○0210 『砂の器』 松本清張
△0209 『錆びる心』 桐野夏生
△0208 『見張り塔からずっと』 重松清
△0207 『探偵ガリレオ』 東野圭吾
△0206 『どちらかが彼女を殺した』 東野圭吾


○0210 『砂の器』 >松本清張/新潮文庫/1997.08.31・1999.07.18

 SMAPの中居正広が主演でドラマ化されると聞き、思い出した作品。妻曰く、映画の方は名作とのことで、早速ビデオを借りてきた。本作は1974年に映画化、1977年に連続ドラマ化され、今回が3度目の映像化となるそうである。1974年の映画には、丹波哲郎、加藤剛、森田健作らが出演している。ちょうど30年前の作品にもかかわらず、古さを感じさせない、地に足の付いた見ごたえのある映画であった。

 ミステリー的な謎解きの部分を、1時間半程度に抑えて、残りの30分で犯人とその父親像を濃密に描いている。父親を加藤剛が演じているのだが、涙を誘う迫真の演技に感動した。もはやミステリー映画というよりも、社会派映画といった趣の作品であった。ミステリーファンとしては、前半の性急な謎解きに、若干の不満は残るものの、2時間という限られた枠の中に収めるためには、仕方のない時間配分だったのだろう。

 さて、小説の方だが、こちらは数年前に2回読了している。実は1度読んだ後、間違えて古本屋で再度購入してしまった為の再読。私としては珍しいのだが、清張作品のタイトルは、中味が想像しにくいので記憶が混乱してしまうのである。

 こちらは映画に比べるとミステリー色が濃い。老刑事の地道な捜査を丹念に描いている。「カメダ」という「男」の存在や、「東北弁」など刑事とともに読者も上手くミスリードしているし、「俳句」から偶然ヒントを得ていく辺りも面白い。ラスト近くでは、一転して社会問題に鋭く切り込んでいるところも、清張らしくていい。

 犯人の殺人動機とその裏に潜む暗い過去の描き方にも迫力がある。実を言うと、☆小説を読んだ当時は、ハンセン氏病という問題については、あまり認識が無く、読み飛ばしてしまっていた感がある。しかし、最近でも黒川温泉宿泊拒否問題など、まだまだ根強く残っている問題であり、特に今回は演技とはいえ映像を目の当たりにしたせいか、非常に印象深かった。☆こういった、メッセージ性のある小説というのは、減りつつあるかもしれない。

 とにかく、小説・映画とも名作である。今回のドラマ化では、時代設定を大幅に変更しているそうだが、果たして期待できるのだろうか?

>2004.01.10.SAT


△0209 『錆びる心』 >桐野夏生/文春文庫/2000.12.11・2004.01.09

 私はどちらかというと長編小説が好きなのだが、時々、無性に短編小説が読みたくなる。ということで、読み返してみたのが、本書である。6つの短編が収められているが、評価というか、好き嫌いが大きく分かれてしまった。○が3つ、×が3つで、総合評価は△。以前にも書いたかもしれないが、短編集というのは評価が難しい。◎が1〜2、○が半分以上、残りも△くらいでないと、いい評価は付けられない。要は、バランスの取れた作品集かどうかということ。

 では、○を付けた3つを紹介したい。

『虫卵の配列』・・・タイトルがいい。また、劇場の観客席に座る観客の頭を、虫の卵に喩えたのも面白い。確かに、虫の卵というのは気持ち悪いほど整然としている。その不気味さと、主人公の女性の静かな狂気があいまって、透き通ったホラー小説となっている。

『月下の楽園』・・・今回の短編集の中で、最も好きな作品。荒れ果てた庭園を好む男の話。よく、こんなシチュエーションを考えつくなぁと、作者の発想力に脱帽。雪が積もったときの庭園の美しさが、目に浮かぶ。荒れた庭園を隠す、一面の白。ラストもシニカルでグッド。

『錆びる心』・・・表題作。長年、仕えた夫を捨てて家出し、老婆二人と病気を抱える息子の家で住み込みの家政婦をする。献身的に家事を行うことに喜びを覚える主人公・絹子。ラストではもう1人の女性・ミドリの意外な役割が明らかになり、不思議な気分にさせられたまま幕を閉じる。「他人の心の中に、自分という傷を残す」という絹子の心理も面白かった。

 振り返ってみると、3作とも狂気の女性、あるいは、女性の狂気を描いている。この辺りの心理描写の上手さが、『OUT』『グロテスク』に繋がっていく部分なのだろう。

>2004.01.09.FRI


△0208 『見張り塔からずっと』 >重松清/新潮文庫/2002.02.10・2004.01.08

 本書には、家族をテーマにした短編が3つ収められている。その中で印象的だったのが『カラス』 1995年の作品で、ちょうどバブルが崩壊した頃。東京まで2時間以上かかる郊外に、家の値段が最も高騰した頃にマンションを購入した人々の話。やがてマンションの価格は下落し、中には手放す人も出始める。そんな中、発売当初に買った人々よりも、1000万円も安く、同じマンションを手に入れた家族が引っ越してくる。その奥さんが「バブルの頃の値段だったら、とてもじゃないけど、こんなところ買わないわよ」と漏らしてしまう。

 大人同士の陰湿ないじめを描きつつ、バブルの傷跡が、一般家庭にまで侵食している様を描いている。『ナイフ』や『ビタミンF』で表現される子供のいじめと違って、明確な悪意・敵意がある分、大人のいじめの方が悪質かもしれない。解説は篠田節子。篠田氏はいじめそのものよりも、「新興住宅地に住む者をむしばむ焦燥感と閉塞感」を描いた作品だと述べている。

 さて、本書は表題作がない作品集。重松氏がタイトルについてあとがきで述べている。見張り塔の哨兵は悲しい。異常が無いことを確認するのが任務なのだが、異常が無いということは、彼の一日が無駄に終わってしまったことを意味する。一方で、異常を発見しても、見張り塔にいる彼には叫ぶことしか出来ない。重松氏は、自分自身を哨兵に喩え、異常な世の中に警鐘を鳴らしているのであろう。叫ぶことしか出来ず、何も出来ないことにジレンマを感じながら。

 本書はまた、重松氏の転換期の作品でもある。筆を折ろうかとまで悩み続けた後、自己表出ではなく、「自己隠蔽」の為の小説を目指して書いた作品だそうだ。なんだか、作品よりも「あとがき」に感動してしまう私であった。

>2003.01.08.THU


△0207 『探偵ガリレオ』 >東野圭吾/講談社文庫/2004.01.07

 解説を俳優の佐野史郎が書いている。普段、私は解説を読書の中間辺りで読む。というのも、どんな本にも、なんとなく中だるみする部分があり、そんな時に解説はどうなっているだろうと、眺めてみるのである。もちろん、ミステリー系のネタバレ解説は読まないが、最近の解説者はきちんと、ネタバレであることを警告してくれるので助かっている。

 本書は5章立ての連作短編集であるが、2つ目の物語を読み終わった時点で解説を読んでみた。なぜ佐野史郎が?と疑問に思っていると、なんと本書の主人公である天才物理学者・湯川学のモデルが佐野史郎なのだそうだ。うーん、確かに白衣を着て悪戯に耽る姿など、はまり役かもしれない。

 さて、肝心の本編だが、評価△から分かるように、今ひとつであった。というのも、元々文系の私。科学だの物理だのを殺人事件に持ち出されてもちんぷんかんぷん。もちろん、素人にも分かるように書かれているのだが、興味が持てなかった。☆また、落雷があったり、工場が事故にあったりと、偶然の要素が強い部分も、あまり気に入らなかった。

 各章のタイトルはなかなか面白い。『転写る』『壊死る』『離脱る』と書いて、「うつる」「くさる」「ぬける」と読む。作中に出てくる物理現象を端的に言い表しているし、当て字的なところも上手い。しかし、刑事が捜査に行き詰るたびに、物理学者を訪ねるというのは、非現実的。名探偵者を批判しておきながら、『探偵ガリレオ』のような作品を書くという矛盾したところも、筆者の魅力なのだろうが・・・

>2003.01.07.WED


△0206 『どちらかが彼女を殺した』 >東野圭吾/講談社文庫/2004.01.06

 まずは簡単にあらすじを。最愛の妹が偽装を施され殺害された。警察官の兄・和泉康正は独自の現場検証の結果、容疑者を2人に絞り込む。1人は妹の親友・弓場佳世子。もう1人はかつての恋人・佃潤一。妹の復讐に燃え、真犯人に接近する兄・・・。

 物語の中には、この3人に加えて、加賀恭一郎という刑事が登場し、四つ巴で展開していく。加賀刑事は、事件の真相を究明しようと、2人の容疑者に加え、ある意思を持って事実を隠蔽しようとする康正にも疑惑の目を向ける。通常のミステリーだと、刑事対犯人という構図が一般的だが、ここに被害者の肉親を加えることにより、物語がより面白くなっている。

 さらには、最後まで犯人が分からないという設定も面白い。本文を注意深く読んでいると、潤一と佳世子のどちらか犯人かが分かるというのである。筆者はこのような実験的手法が好みのようであり、手法は違うが『名探偵の掟』もその一環である。常に新しい分野に挑戦し続ける姿勢には頭が下がる。

 しかし、である。犯人究明は難しすぎて分からなかった。幸いなことに、文庫版では袋とじの解説が付いていたので、不完全燃焼で終わることはなかったが、よほど本格ミステリーを読み込んでいる人でないと解けないのではなかろうか。しかも、文庫化にあたり、さらに難しくなっているというから、一般の読者には厳しい内容になっていると思う。確かに要所要所でヒントに繋がる描写がなされており、この辺りが怪しいのではとは思い至ったものの、決定的な描写が無く、論理的に事実にたどり着く必要があるのでさらに難しくなっている。改めて、筆者が理系の出身であることを思い出した。個人的には本格ミステリーよりも、高村薫や横山秀夫が描く警察小説のような、広義のミステリーの方が好みなので、評価は△にしてしまった・・・

>2004.01.06.TUE

苗村屋読書日記 [42]

     



































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