△0405 『ルパンの消息』 横山秀夫
△0404 『ダイスをころがせ!』 真保裕一
×0403 『なぜライブドアはフジテレビを乗っ取ろうとしたか!?』 浅井隆
×0402 『通勤時間を使って米国公認会計士になれる本』 安生浩太郎
△0401 『ダブルフェイス』 久間十義


△0405 『ルパンの消息』 >横山秀夫/カッパノベルス

 『ルパンの消息』という題名がちょっと、と思ったが読み進めてみて納得。そんなに悪いタイトルではないと思い直した。もっと軽いミステリーかと思っていたが、現在の横山節を彷彿とさせる重厚な創りである。舞台こそ高校であり、青春小説的な一面を覗かせるが、女性教師の殺人と三億円事件とを上手くからめた、面白いプロット。

 さすがに文体からは若さがにじみ出ている。書き出しなどおよそ横山秀夫らしからぬ軽快さだが、かといって稚拙な感じではなく、好ましさを感じる。一方でプロットの方は練りに練った複雑なもの。しかも、15年前の事件を被疑者の供述から解きほぐすという凝った設定。一歩間違えば混乱するだけの台詞回しだが、刑事の推理を加えることにより分かりやすいものとなっている。

 いよいよクライマックスという段になって、2重3重の仕掛けが施されているのも、ファンにとってはたまらない。そろそろ謎解きも終わりなのに、やけにページが残っているなぁと思っていたら、次々と新たな事実が出てくる。まさかこんなところに、と吃驚するような伏線もあり、一本取られたという感じである。

 3人の悪ガキたちの描写もなかなか面白いが、中でも橘という少年のキャラクター作りが秀逸。恵まれた家庭に育ちながら、ホームレスとして生きている橘。ひとこと呟いた「俺にはあだ名がなかった」という台詞が印象的であった。

 本書は15年前の作品とのこと。あとがきで筆者自身が書いているのだが、本書を書いてからの15年と、作品中の時効である15年がシンクロし、因縁深い作品だと感心している。つまりは作家デビューしてから15年ということだが、筆者自身の初心に戻ろうという思いがあったのだろうか。いずれにせよ、更に良い作品を生み出して欲しいと思う。

>2005.06.05.SUN


△0404 『ダイスをころがせ!』 >真保裕一/新潮文庫

 背表紙あらすじ:【上巻】職を失い妻子とは現在別居中。駒井健一郎三十四歳はどん底にいた。ある日、高校時代のライバル・天知達彦が現れ、驚くべきことを口にする。「次の衆院選に立候補する。共に戦ってくれ」。コネや金は一切なし。持てるものは理想のみ。第二の人生を拓くため、彼らは完全無党派で選挙戦に挑む。理解のない妻、敵陣営の妨害。早くも難題は山積みなのだが。情熱系エンターテインメント! 【下巻】駒井健一郎は、達彦とともに天知家の過去との対決を迫られる。一方、 地元政財界の絡んだ不透明な土地売買が、彼の社を辞めた原因と繋がっていたことが判る。事件はなおも続く、だが選挙は待ってくれない。遂に、十二日間の決戦が始まった! ポスター、選挙カー。何事につけとんでゆく金に悩みつつも、俺たちは手づくりの選挙を貫く―。青春小説の新たなかたちが、ここにある。

 旅の思い出と小説というのは分かちがたいものがある。私の場合、思い出深い小説の最たるものは『竜馬がゆく』であり、始めての海外旅行の際に読んだもの。本書『ダイスをころがせ!』はというと、USCPAの受験後、帰りの飛行機で読み始めたものであり、いずれ印象深く思い出すであろう小説。寝不足で、眠いはずなのに過度の疲れのせいで頭は冴え渡り、念の為にともってきた文庫本に手を伸ばすことになったのである。朝の3時前だというのにグアムの空港は日本へ帰国する観光客で溢れており、チェックイン待ちの長蛇の列の中で読み始めた。

 順調に前に進み、やっとチェックインと思った瞬間、空港のシステムがダウン。航空会社の係りの人たちは「またか」といった表情で落ち着いたもの。焦っても仕方がないので、スーツケースに腰掛けて待つこと20分程度。結局、システムは回復せず、手書きで処理を進めて搭乗することになった。テロの影響かボーディング・ゲートへ進む際には随分と厳しいチェックを受け、ここでも長蛇の列。ライターの持ち込み禁止、靴まで脱いでX線に掛けるなどの徹底振り。さらに30分程度待って、漸く飛行機へ乗り込んだ。ここまでで既に100ページほど読破。飛行機に乗り込んで、早々にビールをもらって飲み始めるが眠気は襲ってこず。という訳で、飛行機と成田についてからの電車の中で上巻の半分以上を読んでしまった。随分と前置きが長くなってしまったが、感想は次の通り。

 『ダイスをころがせ!』というタイトルはどうであろうか。実を言うと、タイトルを見た瞬間から「博打小説」だと思っていた。真保裕一が競馬を舞台にしたディック・フランシスのミステリーに傾倒しているという予備知識があったため「賭け事」に発想が結びついてしまったからかもしれないが、単行本が発売されたときから、今回文庫本を手にするまで、ずっと「博打小説」だという先入観を持ち続けていたのである。

 蓋を開けると、というよりも、ページを開くと…。本書は選挙を舞台にした小説である。政治小説とも言えない、まさに「選挙小説」である。現在の選挙の仕組みや政治のあり方に疑問を持った34歳の若者が、友人とともに手作りの選挙で立候補するという青春小説でもある。

 さすがにストーリーテラーの真保裕一だけあって、最初の着眼点、主人公達が選挙に飛び込む動機など、設定は絶妙である。新聞記者としての個人の限界を感じた天知。彼が記者時代に追っていた老人ホームの誘致の裏に、不正の臭いを感じ取り、それを糾す為に立ち上がった。一方で彼には元県知事の祖父がおり、その祖父が不正の為に知事を辞職したというのがどうしても信じられず、過去の真相に迫る為選挙に臨んだという別の動機もある。彼を支える高校時代の親友・健一郎。過去に天知と女性を奪い合ったことから、絶交状態にあったのだが、今回の選挙をきっかけに仲直りをするが…。健一郎自信も、商社マンとして老人ホームの誘致にあたり、その失敗を理由に子会社に飛ばされる。仕事への限界を感じているときに、天知から選挙に誘われるという設定。

 取材好きの真保の本領発揮といえるのだろうが、選挙へ至るまでの面倒な手続きなども克明に描かれている。主人公達に感情移入している性もあるだろうが、無所属で立候補し戦うことの難しさを痛切に感じた。確かに既得権のある政治家達が自ら変更を繰り返してきた選挙制度である。表面上は公平・公正に見せておいて、実際はいろいろな縛りで新規の立候補を難しくさせている。

 さて、本書は政治に関する小説であるが、個人的には正直なところ政治に関する関心が薄いのである。以前、弘兼憲史氏の『加治隆介の議』という漫画を面白く読んだ記憶はあるのだが、最近の政治についてはどちらかというと疎い方。一昔前に比べると政治家のスケールが一回り小さくなった気がするし、利権利権で国民のことをろくろく考えていないような人ほど偉くなる世界というのが好きになれないのである。(もちろん、必死で国政を考えていらっしゃる方も多いのは承知の上だが)

 政党のマニュフェストなるものを見ても、今ひとつ具体的に感じられないものが多いし、今回の小説をきっかけに駅前で演説をしている政治家のビラを受け取ってみたのだが、「寄付のお願い」とか「ボランティア参加のお願い」などの文字が躍るばかりで、肝心の政策についてはぼやけた書き方しかしていない。本書の天知のような政治家が出てくれば話は別だろうが、現実問題として当選するのは難しいのかもしれない。

 経済の世界も、裏ではドロドロしたものがあるのであろうが、目的が企業価値の向上だったり、利益の追究であったりと明確である分、分かりやすい。しかも、最近では世界を相手に伍していかないと勝ち残れない時代であり、政治の世界に比べると経営者の努力というのはきちんと前を向いている気がするのである。まぁ政治の世界が変わるのにはまだまだ時間がかかりそうである。本書を読んで自らの一票から政治が変わると思いたいのは山々だが。

 タイトルにはまだこだわっているのだが、結局本書でいう「ダイス」とは双六のサイコロのこと。まずはサイコロを投げてスタートを切ろう、という主旨なのだが、どうもサイコロというのはどの目が出るか分からず、運まかせな感じがしてしまうのである。確かに、素人が選挙に打って出てどうなるか分からないという不安感を表わすにはよいかもしれないが、もう少し地に足の着いたタイトルでもよかったのではないかと感じてしまう。真保裕一は、ディック・フランシスにあやかって、講談社文庫に収録する際には2文字のタイトルをつけているのだが、もし本書が講談社から出版されていたら、果たしてどんなタイトルになっていただろうか。ズバリ「選挙」とか、「候補」とか。結構2文字というのは難しい。

>2005.06.02.THU


×0403 『なぜライブドアはフジテレビを乗っ取ろうとしたか!?』 >浅井隆/第二海援隊

 世間を騒がせたライブドアのフジテレビ買収事件だが、1ヶ月もするとすっかりなりを潜めてしまった感がある。騒がれている時はあまり話題にしたくないくせに、いざ落ち着いてくるとコメントしたくなってくるのは生来の天邪鬼な部分が出てきたせいだろうか。本書も、アマゾンで購入したまま積読本となっていたのだが、改めて手に取ってみた。

 そもそも本書を買おうとしたのは、新聞やニュースで騒がれているライブドアのフジテレビ買収事件を時系列にきちんと整理して理解しておきたかったから。そんな自分のニーズにぴったりなのではないかと、中身も見ずにアマゾンで購入したのがよくなかった。確かに全体の3分の1ほどは今回の事件に触れているが、本が出たタイミングが早すぎて、情報が最新とは言えないし、後半の3分の2に至っては、ライブドアとは全く関係のないM&Aに関する一般論に終わっている。結局、雑誌の特集記事の方が情報も最新だし、図解も入ってわかり安い。せっかく買った本書だが、題名のインパクトのわりには今ひとつであった。

>2005.05.30.MON


×0402 『通勤時間を使って米国公認会計士になれる本〈4〉ビジネス』 >安生浩太郎/英治出版

 何度も書いているが、私は今、USCPAの取得に向けて勉強中である。昨年より試験の方法が、PCの画面操作によるものに変更となり、また、試験範囲も少し変更された。変更の影響が一番大きかったのが、今回受験するBusiness Environment and Conceptという科目である。この科目には、今回より経済学、ファイナンス理論、IT、会社やパートナーシップの構成、原価計算など幅広い範囲が含まることになり、4択問題のみで論述形式の試験が無いとはいえ、なかなかとっつきにくいものとなっている。そんな中で、全体をざっと見渡す為に購入してみたのだが…。

 以前、MBAの通勤文庫でも感じたことだが、あまりにも内容を端折り過ぎていると逆に分からなくなるというのが、本書にも言えること。確かに広範囲を項目ごとに2ページずつというレイアウトでうまく纏めているのだが、初読の際はコンパクト過ぎて何が言いたいのかよく分からないと言うのが率直な感想であった。流石に、勉強が進んだ後で読み返すと、理解はできるのだが、今度は大雑把過ぎて、復習の役には立たない、という帯に短し襷に長し状態の本である。だいたい、通勤電車だけで取れるほど甘い資格ではない。

 巷には「USCPAはTOEIC700点、簿記2級で取れる」という謳い文句が溢れているが、これは「TOEIC700点、簿記2級で勉強が始められる」の間違いである。英語は会計の専門用語がバンバン出てくるし、会計だって連結会計や退職給付会計など簿記2級では全く歯が立たないほどの知識が求められる。これ以外に監査論や税法・商法などが試験範囲に含まれているので、よほどの覚悟が必要である。

 さて、通勤電車での勉強についてもう少し。以前学校が主催する合格者パーティーなるものに出席したことがあるのだが、その際に片道1時間半かけて通勤している人が、通勤電車の勉強だけで受かったという話を聞いた。しかし、実際は授業のビデオを家で何度も見たそうだし、通勤電車は距離が遠い分、毎日確実に座れたので、計算問題なども電車で解くことが出来たそうである。決して新書サイズの本を読むだけで取れるわけではないのである。

 とはいうものの、USCPAがどんなものかを知るにはよい本かもしれない。本書を発行しているANJOインターナショナルという会社は、学校も経営しているそうなので、本書を読んで興味が湧いた方は是非授業を受けてくださいという宣伝用の本と理解すればよいであろう。

>2005.05.28.SAT


△0401 『ダブルフェイス』 >久間十義/幻冬舎文庫

 背表紙あらすじ:その異様さで今も人々を震撼させている東電OL事件を素材にした戦慄の巨編。渋谷で絞殺されたホテトル嬢は、一流企業のエリートOL・島本晃子。当初ゆきずりの犯行と思われたが、晃子の家から政財界の要人リストが見つかったことで事件は急転回を見せる。政財界の圧力に抗し、晃子の流転を追い続ける刑事らの姿を克明に描いた渾身のミステリ。

 前回の更新から10日以上経過してしまった。勉強の方が佳境に入り、更新する時間というよりも、そもそも本を読む時間が取れない状況。後から振り返ると、この10日間のブランクも良き思い出になるのだろうか。更新停滞中にもかかわらず、カウンターが9万を超えた。さぼっているときになんだか恐縮な気がするが、一方で大きな励みにもなっている。訪問していただいた方々、ありがとうございます。

 さて、実を言うと東電OL事件についてはあまり克明な記憶がない。事件発生は1997年3月19日。ちょうど会社の仕事が忙しく泊り込みの状態で、ろくろく新聞を読むヒマもなかった頃のことである。これだけ騒がれた事件なのになぜ記憶にないのかと不思議だったのだが、今回改めて謎が解けたように思う。非常に個人的な謎だが…。

 さて、東電OLL事件というといろいろと形を変えて取沙汰されている。例えば桐野夏生の『グロテスク』もその一例。エリート女性が売春という構図が作家の興味をそそるのであろうか。『グロテスク』がエリート女性が売春という部分にのみスポットを当て、物語の中のサイドストーリーとして利用しているのに対し、本書は東電OL事件そのものを描いた作品。事件の概要自体をあまり正確に知らないのではっきりは言えないが、大筋は現実どおりなのではないだろうか。

 私の手元に一冊の本がある。タイトルはズバリ『東電OL殺人事件』 佐野眞一氏によるノン・フィクションである。妻と私は読書という共通の趣味を持ちながらも、読むジャンルは全く異なっている。私がミステリーとビジネス書を好むのに対して、妻はノン・フィクション派。『東電OL殺人事件』は私が『ダブルフェイス』を読み始めた頃に妻が買ってきたもの。私が『ダブルフェイス』を読んでいることを妻は知らなかっただろうし、知っていたとしても『ダブルフェイス』というタイトルから東電OL事件は想像できないであろう。ミステリーの世界では偶然嫌いの私だが、現実にはこのようなことも起こりうるのだと妙に感心した次第。

 どちらかというとノン・フィクションは苦手な私だが、ミステリーなどの作品に興味を持つと、事実はどうだったのだろうかと知りたくなる。今回はノン・フィクションの『東電OL殺人事件』にも挑戦してみようかと思っている。同じようにフィクションとノン・フィクションをあわせて読んだのが、『呪縛−金融腐食列島II』『会長はなぜ自殺したか』 『呪縛』については映画も見ているので、あわせて3つの作品に触れたことになる。

 こういうときに迷うのが、フィクションから読むか、ノン・フィクションから読むか、ということ。私は前述の通りノン・フィクションが苦手なので、まずフィクションを読んで、興味が湧けばノン・フィクションに挑戦という形をとっている。フィクションの方が面白おかしく味付けをしており、読みやすいのは確か。ある程度の事実を頭に入れながら読むと、ノン・フィクションも読みやすくなる。

 さらに困るのは映画化された作品。映画(テレビドラマ含む)が先か、原作が先かというのは難しい。読書好きなので大抵は原作を読んでからとうパターンが多いのだが、中には『呪縛』のように映画を見て原作を読みたくなったものもある。残念なのは邦画の場合、原作からかけ離れすぎてしまいまったく面白くなくなるパターンが多いこと。最近はその傾向も少し薄れてきたかなとは思うが、原作が面白ければ面白いほど、映画が駄作である可能性に怯えて見ることが出来ない。なかなか悩ましいのである。

 随分話題がそれてしまったが『ダブルフェイス』について。現実の事件一本槍では面白くないと考えたのか、主人公の刑事・根元恭平の彼女をキャリアウーマンとして登場させ、ミステリーの要素に加えて、なぜエリートOLが売春したかという心理を描こうとしている。この狙いは悪くなく、サイドストーリーとしての出来もまずまずだったのだが、ラスト近くで根元刑事が追う事件と、彼女が関与する事件がクロスする部分に「偶然性」を感じてしまうのである。☆2つの事件がばらばらに終わったのでは面白味がないのは確かだが、彼女の上司(この女性もエリートOLで売春を趣味にしている)の客が、たまたま事件解決の鍵を握る容疑者だったというのはいただけない。☆ この部分に必然性を持たせることが出来れば、本書はもっと面白く感じたであろう。

 さらに言うと、刑事がチームで事件を追うというスタイルは重々承知しているつもりだが、複数の刑事が登場し、ころころと視点が入れ替わるのは読んでいて疲れを感じてしまう。ベテラン刑事の視点、新米刑事の視点と、描き分けようとする心意気は感じるのだが、もう少しテクニックを磨かないと読者を混乱させるだけである。その点、高村薫の『マークスの山』など、多くの刑事が登場するにもかかわらず、スムースに読み進めることができた。

 辛口の書評となってしまったが、騒がれた事件であればあるほど、小説化は難しいであろう。素材の重さをしっかりと受け止めつつ、被害者の心理にまで踏み込もうとした姿勢は素晴らしいと思う。作者はこの後も女子高生コンクリート詰め殺人事件を題材に『ロンリー・ハート』という作品も書いているそうである。本書で登場した刑事も出てくるようなのでぜひ読んでみたいと思っている。

 ※細かいことだが、今回からタイトルの横の読了日を記載しないことに。日記の最後にも日付が出ており重複している為。日記をつけ始めた当初は、「思い出し書評」が多くて、読了日と記載日が一致しなかった為に設けたのだが、さすがに過去の書評も少なくなってきたので、400冊を機に変更します。

P.S.90,000 hits over! >2005.05.21.SAT

苗村屋読書日記 [81]

     



































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