×0335 『陸影を見ず』 曽野綾子
△0334 『火の粉』 雫井脩介
×0333 『重金属青年団』 花村萬月
△0332 『戦略リーダーシップ−』 石川忠幸
△0331 『地頭が強い人間は仕事ができる』 中島孝志


×0335 『陸影を見ず』 >曽野綾子/文春文庫/2004.9.26

 背表紙あらすじ:核燃料輸送船「曙丸」の60日に及ぶ無寄港航海。環境保護団体の非難や各国の思惑、過熱する報道、果てしない海をただ進む閉塞間の中でも、信念のある輸送班長・加納知世は家族や友への深い愛情を持ち続け、任務を全うした…。人間の叡智を照らし出し、生きる知恵と勇気を与えてくれる曽野流海洋文学の傑作。

 海洋文学といえるかどうかは分からないが、海や船を舞台にした作品には印象的なものが多い。例えば『終戦のローレライ』、例えば『シェエラザード』…。本書は、戦争からかけ離れた世界とはいえ、積荷がプルトニウムということで、軍艦さながらの訓練を重ねた「曙丸」の物語である。結局、大きな事件は起こらなかったとはいえ、いつテロリストやグリーンピースなどの妨害が入るか分からない状況での船旅というのは、戦時中以上に緊張するものかもしれない。しかも、自分が沈んでしまう危険だけでなく、世界を核の恐怖に陥れる危険性まで含んでいるから、なおさらである。

 このような緊張下にも関わらず、主人公・加納知世の淡々とした語り口調のせいだろうか、なんともノンビリとした雰囲気の作品になってしまっていた。作中に出てくる、ガンに侵された友人のエピソードなども、船の描写だけでは間が持たないから挿入されたのではないかと勘ぐってしまうほど。

 ただ一点、何となく主人公の危機感を表わしていたなと思うのが、シェーバーが壊れたり、ボールペンが失くなったりしたときの心情。身近に使っていたものが、身代わりになってくれるという発想には何となく共感できる。大事なものを失くしたときの自分に対する言い訳かもしれないが、私自身、日常生活においてそんな風に感じることがしばしば。

 さて、本書は、1992年から93年にかけて実際にプルトニウムを輸送した「あかつき丸」がモデルになっている。実話を元に書かれているのだが、最初からノンフィクションを読むような心積もりで読めばよかったのかもしれない。また、過去に読んだ海洋文学が戦争と関連しており、非常にドラマティックだった為、本書にもそのようなものを無意識に求めていたのかもしれない。いずれにせよ、貴重な記録であることは理解できるのだが、少々退屈な物語だと感じてしまった。この手の物語を楽しめるようになるには、もう少し年齢を重ねる必要があるのかもしれない。

>2004.09.26.SUN


△0334 『火の粉』 >雫井脩介/幻冬舎文庫/2004.9.25

 背表紙あらすじ:「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」 元裁判官・梶間勲の隣家に、二年前に無罪判決を下した男・武内真伍が越してきた。愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い…。武内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴む。しかし梶間家の周辺で次々と不可解な事件が起こり…。最後まで読者の予想を裏切り続ける驚愕の犯罪小説!

 背筋を寝違えてしまった。首筋の寝違えは何度か経験があるのだが、背筋というのは初めて。これが結構辛くて、一時は歩くのも苦痛だったほど。原因はというと、この連休にうつ伏せの状態で肘を立てて読書をした後、フローリングの床で寝入ってしまった為だと思う。運動不足とはいえ、好きな読書で寝違えるというのはいかがなものか。ちょっと反省。

 さて、その原因を作ったのが本書である。後半に入って俄然面白くなり、一気に読み終えてしまった。この間、ずっと同じ体勢を取り続けていたのが良くなかったのであろう。しかし、苦痛をも忘れさせる作品というのは、なかなか凄いのでは…。

 その割りに評価が△というのは自分でも辛口だと思うのだが、読了直後から少し時間を置いて冷静に考えると、この程度かなと。何分、初めての作家でもあるので(しずくい・しゅうすけ、と読むらしい)他の作品への期待値も込めて少し辛口にしてしまった。『犯人に告ぐ』など、とても面白そうである。

 マイナスポイントは、犯人像が現実味を帯びていない点。探せば居そうかなと思えなくも無いが、一生懸命尽くして、ちょっとでも裏切ると激しい復讐に走る…。サイコパス的な犯人に、少し無理を感じてしまった。中盤までの展開がゆっくりしていた点も減点要因。最初は、奥田英朗の世界観と似ているような気がしたのだが、生憎、『邪魔』『最悪』もあまり好きな作品ではない。周到な犯罪行為は、東野圭吾の『白夜行』を思い出させるが、完成度ではもう一つ。あと一歩突き抜けるとスリリングで面白い作品に仕上がったであろう。

 背表紙あらすじの「最後まで読者の予想を裏切り続ける」という謳い文句にも疑問を感じる。どんな裏切り方をされるのだろうと期待していたのだが、結局大した裏切りはなかった。「裏切ると見せかけて裏切らない」という裏切りなのだろうか。言葉の遊びみたいだが、このあたりが期待はずれ。また、最近、一家惨殺という凄惨な事件が多いが、本書でもそのような描写がちらほらと。「流行」というと怒られそうだが、このような時期に書くべきネタではないように感じた。前述の通り、次回作に期待。

>2004.09.25.SAT


×0333 『重金属青年団』 >花村萬月/角川文庫/2004.9.23

 背表紙あらすじ:ヤク中で慢性自殺志願者のブンガクさん。浅草置屋の娘で、文学少女のくせに暴走族にも一目置かれているタカミ。二人を乗せたフェアレディZ改は、深夜の中央高速を疾走った…。H・M・C。レコードすらかけられない元ライブ・ハウス。ここには、毎夜社会不適合の若者たちが集う。辿り着いた二人は、彼らとともにH・M・Cを後にした。北へ―。刺激を求め、快楽を貪るために。音楽と単車。薬と暴力。救いのない魂の行方を描く感動の青春ロード・ノヴェル。

 本書を読んでいてふと思い出したのが、小学生の頃の記憶。自転車のサドルに腹を乗せて、スーパーマン・スタイルで坂道を滑走して遊んでいたときのこと。突如、ハンドルがうまくコントロールできなくなり、坂道を飛び越えて田んぼに激突した。幸いにもかすり傷程度で済んだのだが、一歩間違えば大怪我である。以来、スピード恐怖症となり、バイクはおろか、スキーやジェットコースターも苦手である。

 本書はスピードに挑戦する若者の話であり、それぞれの境遇に立ち向かおうとする青春小説でもある。しかし、スピードの魅力が理解出来ない私にとっては、退屈な小説となってしまった。小説には「合う」と「合わない」があると思うが、本書はまさに「合わない」小説であった。また、覚醒剤を手に入れるために、タカミをヤクの売人に売り飛ばそうとするブンガクさんが出てくるが、先日起こった栃木県の誘拐事件の犯人が覚醒剤を使用していたということもあり、さらに嫌悪感が増したのかもしれない。

 題名の響きが良くて手に取ったのだが、蓋を開けてみると「ヘビィメタル」の和訳。題名から、なんとなく大友克洋や松本大洋の世界観を期待していたのだが、こちらも期待はずれである。まぁ悪い作家ではないと思うので、懲りずに他の作品に目を通してみたい。

>2004.09.23.THU


△0332 『戦略リーダーシップ−「リーダーシップ能力」養成講座』 >石川忠幸・小野隆一/東洋経済新報社/2004.9.22

 先日読了した『Aクラス人材の育成戦略』が妙に印象に残っている。今までは自分に関係のある会計分野の勉強が中心だったのだが、この影響を受けて、他分野のことも少しは知っておく必要があると思って購入したのが本書。この他にも、マーケティングやゲーム理論などについてももちょっと読んでみようかと思っている。

 さて、「戦略」というとものものしいが、極論すれば企業が進むべき道をどう定めるか、ということである。本書の構成は理論編、技術編、実践編と3章立てで書かれており、最初に理論を学んだ上で、テクニックを身につけ、最後に具体例を提示して終わりという理想的な構成である。目次を見た瞬間、この本は結構面白いかもと直感して購入。

 ところが、である。最初の理論編は面白かったのだが、技術編に入った途端にペースダウン。小細工に走りすぎてあまり面白くないというのが正直な感想。また「戦略リーダーシップ」と謳っているが、実際はプロジェクト・マネジメントに関する本といった方が正しい。要は、プロジェクトを任されたときに、具体的にどのように対応していくかを論じた本である。

 理論編で述べられている基本原則は7つ。まずは抜粋してみよう。

  1. 先入観を排除して、白紙でスタートする。
  2. 全員の参加を促し、広く意見を求める。
  3. 事実と客観的な判断により、合意を作る。
  4. 合意されたことは必ず守る。
  5. 判断基準を変更したり、誤りを見つけた場合には、すぐに訂正する。
  6. 参加者の責任と権限を明らかにする。
  7. 定期的にコミュニケーションの場を設け、双方向に情報交換する。
 もう少し具体的に述べると次の通り。(1)意見交換は役職や担当業務を越えて公平に行なう。(2)リーダーの能力の1つであるファシリテーション(議論の効果的な進行スキル)を磨き、ベテランだけでなく新人にも意見を求める。(3)プロジェクトの必要性を論理的データによって説明する。(4)会議終了後に合意事項についての議事録を送付することは大変有効。常識として実行すべし。(5)問題が生じたときに、それを隠したり、放置したりすることなく、適切な対応をとる。(6)人が最も力を発揮するのは、与えられた責任と権限がバランスしているときである。権限委譲を効果的に行なう為には、メンバー全員の能力や適正を見極めることも必要。(7)定期的にミーティングを開き、全員が情報を共有するとともに、進捗状況のフォローを行なう。

 技術編に入ると、これらの理論を実践する為の手法が出てくるのだが、私の個人的な感想かもしれないが、「細かすぎる」のである。プロジェクトが大きくなればなるほど、きめ細かな管理は各部署の責任者に任せて、リーダーは大局を掴まなければならないと思うのだが、本書を読む限り、細かな進捗の把握までもがリーダーの仕事のように感じてしまう。具体的には、意見がまとまらなくなったときの対処方法、優先順位をつける方法、仕事の進捗をフォローする方法、などなど知っておいて損はないとは思うが、これらの技術は、実際にプロジェクトに参画し、優秀な人の仕事の進め方を意識してみていれば身に付けることが出来るものである。

 ちなみに、私が一番意識しているのは、コミュニケーション。前述の基本原則でいうと(5)に当たるのだが、とにかく決まったことや変更されたことをきちんとメンバーに伝えることが大切である。ある事項の決定が、他部署の作業に影響を与えることは常にありうることだし、それをリーダーが全て想定することは不可能である。であれば、とにかく些細な変化であっても、参加者全員に伝えるのが無難であるし、何よりも参加してもらっているメンバーに対する礼儀だと思う。

 最後に印象に残ったコラムを紹介して終わりたい。筆者はかつてGEに在職していたそうなのだが、その際に配布されたマウスパッドには"Be a Leader, not a Manager" というジャック・ウェルチの言葉があったとのこと。Leadが他の考えを尊重しながら啓蒙し、1つの方向にまとめていくイメージであるのに対し、Manageは、自分に課せられた責任に応じて、その場を切り抜けるというイメージがあるとのこと。なかなか示唆に富む言葉である。

>2004.09.22.WED


△0331 『地頭が強い人間は仕事ができる−35歳までに必ずやっておくべきこと』 >中島孝志/小学館文庫/2004.9.19

 たまに、無性にビジネス書が読みたくなるときがある。しかも、難しい経営や会計の本ではなく、仕事のやり方的な本が…。どの本を読んでも、だいたい似たようなことが書いてあるのだが、それでも新しい発見があるのではないかと、手にとってしまう。しかも本書には「35歳までに必ずやっておくべきこと」というサブタイトルが入っていて、何となく焦り出している自分の琴線に引っかかってしまった。

 内容の方は、やはりどこかで聞いたことのあるものばかり。しかし、同じ内容であっても違う言葉で聞くと新鮮であるし、当然のことの方が案外忘れていたりするものである。ということで、少し抜粋。

  • 話すことよりも「聞く」ことの方が大切。様々な「うなづき」のバリエーションを持ち、あなたの話に興味を持っていますよという態度を取り続けると、相手はどんどん話してくれる。
  • 上司に聞かれたことだけに答えるのではなく、質問の意図や背景を読み取り、プラスアルファの回答を用意すること。
  • 今の仕事を大きくする為には、他部門の仕事にも目を向けること。努力に限界を設けてはならない。仕事をセーブしてはいけない。
  • 自分より凄い人間、凄い才能に出会わなければ人は刺激を受けない。35歳までにたくさんの才能とであって、いい意味で「ビックリ」を繰り返すこと。そうして「こんなレベルで満足していてはいけない」と発奮する。
  • 仕事をしていて自分の勉強不足に直面したとき「今から勉強しても遅いかな」と考えたら終わりである。仕事で必要な知識というのは、気付いたときにすぐやらなければ決して身に付けることが出来ない。
  • プロになるためには1万時間必要。1万時間とは、1日8時間で4年、1日3時間で9年かかるということ、。
 これらの他にも、部下を持つ立場になったときの仕事のやり方、つまり、仕事をどのように任せてどのようにフォローしていくかなどが書かれていた。結局、日本企業では30代の前半では初めて部下を持つことが多く、この状況にどうやって対応していくかが、問われるということだろう。自分の知識などをブラッシュアップさせながら、部下にも仕事を任せていく。頭では分かっていながら、なかなか実践出来ないのが現実。本で得た知識だけでなく、現場での実体験が必要ということであろう。

 ところで、最近は企業の採用方針が、新卒採用から中途採用に切り替えたり、派遣社員を雇ったりと、随分変化してきている。特にここ数年はその動きが激しい。新入社員が減るということは、バブル期前後に入社した世代の「部下を持つ機会」が減るということを意味している。書物だけでは得られない実体験の機会がどんどん少なくなってきているのだ。こんなところにも、日本企業の抱える歪が転がっているような気がする。

>2004.09.19.SUN

苗村屋読書日記 [67]

     



































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