△0230 『大地の子』 山崎豊子
○0229 『エイジ』 重松清
×0228 『フェニックスの弔鐘』 阿部陽一
×0227 『B・D・T [掟の街]』 大沢在昌
△0226 『大誘拐』 天藤真


△0230 『大地の子』 >山崎豊子/文春文庫/1998.08.17

 名作の呼び声が高い『大地の子』である。『不毛地帯』『二つの祖国』と並んで、山崎豊子の戦争三部作と言われているらしいが、私の中では、今ひとつの作品であった。中国残留孤児の問題、文化大革命の問題など、山崎豊子らしい問題の取り上げ方や、その取材力にはいつもながら驚かされるのだが、どこか感情移入出来ない部分が残ってしまった。

 実を言うと、この作品は生涯で初めて入院生活を送ったベッドの上で読んだもの。病気の方は「髄膜炎」で大したことなく、4日ほどで退院できたのだが、退屈さを紛らわす為に読んだのがいけなかったのかもしれない。あるいは、1年間だけ会社で習っていた中国語の先生(女性)に、NHKのドラマに出てくる、主人公の「お父さん」に似ているといわれたのが、トラウマになっていたのかもしれない。

 上述の理由は冗談だが、物語になじめなかった理由は、恐らく文革の激しさや、賄賂が横行する中国政治の世界に圧倒されたからだと思う。中国に関しては、語学を習うと同時に歴史や文化の講義もあり、山崎豊子の描き出す世界が、よりリアルに感じられたせいかも知れない。本当は、文化大革命の傷跡などからも目を背けてはいけないのだろうが、どうしても、ビジネスのほうに目が行ってしまう。数々の困難や妨害を乗り越えての、宝華鋼鉄公司立ち上げのプロジェクトの部分は興味深く読み進めることが出来た。

 といいつつも、ラストはやはり感動的である。☆生みの親である日本人の松本耕次と、育ての親である中国人の陸徳志を前に、主人公・陸一心は「私にはどちらも父です。私にはわかりません」と叫ぶ。日本か中国か? 自らのアイデンティティを揺るがすような決断を迫られた陸一心だが、結局、「私は大地の子です」と中国に残ることを決意する。

 心情描写、問題的の仕方、取材力。どれをとっても一流なのだが、『不毛地帯』や『白い巨塔』のように、寝る間も惜しんで先を読みたいと思わせるドライブ感が欠けていた。限りなく◎に近い△。いずれ再読してみたい。

>2004.01.28.WED


○0229 『エイジ』 >重松清/朝日新聞社/2004.01.27

 中学生の「エイジ」が主人公の物語。自分の中学生時代はどんなだったかと、懐かしく思い出しながら読んだ作品。エイジを取り巻く友人達のキャラクターが秀逸で、ついつい自分のかつての友人と重ね合わせてしまった。一見悪ぶっているが、実は真面目で優しいツカちゃん。クールで文武両道のタモツくん。こんなヤツいたよなぁと、思わず呟きたくなるような少年達が、紙面を闊歩する。そして主人公のエイジ。エイジは膝を痛めてバスケ部を休部中。成績はまずまずで、皆から一目置かれる存在。自分とはかけ離れたキャラなのだが、なんとなく自分の中学生時代と重ね合わせて読み進めてしまった。

 最初は、単純な青春ドラマかと思って読んでいた。怪我でできなくなった部活動や、家族とのうっとおしいけど、ちょっぴり温かい交流など、それだけでも十分面白くなりそうな展開。そこへ、連続通り魔という事件が発生し、物語はさらに加速していく。まったく未知の状態で読み始めたので、最初はこの展開に戸惑ってしまったが、よく考えると本書は「酒鬼薔薇聖斗」事件の翌年に書かれている。少年犯罪に対する、重松流の主張が散りばめられた作品といっていいだろう。

 少年だからといって人を傷つけていい訳はなく、幼いからという理由だけで彼らが法で守られているというのには納得が行かない。ましてや殺人にまで発展してしまっては、少年法改正が叫ばれたのも無理のない話だろう。しかし、本書では少年たちを大人たちの一方的な理屈で批判するのではなく、少年の視点で物語を書き続けてきた重松らしい主張が述べられている。

 中学生の心情をよく表わしているなと思った重松節を少し抜粋しよう。
 最近、考えごとが疑問形のまま終わってしまうことが増えた。頭より胸が、もやもやする。「わからない」が胸に降り積もるにつれて、いま自分が答えを探している問いまで、わからなくなってしまう。なにを「わからない」と思っているかが、わからない。ノートの真ん中にぼつんと「=」か「→」のマークを書いて、あとは空白、そんな感じだ。夏休みの頃までは、胸の中はもっと単純だった気がする。毎日をシンプルに過ごしていた。なにも考えていなかったなんて言うとバカみたいだけど、ちゃんと自分で答えの出せることしか考えていなかったのかもしれない。

 ラストでは、色んなことがわからなくなり、行き詰ったエイジがキレはじめる。精神的にキレるとともに、学校や、家や、街や、友達からキレていく。エイジはどこへ行ってしまうんだろうと、読んでいて不安になってしまった。ポケットにバタフライナイフを忍ばせるのではないか、取り返しのつかないことをしてしまうのではないか、と。

 深刻な話の周りには、スポーツ、友情、恋、といった要素も散りばめられている。ツカちゃんのキャラクターに救われているのかもしれないが、楽しんで読むこともできた。しかしラスト近くでの不安感は、忘れられないものとなりそうだし、こうやって読後感想文を書いていると、一層深く考えてしまう。今、悩みを抱えている中学生にぜひ読んでもらいたいし、大人の理屈をこねくり回している親にも読んでもらいたいと思った作品である。

>2004.01.27.TUE


×0228 『フェニックスの弔鐘』 >阿部陽一/講談社文庫/2004.01.26

 「弔鐘」は「ちょうしょう」と読み、「死者をとむらう気持ちをこめて打ち鳴らす鐘」という意味。沢山の死者が出る物語である。前半部分で、NYに飛行機が墜落し、さらに毒ガスを撒き散らすというテロのシーンがあったが、まるで9.11の同時多発テロと日本のオウム地下鉄サリン事件を混同したような凄惨な事件であった。この物語が1990年に書かれたというのは、驚きであるとともに、著者の世界情勢に対する深い洞察を表わしているといえよう。

 しかし、個人的にはこのような世界情勢を背景にした物語はあまり好きではない。自分自身が、そういった世界情勢に疎いせいかもしれないが、説明が多くて肝心の物語が頭に入ってこないことが多いからである。著者がニュースなどに隠された真実を推測し、事件の裏側はこうだったのではないかと述べるのであれば、ノンフィクションの方が向いている。これを無理に小説に仕立てようとすると、説明臭くなってしまうのである。

 本書も、その傾向が顕著であった。ある程度の政治的背景を持ちながら、特定の人物に焦点を当てて、物語を進めていくのであればいいのだが、人物半分、説明半分では面白くない。一応、レイモンド・グリーンというトラウマを抱える主人公を設定しているのだが、活躍の場が非常に少ないと感じた。

 また、著者自信が「あとがき」で、本書は日本の政治家の理想像を描いたものだと書いている。本人が分かりにくかったかもしれないと述べている通り、確かに分かりにくかった。テーマというのは、伝えたいのであれば明確にすべきだし、分かる人に分かればいいと思うのであれば、わざわざあとがきで述べる必要もない。そんなところにも、中途半端さを感じてしまったのである。

>2004.01.26.MON


×0227 『B・D・T [掟の街]』 >大沢在昌/角川文庫/2004.01.25

 ご多分に漏れず私も『新宿鮫』にはまった一人。『毒猿』『屍蘭』とシリーズものを一気に読了したのを記憶している。その後、大沢の他の著書も読んでみたのだが、いまひとつ。『新宿鮫』以外はあまり自分に合わないのかなと思って、大沢作品からはしばらく遠ざかっていた。そんなわけで、私のHPに登場するのも初めて。

 久しぶりなので、期待して読み始めたのだが、まず物語の舞台設定に戸惑ってしまった。舞台は近未来、西暦2050年頃である。六本木、銀座、赤坂といった東京の中心部は、「B・D・T」ボイルド・ダウン・タウンと呼ばれるスラムと化しており、「ホープレス」で溢れ帰っている。「ホープレス」とは日本が移民受け入れ政策を実施した為に生まれて、すぐに親に捨てられた子供たちのことである。

 しばらく読み進めるうちに、漸く舞台設定にも慣れてきたが、大沢在昌のような書き手がハードボイルドを書く際に、舞台を近未来に移すというのは、なんだか安易な気がしてしまった。もともとがSF作家であれば、そういう抵抗もなかったのかもしれないが。そもそも「日本」という舞台がハードボイルドになじみにくいと思うのだが、その制約の中で、いかにハードなシチュエーションを作り出すかが、作家の力量を問われる部分だと思う。『新宿鮫』で確立した力量に、近未来という設定を加えるならば、もっと面白くなくては困るのである。

 物語自体はオーソドックスなミステリーとも受け取れる。意外な犯人と張り巡らされた伏線。あるコールガールが行方不明になったところから話は始まるのだが、☆そのコールガールの行方を調べて欲しいという依頼人の父親が犯人で、コールガールの姉が密告者という設定には、「家族の崩壊」というテーマが見え隠れする。

 近未来を待つまでもなく、今の日本でも外国籍の人々が増えつつあり、それは都会に留まらない。私の実家はとある地方の田舎なのだが、そんな田舎でもブラジル人やイラン人の出稼ぎが増えているという。彼らが、日本人の嫌がる「3K」の仕事を引き受けることにより、就職できない日本人が増えているそうだが、これらの現実に直面すると、大沢の描く近未来があながち外れてもいないのかもしれないと、怖くもなる。だからといって、外国人を拒否するのではなく、きちんとした方針を立てて受け入れていかないと、不法滞在が増加するだけで、日本という国はさらにおかしくなってしまうであろう。

>2004.12.25.SUN


△0226 『大誘拐』 >天藤真/創元推理文庫/2002.10.02

 日本推理作家協会の20世紀傑作ミステリーベスト10の堂々1位の作品である。古い作品のようだが、1位になるくらいなのだから相当面白いのだろうと思って購入。物語は紀州随一の大富豪・柳川家のとし子刀自の誘拐を描いたもの。

 いきなりネタバレで恐縮だが、☆この、とし子という老婆が只者ではない。歴史ある柳川家を切り盛りしているだけあって、頭が切れる。自分の孫ほどの誘拐犯を手なづけて、節税の為に、大誘拐劇を演じるのである。

 物語の展開は軽快で、結構なボリュームなのだが一気に読んでしまった。しかし、最近のミステリーと比べると、ミステリーというよりもコメディといったほうが良いような気がする。1978年に書かれた作品であることを鑑みると、仕方のないことかもしれないが。しかし、作者自身が楽しんで書いているのが伝わってくる温かい作品でもある。☆誘拐といっても、人が死ぬわけでもなく、読者は人質が無事なことが分かっているから安心して読み進めることができる。ハラハラすることが少ないのが難点といえば難点だろう。

 さて、せっかくなので、20世紀傑作ミステリーベスト10を記しておきたい。

  • 1 『大誘拐』 (1978) 天藤真
  • 2 『火車』 (1992) 宮部みゆき
  • 3 『マークスの山』 (1993) 高村薫
  • 4 『占星術殺人事件』 (1981) 島田荘司
  • 5 『レディ・ジョーカー』 (1997) 高村薫
  • 6 『魍魎の匣』 (1995) 京極夏彦
  • 7 『理由』 (1998) 宮部みゆき
  • 8 『事件』 (1977) 大岡昇平
  • 8 『写楽殺人事件』 (1983) 高橋克彦
  • 10 『永遠の仔』 (1999) 天童荒太

>2004.01.24.SAT

苗村屋読書日記 [46]

     



































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