。

 ユニークな女子高生4人組みだが、実際、これほどの個性派どうしが集まること自体、リアルではないのだが、不況の日本の中で唯一元気のいい女子高生を、抽象的に描いていると考えれば、納得できなくもない。なかなか面白く読めたが最後のテラウチの行動だけは不可解。私に理解されても困るだろうが、作者の意図がよく分からなかった。ところで、今日の感想文にはやたらと「女子高生」という文字が踊っている。アクセス数向上に一役買うだろうか?

>2003.06.22.SUN


△0107 『陰の季節』 >横山秀夫/文春文庫/2001.12.19・2003.06.21


 再読である。初めて読んだ時ほどの驚きはないが、やはり秀逸。しかし、若干の荒が目立ったこと、最近の力作に比べると少し見劣りすることを鑑み、あえて評価は△。(でも限りなく○に近いです) せっかく再読したので、ちょっと厳しいコメントも加えながら、4つの物語について感想を書いてみたい。

《良かった点》

『陰の季節』…まさに、"こういう警察小説があったのか"と思わせる秀作。警察内部の人事、しかも天下りがらみのストーリー。最近はキャリアとノンキャリアとの対立なんかを描いた作品が多い様に感じるが、本作はそういったものを超越している感じ。定年して、2年の約束で天下った元刑事部長が、期限が来ても退職しないとごねてしまう。そこへ人事を司る警務課のエース、二渡(ふたわたり)が登場し、大先輩に、職を退かない理由を問い詰めるのである。元部長の方も、知ったことかと二渡を無視。ラストでその裏に隠された真意を知ったとき、刑事という職業の荘厳さを噛締めることになる。

『地の声』…警察の内部を調査する監察課を舞台にしたもの。この話を読むまで監察課という存在すら知らなかった。県警の中の小さな公安といったイメージだろうか。主人公の新堂は、警視昇任が掛かっている曾根を、とある容疑で追い始める。自分一人では調べきれないため、かつての部下にも協力を仰ぐが、その部下が暴走してしまったり、曾根を疑うきっかけとなった内部告発者の存在に苛立ったり。新堂の推理、推測を中心に物語りは展開し、ラストは人間臭い出世欲が露呈する。刑事も人間ということ。魔が差したというのだろう、人間の弱さを鋭く描いた作品。

『黒い線』…タイトルがいい。往年の松本清張を思わせる。似顔絵を書いた婦警が失踪するという事件のきっかけを追う物語で、ドラマ化もされた「顔」の序章となっている。部屋に撒かれた香水や車に残されたタバコが、ヒロインの瑞穂の男関係を示唆するが…。ラストは男性社会の警察の中で、負けまいと頑張る瑞穂と、男女平等を謳いながらも内心では女性を蔑視している男性幹部達を旨く描いている。しかし、同じ男としてやるせない思いが拭えなかった。

『鞄』…警察にはこういった仕事を担当する人もいるのだと、感心してしまった。秘書課と呼ばれる部署に所属し、県議会対策を中心に行う柘植が主人公。企業でもそうかもしれないが秘書課というとエリートコースといった響きがある。企業の秘書課とは若干異なるかもしれないが、警察でも似たようなもので、この章の柘植はエリート街道をひた走る、若き戦士である。しかし、ある大物議員が警察ネタの爆弾を持っているという噂を耳にしてから、歯車が狂い始める。ラストは驚き。出世のためなら人間ここまでやるのかと吃驚したが、作者が事件記者だったことを思うと、似たようなことが現実にもあったのかもしれない。

《悪かった点》(ネタバレありです)☆

『陰の季節』…娘をレイプされた犯人を定年後も追い続けるという執念は凄いが、そんな身近に犯人がいたというのは、偶然の要素が大きすぎる。初読の時には感じなかったが、今回改めて読み直して、この点が非常に気になってしまった。偶然嫌いの私には致命的な展開である。余韻を残すラストも、歯切れが悪いものに感じてしまった。

『地の声』…内部の犯行ということが明白なだけに、誰が犯人かをミスリードするのが難しかったと思う。しかし、いかにもといった役回りの柳。主人公の新堂によって内偵を進めることになるのだが、暴走しすぎである。本来の職務を全うせず、これほどまでに入れ込むだろうか? 柳が持つ、警備部へ返り咲きたいという気持ちも分からないではないが、ちょっと無理があるように感じてしまった。

『黒い線』…いくら警察のイメージアップの為とはいえ、ここまでやったらお終いである。ヤラセ報道の渦中に巻き込まれたヒロインの瑞穂が壊れていく様が悲しい。男性の、というよりも自分のことしか考えていない人間の、軽い悪意が一人の人間を傷つけるということが、妙にリアルに描かれている。後味が悪い。瑞穂は「顔」で生まれ変わって活躍しているとの事だが、未読なのでノーコメント。このまま終わったらやりきれないので、瑞穂に未来があってよかった。

『鞄』…これも後味の悪い作品。出世のためにここまでやるだろうか? 戦国の下克上の時代ではないのだから。今回の『陰の季節』以外の物語は、すべて人間の悪意がもたらす事件を描いている。この「悪意」が実際にありそうなだけに恐ろしい。作品としては優れているのかもしれないが、人間が信じられなくなってしまう内容だった。


 かなり辛口で書いてしまい、しかもほとんどネタバレ状態で、未読の方には申し訳ないコメントになってしまった。しかし、読んで損をする本ではないし、逆に、人間の悪意について深く考えるきっかけにもなるので、ぜひ読んでいただきたい作品。悪口を書いておいて薦めるというのも変な話だが、お薦めの一冊である。

>2003.06.21.SAT


△0106 『不況もまた良し』 >津本陽/幻冬舎/2002.01.17


 松下電器産業にはちょっとした思い出がある。まず、実家の家電製品がほとんど松下製品だったこと。いわゆる町の電気屋さんが全盛の頃で、配線なんかもお願いしていた。そして、大学4年生の時に入社試験を受けたこと。しかし、面接会場の待合室の壁一面に、松下幸之助の言葉を書いた額が飾ってあるのを見て、何となく嫌になってしまった。ここまでカリスマ的な人が起こした企業に、将来性はあるのだろうかと感じたのだ。また、あまりにも大企業過ぎて小さな歯車になってしまうのではないかと感じたため、面接をお断りしてしまった。もし松下に入社していたら(出来ていたら)と考えなくもないが、今現在の勢いではソニーの方が上だし、やっぱり歯車にはなりたくないし、間違った選択ではなかったなと思っている。

 さて、本書は松下幸之助伝である。応接室の壁にどんな言葉が書いてあったかは覚えていないが、今回、本書を読んで気に入った言葉は次の通り。
  • 商売人はどえらいむずかしい問題にぶつかったら、首の取り合いをするつもりで、どんなやり方で山を越えたらええやろかと考えないかん。幾晩も眠れんほど思いつめ、心配し抜き、考え抜く。気遣いを重ねたあげく、小便に血が混じって赤うなりよる。そこまで苦しまなんだら、考えは定まらんもんや。そのうえではじめてめざす方向が定まり、気持ちが落ち着き、真っ暗闇の行く手に明るい光りがさしてくる。一人前の商売人になるまで、二度や三度は血の小便をせんならんもんや。
  • 商人は時世に遅れたらあかんのや。いつでも提灯で行く先を照らしとけ。
  • 今日以後、250年をもって、使命到達期間と決める。
  • 自分の意見を持っていて、それが良いか悪いか聞きに来る部下でなければ見込みがない。意見の無い者は最も良くない社員である。
 250年先までの長期的展望を持っている経営者などいないのではないだろうか。心底ぶったまげてしまった。さすがに神様と呼ばれる人は違うなァと感心してしまった。

会長引退時の要望事項
  1. 会長・社長は一体となって、会社業務全般を統御していくこと。したがって各担当者が会長に言うことも、会長から社長に伝達され、同様に社長にいうことも社長から会長に伝達されるように。円滑な意志疎通をはかりつつ、会長、社長ともに重要問題についてはお互いがすべてを知り合っておくよう努めること。
  2. 会長・社長は確固たる経営の基本方針を遵守することに精励し、同時に広く社会から寄せられる当社への要望と期待に正しくこたえていくよう努力すること。
  3. 現業は専務または常務どまりとすること。副社長は複数の分担を大所・高所から担当する。会長・社長は経営に関して重要かつ基本的な問題について指摘し、指示するものとし、個々の業務に関する具体的な指示をする必要がなくなることが望ましい。なお、業務遂行に関する上司への報告が最近十分でないように思われるので、この励行を全社にわたって十二分に徹底させること。
  4. 会長・社長が右(上)のごとき執務方針を励行しても、各担当者が指示を仰ぐことも多いと思われる。その場合にも以上に述べた心構えをもって対処すること。
  5. 本年度の基本方針である「新生松下」発足の方針を強化していくこと。
  6. 会長・社長をはじめ現業重役諸氏は、社会のすべての人々を師表と仰ぎ、大事なお得意と考え、常に礼節を重んじ、謙虚な態度で接することに、率先垂範すると同時に、全従業員にこの重要性を徹底すること。
 ここでも報告の重要性が謳われている。報告が出来ない人が多いと、本当に業務に差し障りが生じる。メール一本、メモ一枚がなぜ書けないのだろうか?

>2003.06.20.FRI

苗村屋読書日記 [22]

     



































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