◎0385 『沈黙の艦隊』 かわぐちかいじ
△0384 『屍蘭−新宿鮫III』 大沢在昌
△0383 『平成トム・ソーヤー』 原田宗典
△0382 『外資な人たち』 楡周平
△0381 『覚悟の技術』 弓場秀樹


◎0385 『沈黙の艦隊』 >かわぐちかいじ/講談社・モーニングKC/2005.02.26

 涙するというよりも「鳥肌がたつ」という表現が似合う作品である。8年余をかけた大作で、この発想はどこから来るのかという驚きに溢れている。迫力ある戦闘シーンが注目されがちかもしれないが、本書は「沈黙の艦隊」という核抑止システムの発想が最大のポイントだと思う。タイトルが『沈黙の艦隊』とある以上、筆者の頭の中にはこのシステムが最初からあったのであろう。物語の細部は連載を進めながら変わっていったかもしれないが、この根幹は揺るがなかったのではなかろうか。

 物語の最初の方で、なぜ「沈黙の戦艦」でなく「艦隊」なのかという疑問を持ったのだが、これは後半解明する。「艦隊システム」へ至るまでの過程も面白かった。また、「やまと」に保険をかけるという発想も秀逸。常人では思いつかないようなアイデアは、作品に愛情を持ち、考えに考えぬいた成果であろう。

 印象的な言葉は、日本という国に対し「この国は海外からの圧力がなければ何一つ改革されない。あの男も海から来た」というもの。明治維新しかり、戦後の復興しかりである。この海から来た主人公の海江田という人物の魅力は、悪魔的な操艦だけではない。特に後半から発揮する政治的能力の高さも大きな魅力のひとつであろう。メディアを味方につけ、情報戦に強いところも魅力のひとつだろうか。

 魅力的な漫画にはやはり忘れられないシーンというものがある。大きく3つあるのだが、1つは潜水艦が空を飛ぶシーン。米軍の集中攻撃を避ける為、急浮上し、さらには爆撃の勢いをも利用して空を飛んだときには思わず喝采であった。現実的には不可能と思われる飛行シーンが、海江田の操艦技術をもってすれば、実現できるような気がするから不思議である。次に、ニューヨーク沖で海江田が「やまと」とともに潜水するシーン。「やまと」の潜望台の上に立って約2分間の潜行を行なうのだが、このショウ的パフォーマンスにも驚嘆させられた。そしてラスト近く。海江田がついに国連総会に出席した後、1つ1つの国名を読み上げていくシーンである。たったそれだけのことだが、歴史に残る演説といえるのではないだろうか。

 さて、本書の登場人物の中で一番好きなのは深町である。その男気、海江田にも負けない操艦技術、上に喰らい付いていく意志。どれを取っても理想的な上司像だが、特筆したいのはそのバランス感覚である。世界中が「海江田」という魔物に翻弄されつつある中で、一人冷静に「あいつの言葉に騙されてはいけない」と主張し続けていたのが印象的であった。

 確かに、冷静に考えれば、「やまと」は攻撃されてから反撃しているとはいえ、数多くの米国軍人の命を奪っているのである。世界平和の為の犠牲といえばそれまでだが、本当にここまでの攻撃が必要だったのだろうか? 核を持たずに戦闘に臨み、世界平和・核廃絶の大義名分をかかげてはいるものの、彼らの行為が許されるのであれば、テロ行為すら正当化されることになってしまうのではなかろうか。

 結局筆者にもそのようなジレンマがあったのだろうか、最後は「海江田の脳死」という悲劇で幕を閉じる。海江田は、生きてリーダーシップを発揮するでもなく、死して神話となるでもない中途半端な状態で終わってしまった。しかし、賛否両論あろうが、ここまで海江田というキャラクターが大きくなりすぎた状態では、これ以外のラストはありえなかったようにも思う。

>2005.02.26.SAT


△0384 『屍蘭−新宿鮫III』 >大沢在昌/光文社文庫/2005.02.23

 背表紙あらすじ:犯罪者たちから「新宿鮫」と恐れられる、新宿署刑事・鮫島。新宿の高級娼婦の元締め・浜倉が殺された。事件に迫る鮫島の前に浮かび上がる産婦人科医「釜石クリニック」。背後に潜む呪われた犯罪とは? だが、鮫島に突然、汚職・殺人の容疑が! さらに敵の完璧な罠が「新宿鮫」を追いつめる! 息詰まる興奮、圧倒的な感動! 超人気傑作シリーズ第3弾。

 最近、新宿鮫シリーズを読み返したくなり、かといって以前読んだ本をわざわざ買うのもなんとなくもったいない気がしており、結局ブック・オフで100円均一コーナーに並んでいるのを見つけては購入している。本書はその3冊目。『新宿鮫』『毒猿』は簡単に見つかったのだが、本書『屍蘭』はなかなか100円コーナーに入ってこず、先日漸く見つけた次第である。

 冒頭から東京国税局の査察官が登場。警察以外にも犯罪撲滅に奔走する役人がいるのを知ることができて興味深い。このあたり、何となく真保裕一の小役人シリーズを彷彿とさせる。真保に負けず劣らず、本書の著者・大沢も取材を重ねている様で、機捜と捜査一課との関係なども面白い。

 『毒猿』が、恐ろしいながらも爽快感を感じさせる物語であったのに対して、本書は陰湿な雰囲気が付きまとう作品である。☆堕胎した胎児を臓器移植用に輸出するだとか、殺人に毒薬を使うだとか、犯罪の手段も何となく辛気臭い。☆ これは解説でも述べられていることだが、著者が常に新しいものへ挑戦しようとしている意気込みの表れと取ることもできよう。派手なアクションが続いた『毒猿』の「動」に対して、本書の「静」 中でも、病院で眠るあかねは、物語の核心であるとともに、象徴だとも言えるであろう。『屍蘭』というタイトルもここから来ているようである。

 そういえば、先日、ある研究者の方と話をする機会があったのだが、ES細胞を利用した再生医療について教えてもらった。ES細胞とは、Embryonic Stem Cell、つまり胚幹細胞のことで…、と日本語に訳されても「胚幹」という言葉すらピンと来ず、「配管?」「肺患?」など頓珍漢な想像をしてしまった。真面目に解説すると、ES細胞とは人体を形づくるあらゆる細胞にへと変ぼうすることのできるおおもとの細胞であるとともに、変ぼうする前の状態のまま自らをいくらでも分裂させて増やすことができる特性を持つものであり、皮膚や骨の再生に利用できるそうである。現段階では皮膚再生についてはかなり技術が進歩しており、次のステップである骨や筋について研究中だとか。さらに研究が進めば、内臓も再生できるそうで、まさに夢の技術と言えるのではないだろうか。パーキンソン病や糖尿病の治療にも応用できたり、臓器移植しても不適合にならなかったりと、メリットは大きそうである。この様な技術が進歩すれば、今回の犯罪の根源である胎児の輸出や、海外で問題になっている医療目的での幼児の売買・誘拐などの犯罪も減るのではと期待してしまう。

 さて、本書に話を戻すと、緻密なプロットや、斬新なアイデアに溢れているのだが、その「暗さ」ゆえに、あまり好きになれなかった作品。次作の『無間人形』に期待したいのだが、これも100円コーナーになかなか出てこないのである。

>2005.02.23.WED


△0383 『平成トム・ソーヤー』 >原田宗典/集英社文庫/1998.02.20・2005.02.19

 背表紙あらすじ:一見、どこにでもいそうな高校生ノムラノブオの指先には、超能力とも呼ぶべき力が秘められていた。鋭敏な感覚を生かした、神業のようなスリの手腕である。そんな彼の力に目をつけた同級生スウガクと、可憐な女子高生キクチ。三人は自らの未来を賭けた、大それた計画を企てるのだが…。大都会の暗部を軽やかに疾走する、新世代の冒険小説。

 本書は実は再読である。「実は」というほどでもないのだが、人の記憶とは曖昧なもので、完全に初読だと思い、古本屋で本書を見つけた時にはラッキーと思いながらいそいそとレジに並んだのである。なぜラッキーかというと、著者の原田宗典はエッセイが中心の作家で、エッセイもエスプリが効いていてなかなか面白いのだが少々軽すぎて後に残らないのであまり読む気がせず、最近はもっぱら小説が出るのを首を長くして待っている作家だからである。で、なぜ人の記憶が曖昧かというと、本書が初読ではなかったからである。

 確かに過去の読書記録を見ると、98年の2月に読了している。7年も前のことだから忘れていても仕方がないと思うのだが、50ページほど読み進めてやっと再読だというこのに気付いたのだから情けない。さらに読み進めると、そういえばこんなシーンもあったかなぁと思い至るのだが、やはり記憶は断片的。もちろんのことラストも失念しており、ちゃんと楽しめたのだからよしとしよう。

 さて、原田宗典であるが、前述の通りエッセイが多い作家である。しかし、個人的にはエッセイよりも彼の描く小説の世界が好きであり、『何者でもない』『優しくって少しばか』『十九、二十』など、なかなか味のある作品である。これらはちゃんと読んだ記憶があるのだが、内容の方はうろ覚えなのでそのうち再読したいと思っている。

 随分と前置きが長くなってしまったが、本書を再読して強烈に感じたのが、真保裕一の『奪取』との類似性である。私の読書日記では、よく物語の類似性を指摘しているが、今回は特に強く感じた。まず、犯罪に手を染めながらも、どこか抜けていて憎めない主人公。そして、彼を助ける仲間との友情。更には主人公に犯罪の手ほどきをする謎の老人が登場するところまで同じであり、もっというと、その「恩師」が敵方に殺されてしまうところも…。最後のどんでん返しまで類似しているのはご愛嬌か。掏りの手技と偽札作りの技術。まったく異なる犯罪であるが「職人的」な部分が徒弟関係的な物語に発展したのであろう。どちらかが真似をしたというわけでもなく、エンターテインメントを追求していて同じような世界になってしまったのだと思うのだが、そうなるとより緻密な世界を作り上げている『奪取』に軍配が上がってしまう。

 とはいいつつも、『奪取』にはない面白さもあるので『奪取』が面白かったという人にはぜひ読んでもらいたい作品。結局久々の新作だと思ったのだが、当てが外れてしまい、このところ久しく原田宗典の新作を読んでいない。哀しみや笑いの中に、ほっとさせる人間臭さが漂う彼の作品が嫌いではないのだが…。相変わらず首を長くしているので、そろそろ新作を読ませてほしいものである。

P.S.70,000 hits over! >2005.02.19.SAT


△0382 『外資な人たち−ある日外国人上司がやってくる』 >楡周平/講談社文庫/2005.02.10

 背表紙あらすじ:気がついたら、社名が変更。社内のルールや仕事のやり方でさえ、それまでとは打って変わる。戸惑う暇も立ち止まって考える間もなく、馴染めなければ即刻解雇通知。外資系企業に限らず今を生きるサラリーマンは、みんなそんな事態に怯えている。外資生活十五年の著者が、会社生活を上手に泳ぐ術を伝えます。

 「外資系」と聞くだけで、ついついバイリンガルなビジネスマンが成果主義でバリバリ頑張っている姿を想像してしまうのだが、実体はそうでもない。以前読んだ『図解・外資系企業ハンドブック』でも外資系企業の実態を知ることが出来たが、本書は外資系企業で働いていた楡周平が実体験を通じて語っているだけあって、より信憑性に溢れている。例えば、仕事をするのは日本なのだから、外資系だからといって皆が皆英語を話せるわけではない。例えば、仕事はドライに割り切って人間関係もわずらわしくないかといえばそうでもなく、海外から赴任してきた上司には気も遣うし振り回されもする。等など。

 このような実体をコメディタッチに描いているのだが、笑ってばかりいられない。2006年には日本の会社法が変更になり、外資系企業が日本の子会社を通じて日本企業を吸収合併する時、吸収される日本企業の株主に「合併対価」として海外の親会社の株式や現金を渡すことを認めるようになる。これによって、技術力はあるのに不採算で時価総額の低い企業などはすぐにでもM&Aの対象になってしまうであろう。実際に私自身、現在通っているUSCPAの授業で、講師から今回の法改正で日本企業は大きく変わるだろうと教えられた。今のうちからグローバル・スタンダードとなる会計知識を身につけておく必要性を説かれたのである。

 英語力も必須である。本書に、英会話が出来ない日本人と米国人との交渉の席に通訳をつけるシーンがあるのだが、ビジネスの世界というのは専門用語が飛び交う為、英語が出来るだけでは通訳は務まらないのである。例えば本書では業界知識のない通訳が「フロッピーディスク」のことを「ヒラヒラと宙を舞う円盤」と訳したそうで、思わず大笑いしてしまった。さすがに、今どきフロッピーディスクを知らない人はいないだろうが、専門用語を知らない通訳が付くと、このような誤訳が飛び交うそうである。

 グローバル・スタンダードの御旗の元に、日本のビジネス界がどんどんアメリカナイズされているように感じるが、大丈夫だろうか。日本的経営の優れた面は残しつつ、変革して欲しいものである。そうは言っても、時代の流れは変えられない。自己研鑽に励み、自分の生活を守るしかなさそうである。

>2005.02.10.THU


△0381 『覚悟の技術−プロマネが教える成功する人の考え方』 >弓場秀樹/ソシム/2005.02.06

 仕事をする上での心構え的なものを「さらりーまいんど」と「ビジネスまいんど」とに分けて列記している。目次を眺めると着眼点がなかなか面白く、パラパラと立ち読みした後、購入。文字が大きく、行間もスペースを多くとってあるのでページ数のわりには簡単に読める。結局、1時間程度で読了してしまった。

 「さらりーまいんど」と「ビジネスまいんど」とは、例えば「赤信号。みんなで渡れば怖くない」VS「赤信号。車が来なけりゃ危なくない」というもの。仕事を進める上で、皆が遅れているから自分も後れていいやと思うか、自分こそしっかりしなければと思うか。また、さして重要でないものはあえて優先順位を下げて遅らせる決断も必要である。この様に、1つの事象を2面的に見て検証しているのが面白い。

 では、目次を抜粋してみたい。

  • 1から考える vs ゼロから考える
  • ルールを守る vs ルールを変える
  • 緊急のものを優先する vs 重要なものを優先する
  • 手段先行、目的忘却 vs 目的先行、手段追従
  • できない理由をさがす vs できる方法を探す
  • 現象を追う vs 本質を追う
  • 同次元で考える vs 高次元で考える
  • 頑張るという vs やり遂げるという
  • 努力していることを強調する vs 努力しているという意識はない
  • 慣性を重視する vs 感性を重視する
  • 周りを気にする vs 周りを気にさせる
  • 指示されることを求める vs 指示されないことを求める
  • 言われても変わらない vs 自ら変わる
 これらが「基礎編」の目次で、この他にも「職場編」「人生編」もあるが、「基礎編」だけで充分だと思うので割愛。目次に惹かれて購入したのだが、内容は目次を読めば理解できるもので、結局目次だけで充分だった様に感じる。1つの項目に4ページを割いているのだが、1ページは黒地に白文字で「1から考える vs ゼロから考える」などと大きく書かれている。文中で無駄を省くべきというような主張をしているにもかかわらず、目次だけに1ページを割き、しかもインクも大量に使用し…。レイアウトに関しては作者よりも出版社の意図が大きいのだろうが、それにしても、無駄に分厚い。

 なかなか目の付け所はよく、構成をもう少し工夫すれば面白い本になったと思うので、少々残念である。そういえばビジネス書にはやたら分厚くて中身のないものも多いが、本当にいい本というのは、ビジネスの書類と同じく、シンプルで薄いはずである。

>2005.02.06.SUN

苗村屋読書日記 [77]

     



































[PR]ベビー用品はたまひよ♪:子育てが楽しくなる便利アイテムいっぱい