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![]() ○0235 『スメル男』 原田宗典 △0234 『わるいやつら』 松本清張 △0233 『株主総会』 牛島信 △0232 『二つの祖国』 山崎豊子 △0231 『群青の夜の羽毛布』 山本文緒 ○0235 『スメル男』 >原田宗典/講談社文庫/1997.07.30 背表紙あらすじ:ぼくの体に、何かとんでもない変化が起きている。東京全都を嘔吐させるような異臭がぼくの体から漂い始めた。原因はわからない。気弱なぼくを信じてくれる人はたった1人。コンピュータを自在に操る天才少年たちも仲間だ。八方ふさがりの迷路の中で、今、ぼくのとてつもない青春の冒険が拳をふり上げる。 本書は私と原田宗典との出会いの一冊である。本書をきっかけに、彼の作品を何冊か固め読みしたのだが、どちらかというと青春小説やエッセイが得意な作家。本書はむしろ異色の作品である。エッセイなどはなかなか面白いのだが、軽くて後に残らないので、最初に本書に出会わなければ固め読みしようとは思わなかったであろう。そうすると、名作『何者でもない』にも出会わなかったと思うので、出会いの一冊というのは非常に大切だと再認識。 ちなみに、誰もが起こす勘違いだとは思うが、本書は『スルメ男』ではない。私自身、本屋で「スルメ男」と勘違いして、面白そうなタイトルだと思って買ったのだが、それが間違いであることは読み始めてすぐに分かった。念の為だが「スメル=臭い」である。イカではない・・・。タイトルに関する勘違いといえば『オーデュボンの祈り』も紛らわしい。インターネットで検索すると、結構沢山の人が『オーデュポンの祈り』と書いている。こちらは、読み進めても間違いに気付かない分、たちが悪いかもしれない。 さて、物語の方は、ある日なぜか主人公の身体から強烈な異臭が漂い始めるのだが、本人は無臭覚症でそれが分からない、という設定。主人公を助けるコンピューターの天才少年が登場するなど、愉快な物語でもある。しかし、中盤以降少し雲行きが変わってきて、ミステリー色が強くなってくる。最初は変な物語だと思っていたのだが、後半は一気に加速して読了。なかなか興味深いラストであり、ネタバレになってしまうが『テロリストのパラソル』との共通点を感じた。(気になる方は、『テロリスト』の感想を読んでください) 「匂い」といえば『オルファクトグラム』を思い出すが、本書の方が面白かった。軽快なテンポの文体、構成、ストーリー。友情、愛、そして社会問題にもちらりと触れている。何かが突出して面白いというわけではないが、総合力で○の作品。 △0234 『わるいやつら』 >松本清張/新潮文庫/2002.05.20 背表紙あらすじ:【上巻】“どのように美しくても、経済力のない女は虫のように無価値だ”医学界の重鎮だった亡父の後を継ぎ病院長となった32歳の戸谷信一は、熱心に患者を診療することもなく、経営に専心するでもない。病院の経営は苦しく、赤字は増えるばかりだが、彼は苦にしない。穴埋めの金は、女から絞り取ればいい…。色と欲のため、厚い病院の壁の中で計画される恐るべき完全犯罪。 【下巻】愛人関係にある横武たつ子の病夫を殺したあげく、邪魔になった彼女をも殺害し、その上、共犯者の婦長寺島トヨを手に掛けた戸谷信一は、さらに、自分の欲望を満たすため、次の犯行を決意する。社会的地位をもちながら、その裏で、次々に女をだまし、関係しては金を取りあげ、殺してゆく戸谷。やがて、彼に訪れる意外な破局は…。冷酷非情な現代人の欲望を描く推理長編。 『砂の器』の映画に触発されて、松本清張に再注目。一時期固め読みしたのだが、あまり内容を明確に覚えていない。これは前にも書いたかもしれないが、タイトルが分かりにくいせいだと思う。分かりやすければいいというものではないが、せっかくの名作がもったいないような気がする。 その点、本書はわかりやすい。文字通り「わるいやつら」が闊歩する物語である。主人公の戸谷信一は、総合病院の院長。しかし、医者という名の陰に隠れて、悪どいことを繰り返している。横武たつ子、藤島チセという2人の愛人がおり、病院の赤字を補填させたあげく、殺害まで計画。その殺人も、医師として信用のある戸谷の書いた死亡診断書のおかげで疑いを持たれない。なかなかの知能犯なのだが、後半に入ってあせりがでてきたせいか、少しずつぼろを出し始める・・・ やはり「わるいやつら」の物語というのは読んでいて気持ちのいいものではない。男のロマンを掲げながらの痛快な悪事ならまだしも、本書の主人公・戸谷の悪事ははっきり言ってせこい感じがする。その分、ぼろが出始めたときには、早く捕まってしまえという気になる。普通なら、主人公に感情移入していき、捕まらないよう祈るのだが、今回はまったく逆であった。 松本清張のタイトルについては、以前から気になっており注目していたので、途中でふと気がついたのだが、「わるいやつら」というのは複数形である。「わるいやつ」という単数形ではない。共犯者がいるのか、それとも・・・と思っていたところ、ラストは読みどおりの展開。ミステリーが好きな人には簡単に読めてしまう展開かもしれないが、充分に楽しむことが出来た。 「医者」という立場を山崎豊子が描くと『白い巨塔』になり、松本清張が描くと本書のようになるのであろうか。医者が殺人を計画的に起こした場合、その発見は非常に困難になるだろうという「社会の盲点」をうまくついた作品。今でも、そんな殺人がごろごろ転がっているのかもしれない。
△0233 『株主総会』 >牛島信/幻冬舎文庫/1999.05.10・2004.01.31 背表紙あらすじ:リストラ目前の総務部次長が株主総会で突如社長を解任し、年商二千億の会社を乗っ取った。いったい何が起こったのか?総会屋問題で揺れる日本中の大企業の経営者たちを恐怖のどん底に叩き込んだ衝撃のベストセラー早くも文庫化!現役の超一流弁護士が商法上可能な限り熾烈な攻防を描き、企業に生きる男たちの存在理由を問う企業法律小説。 タイトルどおり物語は株主総会から始まる。主人公の各田はリストラを勧告された総務部次長。しかし、総務部次長という立場は総会屋対策の為に銀行などの大株主から議決権を委任されている。各田はその立場を利用して、株主総会で自らを社長として選任する。 リストラを勧告された社員が、法を武器に会社に立ち向かうという構図は『MBO』と同じで少しマンネリを感じなくもないが、『MBO』が会社の乗っ取りをクライマックスに持っていったのに対して、本書では乗っ取りから物語が始まる。両作品とも、衝撃的なシーンから始まり、うまく読者の興味をひきつけている。 さて、今回は再読なのだが、『MBO』を読んでいたため、よりスムースに読む進めることが出来た。特に後半に出てくる、「ホワイト・ナイト」だの「マネジメント・バイ・アウト」「ゴールデン・パラシュート」だのは、以前読んだときには知らなかったはずであり、恐らく読み飛ばしていたであろう言葉である。 ちなみに、「ホワイト・ナイト」とは、白馬の騎士、つまリ、敵対的な買収をかけられた会社の依頼で、現経営陣と協力してその敵対的な買収を阻むために、自分が乗り出して友好的買収をする立場の会社のこと。また「マネジメント・バイ・アウト」とは、まさに『MBO』のテーマであり、経営陣が自分の会社の資産を担保に金を作って自分の会社の株を員い上げること。「ゴールデン・パラシュート」は、経営者がやめる際に様々な恩典を与えるという規定であり、この言葉を知らなかった初読の際は、主人公の各田がどのような利益を得たのか今ひとつピンと来ていなかった。 最近では、米系投資ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンドによる、毛織物染色加工のソトーや、金属工作用油剤大手のユシロの株式公開買い付け(TOB)が新聞紙上をにぎわせているが、これは日本でも買収などが日常茶飯事になりつつあると感じられる事件。株式公開買い付けとは、不特定多数の者に対して公告により株券等の買い付けの勧誘を行い、有価証券市場外で株券等を買い付けることである。株式の持ち合いが解消されつつあること、日本の株式市場が低迷し優良企業の株価が割安になっていることなど、様々な要因があるのだろうが、競争力をつけ、かつ市場にも評価される企業でなければ生き残りが難しくなってきているということであろう。
△0232 『二つの祖国』 >山崎豊子/新潮文庫1998.05.23 背表紙あらすじ:【上巻】アメリカに生まれ、アメリカ人として育てられた日系二世たち。しかし日米開戦は彼らに残酷極まりない問いを突きつけた。日本人として生きるのか、アメリカ人として生きるべきか?ロサンゼルスの邦字新聞『加州新報』の記者天羽賢治とその家族の運命を通し、戦争の嵐によって身を二つに切り裂かれながらも、愛と祖国を探し求めた日系人たちの悲劇を浮き彫りにする感動の大河巨編! 【中巻】合衆国へ忠誠を示すため、米軍兵士としてヨーロッパ戦線に散った末弟・勇。そして日本軍兵士として出征した次弟・忠。自らも米軍少尉として南太平洋に配属された賢治は、血を分けた弟と戦場で会うことを恐れていた…戦争は天羽一家の絆を引きちぎり、彼らのささやかな希望も夢も呑み込んで荒れ狂う。祖国とは何か?国を愛するとは何なのか?徹底した取材で描く衝撃的ドラマ! 【下巻】東京裁判法廷に白熱の攻防戦が繰り広げられ、焦土の日本に判決の下る日も間近い。戦勝国と敗戦国、裁く者と裁かれる者、いずれも我が同胞なのだ…裁判の言語調整官を勤める天羽賢治は、2つの祖国の暗い狭間にいよいよ深く突き落とされていく。妻との不和も頂点に達し、苦境に立つ賢治。彼を見守る梛子の身体にいつしか原爆の影が忍び写る…。壮大なスケールの感動大作、完結編! 国籍をテーマに、主人公のアイデンティティを描いた作品というのが、幾つかある。日本と台湾の混血であるがゆえに、自らがどちらの国籍に属するのか分からずもがき苦しむ姿を描いた『不夜城』、スイス人の父親と日本人の母親の間に生まれた、ハーフ姉妹の狂気を描いた『グロテスク』。また、生まれた国と育った国とが異なる中国残留孤児を描いた『大地の子』など。 本書は、日系2世としてロスアンゼルスに生まれ育った新聞記者・天羽賢治の物語である。太平洋戦争の中で日本と米国との板ばさみになり、苦しみ続ける賢治。直接日本兵を殺さずにすむなら、と語学兵を志すが、「二つの祖国」を抱えるがゆえに生じる、アイデンティティとの戦いにやがて疲れ果てていく。 太平洋戦争など当時の一連の戦争というと、日本軍の暴挙ばかりが取沙汰されているように感じるが、それらの影に隠れて、このような悲劇があったことを本書で始めて知った。山崎豊子ならではの視点だと、深く感じ入った。しかし、本音を言うと、テーマの重さに負けてしまい楽しい読書ではなかった。「読書=楽しむもの」でないことは分かっているのだが、重いテーマだからこそ、多くの人に読んでもらえるようストーリーを練り上げるべきだろう。『沈まぬ太陽』などは、テーマの重厚さを損なわず、ページを繰る手ももどかしいような展開が楽しめた。 さて、本書のテーマである、国籍に対するアイデンティティについて触れたい。戦争当時で、しかも敵対しあう国を祖国に持つというのは、想像を絶する苦しみなのだろう。それに比べると、グローバル化の名の元、どんどん国際化が進んでいる現在では、ここまで苦しむことは少ないかもしれない。一方で、ハーフであるが故日本語が不自由だとすれば、学校でいじめられることもあるだろう。比較論で考えると、戦争とイジメでは天と地の差があるかもしれないが、悩みを抱える本人にとっては一大事である。 しかし、よくよく考えてみると、戦争もイジメも「人災」である。人の心がすさんでいるから、アイデンティティに苦しむ者が出てくるのではないだろうか? 人の心がすさんでいるから、自分達と異なる者を虐待しようとするのではないだろうか? 自殺者が急増中の現代社会は、人の心がすさみきった、戦時下といってもいい時代なのかもしれない。
△0231 『群青の夜の羽毛布』 >山本文緒/幻冬舎文庫/2002.03.10 背表紙あらすじ:家族っていったい何でしょうね?たまたま血が繋がっているだけで、どうしていっしょに暮らしているんでしょう。―丘の上の一軒家に住む女三人。家族とも他人ともうまく関係を結べずに大人になった長女と、その恋人をめぐって、母娘の憎悪、心の奥底に潜めた暗闇が浮かびあがる…。恋愛の先にある幸福を模索した、ミステリアス長編小説。 山本文緒にしては珍しい、ホラー調の作品。冒頭からいきなり狂気を思わせる展開で、物語は誰かの独白から始まる。「復讐ですか。そうですか。おでんに農薬でも入れましょうか。はんぺんなんか食べたら、たっぷり汁を吸ってるからコロッと死ぬでしょうね。タコなら助かるかもしれませんよ。先生」 登場人物は女性が3人。対人恐怖症のさとると、その妹のみつる。そして彼女たちの母である。そしてもう1人、さとるの彼氏である鉄男が登場するのだが、さとるが秘めている狂気を少し恐れながらも、さとるの魅力にひかれていってしまう。
この物語は非常に感想が書きにくい。ネタバレでないと書けないのである。というわけで、以下大幅にネタバレなので未読の方は要注意。☆まず、冒頭の独白だが、さとるが対人恐怖症で、家事を一手に引き受けていることから、さとるの言葉だと思い込んでしまう。しかし、徐々に独白の語り手が働いていることが分かりはじめ、母の言葉かと思ってしまう。母の言葉にしても違和感があるなと感じ始める頃、隠されていた父親の存在があきらかになるのである。このような凝った構成が無理なく頭に入ってきて、なかなか楽しめる作品であった。
最初はまともだと思っていた母も狂気を帯びていることが分かり始めるあたりから物語は加速していく。鉄男と寝てしまったときなど、おいおいやりすぎじゃないかいと思ったほど。そしてさらに、家族への復讐の為、狂った振りをして、結局本当に狂ってしまった父が登場したときには、背筋に冷たいものが走るような感覚を味わった。 最初はまともだと思っていた人のほうが、より狂気を帯びてくるというのは、『グロテスク』のよう。そういえば、妹の名前はみつる。この物語では唯一ノーマルに描かれている。『グロテスク』のミツルは勉強で一番になることを目標にして壊れてしまった女性だった。偶然とはいえ、「女性」の生き方を独特のタッチで描く2人の女性作家の作品に、同じ名前のキーパーソンが登場するというのは、なかなか面白いと思った。 苗村屋読書日記 [47]
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