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![]() △0035 『アジアの隼』 黒木亮 ○0034 『ザ・ゴール』 E・ゴールドラット ◎0033 『模倣犯』 宮部みゆき ×0032 『八月のマルクス』 新野剛司 △0031 『検察捜査』 中嶋博行 △0035 『アジアの隼』 >黒木亮/祥伝社/2002.10.16 本書ではベトナム・ハノイに駐在する邦銀の担当者・真理戸潤の話と、香港の新興証券会社「ペレグリン(隼)」の物語が、交互に繰り広げられる。前作『トップ・レフト』でも垣間見た、証券会社や邦銀の現地法人の緻密なオペレーションが興味深い。また、ベトナムの描写が面白く、実際に駐在したことがあるか、かなり長期間取材に望んだのではないかと思う。実際、賄賂が飛び交ったり、アジア独特のいい加減さがいたるところで発揮されているが、一方で若手の優秀層の努力は素晴らしいようだ。たまたまベトナムに駐在している友人から聞いた話でも、優秀な人は、ハングリー精神も合わせて持っており、日本人の比ではない努力をするそうである。 アジアの通貨危機も織り込みながら、「ビッグ・ディール」を最後まで迫真の筆力で描ききっている。最近は幸田真音をはじめ、金融業界の小説が増えているように思う。結構興味があるので、いろいろ読んでいるのだが、難しい世界をいかに面白く、いかに分かり易く書くか。両者を満たしている作品は少ないかもしれないが、このような作品に出会ったときは面白さに時間を忘れつつ、勉強になるので一石二鳥だ。『アジアの隼』はまさにそんな作品であった。
○0034 『ザ・ゴール』 >エリヤフ・ゴールドラット/ダイヤモンド社/2001.08.11 小説仕立てで、工場の運営を学べる非常に有益な本であった。一時ベスト・セラーとなり、経済雑誌などでも頻繁に紹介されていた。いわゆるTOC(Theory of constrains = 制約条件の理論)の紹介であり、子供たちのゲームを通じて学ぶ、「ボトル・ネック」の考え方は新鮮であった。また、工場のモノ作りだけでなく、チームで仕事をする環境であればどこでも通用するものだと感じた。つまり、仕事を進めていく上で一番弱い部分、遅れが予想される部分に、最大限の資源(ヒト・モノ・カネ)を投資し、遅れを回避する必要があると言うのだ。 例えば前後する工程として、A工程とB工程があったとしよう。B工程は安定しており、コンスタントに1時間100個の製品を作ることが出来る。しかし、A工程は不安定で、1時間に150個作れることもあれば、50個しか作れないこともある。このような状態で、A工程が安定して1時間100個の作成が出来れば、B工程でも滞りなく作業が出来るため、2時間で200個の生産が可能である。しかし、ボトルネックであるA工程が最初の1時間で50個しか生産できず、次の1時間で挽回して150個作ったとしよう。工場での生産数はどうなるであろうか? 答えは200個ではない。最初の1時間ではA工程で50個しか作れなかったため、B工程でも50個の生産しか出来ない。そして、次の1時間で挽回したA工程の150個が、B工程に投入されても、B工程は100個/hしか生産能力がないため、結局工場全体では150個しか作ることが出来なくなってしまうのだ。 このように示唆に富む手法が至る所に散りばめられている。以下、マーカーを引いた部分を抜粋。
◎0033 『模倣犯』 >宮部みゆき/小学館/2002.08.10 宮部みゆきというと、3つの作風を持っているように感じる。つまり、(1)ミステリー作家(『模倣犯』『理由』『火車』など)、(2)SF作家(『レベル7』『龍は眠る』『クロス・ファイヤー』など)、(3)歴史ミステリー作家(『蒲生邸事件』『初ものがたり』など) 最近は冒険小説的なものも手がけているようで、非常に幅の広い作家である。正直に言うと、宮部みゆきに出会うまで、女性作家の作品はほとんど読んだことがなかった。宮部みゆきのおかげで、高村薫にも出会えたし、桐野夏生にも出会えたのだと思う。私にとっては新境地を開いてくれた偉大な作家である。 さて、『模倣犯』だが、今まで読んだ宮部みゆきの本格ミステリーの中では一番面白かった。『火車』が宮部みゆきの本格ミステリーデビューではないかと思っているのだが、こちらはまずまずの出来栄え。つづく『理由』は、世間の評価が高かった割には、いまひとつと感じてしまった。そんな中、いち早く映画化されたこともあり、非常に注目された作品なのだが、評判どおり、非常に面白く仕上がっている。 まず、物語の進め方がいい。色々な人物の視点から話を進めており、フリーライターを目指す前畑滋子の視点、被疑者であり被害者である高井和明の視点、そしてもう一人の主人公ピースの視点。ゲームのように殺人を楽しむプライド高き変質者を見事に描ききっている。また、その対極にいる純朴な青年の描写も上手く、相反するがゆえにお互いの存在を強調しあっているように感じた。いわゆる、謎解き形式ではなく、途中から犯人は明らかになるのだが、犯罪小説の域を超えており、それぞれの主人公の内面を描く、ビューマン・ドラマになっている。高村薫ほどハードボイルドではないが、人間の内面を深くえぐった切れ味の良い作品である。一度、映画も見てみたいと思っているのだが、邦画にはがっかりさせられることが多いので、なかなか踏ん切りがつかない。小説の世界では優秀な人がたくさん出ているので、映画業界にもぜひ頑張って欲しいと思う。
×0032 『八月のマルクス』 >新野剛司/講談社文庫/2003.03.13 背表紙あらすじ:レイプ・スキャンダルで引退したお笑い芸人・笠原雄二。今は孤独に生きる彼を、元相方の立川誠が五年ぶりに訪ねてくる。だが直後、立川は失踪、かつてスキャンダルを書き立てた記者が殺された。いわれなき殺人容疑を晴らすため、笠原は自らの過去に立ち向かう。TV・芸能界を舞台に描く江戸川乱歩賞受賞作。 乱歩賞受賞作ということでもう一冊。『検察捜査』と打って変わって軽めの作品。「軽め」というと筆者に失礼かもしれないが、元お笑い芸人が主人公のため、印象がこうなってしまった。人物の相関関係や殺人の動機などはよく練り上げられており、楽しめたが、今ひとつパンチにかける作品だった。ところで、この作品の受賞時の題名は『マルクスの恋人』 個人的好みからは『八月のマルクス』の方が好きだ。読み進めるうちに切ない思いが募るいい名前だと思う。ちなみに『検察捜査』も原題は『検察官の証言』 どちらも原題は少々やぼったい気がする。それにくらべて、『テロリストのパラソル』や『左手に告げるなかれ』は非常にうまいネーミングだ。作家というのはコピーライター的な要素も要求されるのか? 「苗村屋読書日記」・・・なんともやぼったい。
△0031 『検察捜査』 >中嶋博行/講談社文庫/2003.04.03 背表紙あらすじ:横浜の閑静な高級住宅街で、大物弁護士・西垣文雄が惨殺された。横浜地検の美人検察官・岩崎紀美子は、捜査を進めるほど、事件の裏に大きな闇を感じる。日弁連と検察庁、警察庁そして県警の確執…。現役弁護士作家が法曹界のタブーを鋭くえぐった、第40回江戸川乱歩賞受賞の傑作リーガル・サスペンス。 最近はUPする冊数を増やそうと、過去の記憶に頼って更新してきたが、やはり感想文の内容が薄くなってしまう。久しぶりに新たに読み終わった本があるのでじっくりとご紹介したい。江戸川乱歩賞受賞の『検察捜査』であるが、あまり知られていない(私だけが知らない?)検察という世界を分かりやすく解説しつつ、ミステリー色もたっぷりの、二重においしい作品であった。後半、説明口調になってしまったのが少し残念だが、検察官と弁護士の確執がリアルに描写されている。検察官というと、高村薫の加納を思い出すが、何をしているかいまいちピンとこなかった。今回の作品を読んで、検察とはこんな世界かと勉強になった。 勉強ついでに、「検察官」でネット検索してみた。要約すると次の通り。検察官というのは、警察が犯人だと目星を付けた人物が、本当に犯人かを別の視点から捜査するもの。また、日本では検察官のみが犯人を起訴できる。検察官とは検事と副検事のことをいい、司法試験に合格する必要がある。 作中では、司法試験に合格した若者たちの多くが、実入りのいい弁護士になってしまい、検察庁は重大な人手不足に陥っているという状況から始まる。そんな中で大物弁護士が殺害されるという事件が起こり、これを起点に女性検事の捜査が始まる・・・。あまり粗筋を書くのは好きではないので、感想に戻るが、女性主人公の明るく破天荒な性格に、全体の重々しい雰囲気が緩和され、バランスの取れた作品に仕上がっている。頭の固い実直な男が主人公だと、こうはいかなかっただろう。また、解説にも書いてあるが、主人公の彼氏の優柔不断さが、後々の伏線となっており、うまいと思わせるシーンがあった。リーガル・サスペンスというとジョン・グリシャムを思い出すが、米国の派手な裁判物とは一味違う、日本固有の世界をうまく描いた作品であった。他にも何冊か著書があるようなので、ぜひ手にとって見たいと思う。
苗村屋読書日記 [07]
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