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![]() ×0140 『破線のマリス』 野沢尚 △0139 『鉄道員』 浅田次郎 ○0138 『ベルリン飛行指令』 佐々木譲 △0137 『ひまわりの祝祭』 藤原伊織 △0136 『池袋ウエストゲートパーク』 石田衣良 ×0140 『破線のマリス』 >野沢尚/講談社/1998.08.03 「映像編集技術による大衆の心理操作」という狙いは良かったと思う。小説の出版時に「テレビ界の内部告発小説」と言われたそうだが、そういわれてみると、タブーに触れているようにも思う。しかし、アイデアありき、構成ありきで、キャラクターが上手く動いていないような気がした。希代の脚本家である野沢氏にしてみれば、珍しいというか、私としては残念であった。せっかくのいいテーマなのだから、もう少し書き込んで欲しかった。乱歩賞狙いのため、枚数制限にやられたか? 評価は残念賞で×。 本書は内部告発的でありながら、テレビの視聴者への警鐘にもなっている。垂れ流されるテレビからの情報の洪水に、押し流されてはいないだろうかと。わざわざ、映像処理をしなくても、インタビューに対する回答など、番組のテーマに合うものだけを継ぎはぎしているではないか。あんなに、都合のいい回答をする視聴者だけではあるまい。インタビューに対する回答まで、用意していることはないだろうが、都合のいいシーンの寄せ集めなど、日常茶飯事であろう。これがエスカレートすると、「やらせ」になるのだが、視聴率至上主義では仕方がないのかもしれない。業績至上主義の企業において、営業マンが架空計上に手を出すように。 私はあまりテレビを見ないのだが、新聞にだって似たようなところはある。結局、記事の中からいかに事実をつかみ出し、自分なりの解釈が出来るかにかかっているのではないだろうか。事実を理解し、咀嚼し、自分の意見を練り上げる。簡単そうでいて、難しい作業である。
△0139 『鉄道員(ぼっぽや)』 >浅田次郎/集英社/2001.08.14 作者の狙い通り、「泣かされた」作品。短編集だが、それぞれのキャラクターがよく書き込まれており、ひとつひとつの完成度が高かった。一番のお気に入りは『ラブ・レター』 ポルノショップ店長の高野吾郎と、吾郎の戸籍上の妻で、出稼ぎ外国人の白蘭のラブ・ストーリー。ほとんど会ったことのない、戸籍上の妻への、不思議な愛情が心地よかった。人間というものは、元来、優しいものなのだと感じさせてくれた作品。 表題作で、映画化もされた『鉄道員』もよかった。映画の方は、短編を無理やり2時間の映画にしてしまった為の、間の悪さや、広末涼子と志村けんの過剰な演技に辟易したが、小説の方はなかなか良かった。主人公・佐藤乙松の仕事にかけるひたむきな姿勢は、古き良き日本人の象徴のように感じた。また、自分の成長の過程を一目見せようとして現れる、娘・雪子もいじらしい。 しかし、いかにもお涙頂戴的なストーリーに作者の「泣かせてやろう」という意図を感じてしまい、他の短編を読み進むにつれ、少しずつ感動が薄れていってしまった。5つ目の作品の『伽羅』はなかなか不思議な雰囲気のピリッとした作品だったが、感動するようなものではなかった。直木賞受賞作ということもあり、浅田次郎の名前を一気に広めた作品だが、個人的には『蒼穹の昴』の方が好みである。 ちなみに『鉄道員』という作品には、個人的な思い出がある。新婚旅行に行った先のバリ島のホテルで読んだのが最初の出会いなのだ。妻がオイル・マッサージを受けている間、ホテルの図書室でのんびりしていたところ、日本人の誰かが置いていった本書を手に取ったのである。1冊読みきるほどの時間は無いと思っていたら、短編集だったので、それならと読み始めた。結局、『鉄道員』と『ラブ・レター』しか読めなかったが、ウブドの森を見ながら、くつろいで読んだせいか、非常に印象深かった。読書をする環境というのも、感想に影響を与えるのかもしれない。 話は変わるが、今回、『鉄道員』をきっかけに、直木賞についてWEB検索していてはじめて知ったのだが、直木賞は正式には「直木三十五賞」というらしい。読書通の方には常識なのかもしれないが、私には初耳。『南国太平記』などを著し、大衆文芸の世界で活躍した直木三十五氏が、享年43歳で亡くなったため、氏と親交の深かった菊池寛が、自らが率いていた文藝春秋社で、直木氏を記念する賞を設けることを画策したのが始まりとのこと。このため、受賞作品には必ず文藝春秋社の作品が入るそうである。ちなみに、山本周五郎賞は新潮社のテリトリー。文芸界もいろいろあるのね、と勉強になった。
○0138 『ベルリン飛行指令』 >佐々木譲/新潮文庫/2001/4/25 日本の横須賀からドイツのベルリンまで、2機の零式戦闘機(ゼロ戦)を運ぶ物語。『エトロフ発緊急電』で登場する人物がシンクロしたりして、面白い構成になっている。(こういった、他の話でちょろっと出てきた人が再登場するといった話は大好きである) 安藤啓一大尉と乾恭平一空曹という2人の主人公のキャラクターがよく書き込まれており、スカッとする冒険譚。『エトロフ』も面白かったが、何となく戦時中の閉塞感を感じたのに対し、『ベルリン』は「空」が舞台のためだろうか、戦争物にしては開放感溢れる作品だった。主人公達の明るい性格のせいかもしれない。読後感も良く、『ストックホルムの密使』と合わせた戦争三部作の中では、イチオシである。 この本の見所は、戦時下の空をゼロ戦で突っ切るという破天荒な航空シーンだけではない。途中の給油をどうするかという、切実な問題に対して、次々と手を打っていく様が面白い。戦争に勝つためには、「兵站」が重要であるが、燃料補給というのも一種の兵站活動であり、地道な事前準備が、破天荒な作戦を成功に導いたのだと感じた。この辺りを緻密に書き込まないと、物語としては薄っぺらになってしまうだろう。 「わたしは軍人である前に飛行機乗りなのです」「わたしは蛮行と愚行のどちらかを選べと言われたら,ためらうことなく愚行を選びます」といった安藤大尉の台詞も格好よかった。
△0137 『ひまわりの祝祭』 >藤原伊織/講談社文庫/2001.01.03 ジャンクフード好きの主人公・秋山秋二は、7年前に妻をなくし、親から継いだ築地の家で、アンパンをかじり牛乳を飲む自堕落な暮らしを続けている。そんな中、デザイナーの先輩だった村林が訪れる。彼の依頼は「カネ」を捨てること。秋山はギャンブルの才を発揮し、すべてを裏目にかけることにより、カネを捨てる。 いかにもハードボイルドといった感じの展開で、息をつかせない。文庫本で500ページ超だが、一気に読みきった記憶がある。しかし、☆妻の自殺の理由や、麻里の死、焼け落ちるヒマワリなど、悲しさが漂う作品。また、ラストの銃撃戦などは、ちょっと日本では考えにくいシチュエーションであり、興を削がれてしまった。☆ 前作の『テロリストのパラソル』の評価が高かった為、作者も気負いすぎてしまったのだろうか? 私としても期待が大きかっただけに、少し残念であった。 P.S.1890年の7月29日はファン・ゴッホが自殺した日だそうである。昨日の日経新聞のコラムで知ったのだが、その時、ふと思い出したのが『ひまわりの祝祭』。読書日記をつけていればこその思い付きだったように思う。ちなみに、日本人の大半は「ゴッホ」と呼んでいるが、「ファン・ゴッホ」自体が一体化した苗字だということを知ったのはこの作品で。
△0136 『池袋ウエストゲートパーク』 >石田衣良/文春文庫/2003.07.29 リズム感のある文体。すっきり読みやすい構成。渋谷や新宿でなく、あえて池袋という面白さ。主人公のマコトや、友人であるタカシ、サル、ラジオなど、それぞれの人物の造詣もなかなか。少年達の紛争。あきれたボーイズ&ガールズ。体言止めのテンポ。舞城ほどではないが、独特の語り口調もGOOD。さすがは直木賞受賞作家である。ほとんど○を付けそうになったのだが、△にしてしまったのは、読後感。映画のような、ドラマのような、漫画のようなスピード感は、心地よくも、読み終わった後に残るものが少なかった。 本書は、4章立てになっており、主人公マコトが、地元の池袋で私立探偵ばりの活躍をする。池袋ハードボイルド。一番良かったのは、『オアシスの恋人』 人が傷つかないのがいい。いくら虚構の世界とはいえ、殴り合い、殺し合い、恨み合いの世界は沢山。盗聴、尾行、盗撮、タレコミ、暴力よりも「技」の世界。一人の風俗嬢と、その恋人のイラン人、二人の恋を守るため、立ち上がるあきれたボーイズ。 実は、妻が借りてきたテレビドラマのレンタルビデオを1話だけ見てしまっていた。その為、マコトやタカシの顔が、俳優(アイドル?)の顔とダブってしまい、変な印象を持ってしまった。ドラマを見る前に読みたかった。これも△の理由か。うーん、最近、自分の評価に言い訳がましい。なんだが、文体が影響されている。色々書いたが、一気に読めた。ムシャクシャしているときには最高の一冊。コッミク雑誌を読むくらいなら、こちらをお薦め。
苗村屋読書日記 [28]
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