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○0275 『MISSING』 本多孝好
×0274 『代行返上』 幸田真音
△0273 『連結財務諸表の知識』 野村健太郎
△0272 『贈られた手』 天童荒太
△0271 『ギャップ』 大宮弁慶


○0275 『MISSING』 >本多孝好/双葉文庫/2004.04.25

 2000年のこのミス第10位の作品。10位とはいえ、この年は『永遠の仔』『白夜行』『亡国のイージス』が1、2、3位を占める豊作の年。期待半分で読み始めたところ、思いのほか良い短編集だった。本格的なミステリーではなく、殺人事件なども起こらないのだが、『空飛ぶ馬』『ななつのこ』ほどファンタジックでもなく、むしろ日常の中の人間の鬱屈した気持ちを描いた作品と言っていいだろう。では、1編ずつ感想を。

『眠りの海』・・・私小説的な始まり。高校教師と女子高生の恋と、自動車事故による女子高生の死。最初はなぜこれがこのミスにランクインされたのか不思議だったのだが、読み進めるうちに理由が判明。しかし、最後の最後で「少年」の正体が分からなくなってしまった。「けれど彼は、耐え切れなかったのだろう」という一文が大きな意味を持っているのだと思うのだが・・・。

『祈火』・・・死んだ妹の名前を名乗り続ける姉の話。母親を追いかけようとして道に飛び出し、車に引かれてしまった妹。轢き逃げをした車の色は赤だという証言とグレーだという証言と。こちらも私小説的な導入から、徐々に謎解きへと推移していく。ささいな謎の裏に隠されているのが、人間の苦しみであったり、哀しみであったり。余韻を残す、切ない作品。

『蝉の証』・・・老人ホームで過ごす老婆と、その孫。老婆の友人の不可解な行動に、探偵役を仰せつかった孫。探偵の真似事の先に行き着いた足の不自由な少女。途中の挿話がなんともいえない伏線となり、ラストシーンを盛り上げる。おもわずラストではジーンとしてしまった。

『瑠璃』・・・「奔放」という言葉を絵に描いたような少女ルコ。ルコとは流子であり、瑠子でもあり・・・。ルコに憧れる僕とルコとの淡い恋を描きつつ、物語は少しずつ時を刻んでゆく。ルコを縛る、生まれてこなかった兄か姉。やがて「奔放」という言葉にさえ縛られてしまうルコ。そんなルコの唯一の理解者である僕は、小さな後悔を胸にしながら、新しい命とともに未来へ向かっていく。若い頃の「何者かになりたい」という想いがひしひしと伝わってくる秀作

『彼の住む場所』・・・テレビにも登場する大学教授の「彼」とその幼馴染の「僕」 成績優秀で品行方正な「彼」が、ずっと抱き続けてきた小さな悪意。しかしその悪意は、実現することなく今に至っている。「彼」は悪意を実現しなかったことを勇気のない行為だとして自分を責めるのだが・・・。その影に登場する「サトウ」という男。クラスの誰もが覚えていない「サトウ」 ☆「サトウ」は優等生の「彼」が生み出したもう一人の「彼」ではないかという疑問を抱かせたまま、物語は終わってしまう。

>2004.04.25.SUN


×0274 『代行返上』 >幸田真音/小学館/2004.04.19

 最近よく耳にする「代行返上」をテーマにした作品。そもそも代行返上とは何かと言うと、作中では、後に証券会社に転ずる、理美という出版社の女性に対して、主人公の河野が説明する形を取っている。

 それによると、企業の年金というのは3階建ての家のようなもので、「基礎年金」「厚生年金」「厚生年金基金」の3つから成り立っているとのこと。「基礎年金」は江角マキコでも話題になった「国民年金」のこと。「厚生年金」は民間サラリーマンを対象にした制度で、基礎年金が定額支給なのに対して、厚生年金は加入者の収入に応じて掛金が異なり、年金も掛金に応じて支払われるもの。「厚生年金基金」は企業の実情に応じて企業独自に年金の上乗せを行っているプラスアルファの部分。厚生年金基金は、母体企業とは別法人として設立されていて、基金が自分たちで掛金の徴収や、運用、年金の給付を行うもの。肝心の「代行返上」だが、まず「代行」とは前述の「厚生年金」のうち、本来、国に納めて国が運用すべきところを、企業が国に代わって運用していた部分をいう。「代行返上」とはその代行部分を、国に返してしまうことである。

 長々と説明してしまったが、本書は企業が代行返上する際に、今まで運用してきた証券などを大量に市場に売り出すことになり、市場が暴落する恐れがあるという警鐘小説である。主人公の河野は、市場が暴落しない様なスキームを考案するのだが、陽の目を見ないまま物語は進展していく。中盤以降は、作者お得意のヘッジファンドが出現し、代行返上による市場暴落を見越して、大儲けをしようという話に転換していく。

 「代行返上」するための事務手続の大変さや、普段あまり注目されない厚生年金基金で働く人々にスポットを当てている点はなかなか面白いと思ったのだが、結局は派手なヘッジファンド系の話になってしまったのが残念である。また、河野を取り巻く人たちが、都合よく出会いすぎるのも難点。以前から書いている通り、偶然の要素が多すぎる小説は好きではない。また、リョウと呼ばれる主人公のライバルの人物設定も今ひとつ。幼い頃のトラウマを抱えているようだが、大した事件が起こったわけでもなく、説得性にかける設定であった。

 私自身は「代行返上」が従業員にとっていいものなのか、悪いものなのか、未だに判断できないでいる。この小説を読んで少しでも考えが定まればと思ったが、従業員に対するメリット・デメリットは明記されていなかった。それに比べて企業にとってのメリットは明快である。例えば、従業員に支給する部分の運用金利を5%と設定する。運用金利が高かった時代には、企業が7%の運用実績をあげれば、差額の2%が企業の利益となったのである。この為、多くの企業が「代行」していたのだが、低金利が続く昨今、企業の運用実績が3%だとすると、2%の逆ザヤ分を企業が負担しなければならなくなり、企業経営を圧迫し始めたのである。この結果、代行返上が盛んに行われる様になったのである。

 我々労働者から見れば、企業であろうが国であろうが、きちんと当初定めた5%相当の年金をもらえれば文句はないのだが、国民年金の存続ですら危うい昨今、きちんと国が支払ってくれるのか非常に不安である。ちなみに、本書とは関係ないが最近よく耳にするものとして、「確定拠出型年金」というものがある。これは「確定給付型年金」と対立するものであり、通常、年金というのは

 [企業] −掛金の拠出→ [年金基金] −年金の給付→ [従業員]

というスキームで動いている。つまり、企業が基金に対して掛金を支払い、基金はその掛金を運用し、従業員に対して年金を給付するのである。従来は「確定給付型」が大半で、従業員に給付される、つまり、従業員がもらえる年金の額が決まっていたのである。一方「確定拠出型」というのは、企業が拠出する、つまり企業が支払う掛金の金額を固定してしまうものである。

 「確定給付型」であれば、基金の運用実績が悪くても、不足分を企業が補填していたのだが、「確定拠出型」では、いくら基金の運用実績が悪くても、企業が支払う掛金が決まっているため、企業が補填することはない。つまり、基金の運用実績のしわ寄せがすべて従業員に来てしまう仕組みなのである。これを少し発展させたのが、いわゆる「401Kプラン」であり、これは年金の運用先を従業員が選べるというもの。本日の日経新聞でも、「確定拠出型」は転職先の企業でも継続できるため、転職時に有利と言われていたにもかかわらず、まだ制度が整っていないという記事が出ていた。しかし、制度面の充実もさることながら、私には「運用に失敗したらアンタの責任だよ」という、非常に無責任な制度に感じられるのである。

 「確定給付型」と「確定拠出型」については、たまたまCPAの授業で習ったもの。それまではこのような違いがあることなど、全く認識していなかった。年金と聞いただけで、複雑で分かりにくいように感じるのだが、そもそも我々の生活に密着している制度が「複雑」だというのが問題ではないだろうか? 「複雑さ」を隠れ蓑にして、誤魔化されているような気がするのだが・・・。

>2004.04.19.MON


△0273 『連結財務諸表の知識』 >野村健太郎/日経文庫/2004.04.17

 日本でも個別決算から連結決算中心になってだいぶ経つが、移行期には仕事が倍になって大変であった。個別用の説明資料と連結用の説明資料とを作成しなければならなくて、徹夜をしたことも。当時は大した知識も無く、時間に追われて仕事をしていたが、改めてこの手の本を読み返すとなかなかおくが深くて面白い。会計に興味のない人には、全く面白くないだろうが、備忘の為なので御勘弁を。

 まずは簡単に連結決算について。連結決算とは、親会社と子会社の決算を合算して発表するものである。子会社を利用した不正を防ぐ為、日本でも本格的に導入された。時価の下落した土地や証券などを、高い値段で子会社に売りつける、いわゆる「飛ばし」などが代表例。親会社では利益が出るが、子会社は大赤字になってしまう。いままでの単独決算では子会社の赤字が見えなかったので、問題視された。

 しかし、合算といっても単純に合計することは出来ない。極端な話、親子の間で売ったり買ったりを繰り返せば、売上はどんどん増えていってしまう。そこで、連結グループから外部のお客さんへ売った金額だけを、本当の売上として計算する為、内部消去というのを行なう。

連結決算における内部消去

■仕入先 −100→ 親会社 −120→ 子会社 −150→ 得意先

(1)取引高の相殺消去
 上記の例では、連結グループとしての外部に対する売上は150にもかかわらず、単純合計では270の売上になってしまう。よって、親子間の内部取引120を消去しなければならない。

 【単純合算】
 売上原価(親) 100 / 売上高(親) 120
 売上原価(子) 120 / 売上高(子) 150
 売上利益   50

 【内部取引消去】
 売上高(親)  120 / 売上原価(子) 120

 【連結決算】
 売上原価(親) 100 / 売上高(子) 150
 売上利益   50

(2)債権債務の消去
 取引高と同様に、親子間の債権債務についても、B/Sを膨らませる要因になる為、消去が必要となる。

 【単純合算】
 売掛金(親) 120 / 買掛金(親) 100
 売掛金(子) 150 / 買掛金(子) 120

 【連結消去】
 買掛金(子) 120 / 売掛金(親) 120

 【連結決算】
 売掛金(子) 150 / 買掛金(親) 100

■ 親会社 −200(株式100%)→ 子会社

(3)投資・資本の消去
 上記の例のように、親会社が子会社の株式を所有している場合、親会社の投資有価証券(子会社株式)と子会社の資本金を消去しなければならない。

 【単純合算】
 投資有価証券(親) 200 / 資本金(子) 200

 【連結消去】
 資本金(子) 200 / 投資有価証券(親) 200

(4)配当金の消去
 親会社が子会社から受取った配当金は、子会社の支払配当金と相殺消去される。

 【単純合算】
 支払配当金(子) 20 / 受取配当金(親) 20

 【連結消去】
 受取配当金(親) 20 / 支払配当金(子) 20

■ 仕入先 −100→ 親会社 −120→ 子会社(在庫)

(5)未実現利益の消去
 親会社が販売したものを子会社で在庫として保有している場合、外部に対する売上が発生しておらず、連結決算上は売上高及び売上利益を認識すべきではない。この際発生する利益を未実現利益と呼び、消去しなければならない。

 【単純合算】
 売掛金 (親) 120 / 売上高(親) 120
 売上原価(親) 100 / 買掛金(親) 100
 棚卸資産(子) 120 / 買掛金(子) 120

 【連結消去】
 売上原価(親) 20 / 棚卸資産(子) 20
 売上高 (親) 120 / 売上原価(親) 120
 買掛金 (子) 120 / 売掛金 (親) 120

>2004.04.17.SAT


△0272 『贈られた手(家族狩り第三部)』 >天童荒太/新潮文庫/2004.04.14

 背表紙あらすじ:ピエロ。浚介は、生徒たちからそう呼ばれていたのだという。ふたつの事件を経て、虚無に閉ざされていた彼の心に変化が訪れていた。ピエロ。馬見原は今そう見えるだろう。冬島母子を全身全霊で守っているにもかかわらず、妻や娘との関係は歪んだままだから。また一つ家族が失われ、哀しみの残響が世界を満たす。愛という言葉の持つさまざまな貌と、かすかに見える希望を描く、第三部。

 先日のニュースで、親による子の虐待が、ここ3年で3倍近くになっているという特集を放送していた。このようなニュースを見ると、すぐに天童荒太を連想してしまうのだが、本作品といい、『永遠の仔』といい、一貫して重いテーマに真摯に取り組んでいる姿には脱帽である。

 さて、家族狩り五部作の三番目に当たる本書では、子供による親の惨殺という大きな事件が再び起こり、馬見原を中心に、少しずつ物語が加速していく。それぞれの登場人物が抱える内面の悩みも見え隠れし、派手さは無いものの、渋い仕上がりになっている。

 また、本作では特に「白アリ」が家族の象徴として描かれているように感じた。最初はわずかな兆候しか見せないものが、少しずつ屋台骨を蝕んでいき、気がついた頃には取り返しのつかない状態になっている・・・。家族の崩壊というのは、まさに「白アリ」のようなものかもしれない。

 作中、気になった箇所を抜粋。「強い弱いは、簡単には言えません。人はそれぞれ、或る状況には強いけれど、別の状況には弱い、そういった生きものです。あなたも、あなたのお父さんも、或る場面では強く、別の場面では弱い。誰かを支える力もあれば、誰かに支えてもらわないと倒れてしまう……支えるというのは、実際に手を貸すことだけではないと思います」

 >『家族狩り』『幻世の祈り』『遭難者の夢』『贈られた手』『巡礼者たち』『まだ遠い光』

>2004.04.14.WED


△0271 『ギャップ』 >大宮弁慶/スタープレス/2004.04.11

 米国CPA(公認会計士)を目指す、キャリア・ウーマンの話。作者の自分の経験談を交えながら、CPA受験までの過程を小説仕立てで紹介しており、これから受験を目指す人にとっては、参考になるかもしれない。また、本書は1999年に書かれており、ちょうど進み始めた金融ビッグバンにも触れており、日米の会計における「ギャップ」が熱く語られている。筆者曰く、金融ビッグバンは、「金融鎖国体制からの開放」だそうである。ちなみに、「ギャップ」とは、いわゆる「GAP」と、「GAAP」を掛けたものだと思われる。「GAAP」とは、"General accepted accounting principal"の略で、一般に公正妥当と認められる会計基準のこと。

 前半は、CPA受験に向けての手続きなどが述べられており参考になったのだが、後半の急展開で途端にわけの分からない小説になってしまっているのが残念。筆者がSF好きとのことだが、無理をしてこんな設定にしなくてもと思ってしまった。(巻末の解説にも同じようなことが書かれていた) というわけで、第6章くらいまで読めば十分な作品。

>2004.04.11.SUN

苗村屋読書日記 [55]

     



































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