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![]() ◎0420 『再生巨流』 楡周平 ○0419 『すぐそばの彼方』 白石一文 ×0418 『社長をだせ!』 川田茂雄 △0417 『パーフェクト・プラン』 柳原慧 △0416 『ダメだ!この会社』 倉田真由美・山崎元 ◎0420 『再生巨流』 >楡周平/新潮社 素晴らしい本に出会ってしまった。「全国のビジネスパーソンに告ぐ。読むべし!!」と叫びたくなるような本である。筆者の楡周平は外資系企業に勤務した経験があり、『Cの福音』は犯罪小説でありながらも、貿易実務の知識などを折り込んだ魅力的な作品であった。読書当時、実際に会社で貿易実務の知識を学んでいた私にとって、非常に興味深い作品であった。その後、犯罪小説にさらに傾倒して行ったかのように感じていたのだが、ここへ来て本格ビジネス小説を世に送り出したのは嬉しい限り。久しぶりに読み応えがあり、かつ一気に読ませてくれる小説に出会った。 舞台は物流業界。奇しくも、郵政民営化が否決されたばかりであるが、本書でも民間の物流業者が郵政民営化の波を敏感に感じながら、新規ビジネスを立ち上げようとする様が克明に描かれている。ヤマト運輸がモデルかなと感じさせるスバル運輸を中心に、文具の宅配業者として急成長を遂げているアスクルを彷彿させるプロンプトをライバル企業に据え、新規ビジネス立ち上げの難しさと面白さを鮮やかに描いている。 まず、アイデアが秀逸。コピーカウンターにPHSを取り付け、顧客から紙の在庫管理業務をなくしてしまうという取っ掛かりのアイデアに加え、そのワン・アイデアを生かすべく、さまざまなアイデアが波状的に広がっていく。街の電気屋さんを利用した物流スキーム、価格サイトを利用した売込みなど、誰にでも考え付きそうなアイデアなのだが、これらのワン・アイデアが有機的に結びついて、非常に興味深いビジネススキームが築かれてゆく。 大前研一が述べていたことだが、ネット・ビジネスが発達すればするほど、ラスト・ワン・マイルというのだろうか、デポから顧客のドアまでの宅配というのがキーになってくる。新聞配達屋が、そのラスト・ワン・マイルを請け負うことにより、1つのビジネススキームが出来るのではないかとのこと。このアイデアを新聞配達屋ではなく、街の電気屋さんで実現したのが本書であろう。確かに、銀行や証券といった実体を伴わない一部の特殊な商品以外は、物流が非常に重要である。そのことを改めて思い知らされる作品であった。 人物も良く描けている。主人公の鬼だるまこと吉野は、その強引な性格ゆえに左遷の憂き目にあいながらも、貪欲に新規ビジネスを模索している。プロ野球選手を目指し、腰掛的にスバル運輸に入社してきた蓬莱も、肩を壊してセールスドライバーに転向したという挫折を味わっていながら、何とか売上を伸ばせないかともがき苦しんでいる。このように一度辛酸を舐めた主人公達が、復活していく様というのは読んでいてすがすがしい気分になる。途中、話を盛り上げる為か、現実の世界に合わせたのかは知らないが、案の定、上司の横槍が入ったりもするのだが、吉野はものともしない。強引なまでのリーダーシップ、外見に反して緻密なアイデア、そして何よりも強烈な使命感を持った主人公の吉野は、現在の日本企業に掛けているリーダー像かもしれない。 社主の曽根崎もいい味を出している。やはりヤマト運輸の小倉氏がモデルなのだろうか。残念なことに、6/30に逝去されてしまったが、彼がこの小説を読んだら何を感じただろうか。コンシューマーだけでなく代理店まで「顧客」と捕らえる曽根崎の視点は、身に沁みる思いがした。 少し出来すぎだなと感じたのは蓬莱の妻の藍子。学生ながら卓越したITスキルを持ち、玄人顔負けのアイデアをひねり出す。女性が活躍するのは非常に良いことだと思うのだが、蓬莱の妻というのが出来すぎ。どうせなら社内でヒマをもてあましているOLが大化けする方が面白かったかもしれない。 いずれにせよ、そんな些細な点は気にならないくらいの骨太な作品である。何冊かのビジネス小説を読んできたが、実話を基にした話や、社内の派閥争いを描いたものが多い中、新しいビジネスモデルを提案する小説というのは非常に珍しいのではないだろうか。いつ実現してもおかしくないリアリティのある作品。日本企業はまだまだ捨てたものではないと思わせてくれる秀作である。 褒めてばかりで申し訳ないが、もう1つ面白いと思ったのは、本書がプロジェクト・マネジメントの教科書にもなりうるという点。私自身、全社のERP導入プロジェクトに参加したことがあるのだが、その際痛切に感じたのが優秀なプロマネの必要性である。厳しい進捗管理と、遅滞業務のボトルネック解消は、プロジェクト・マネジメントのノウハウに加えて、対象となる業務を熟知していないと勤まらない難しい仕事である。 最後に、実際のビジネスシーンでも使えそうな参考になるフレーズを抜粋して終わりたい。
○0419 『すぐそばの彼方』 >白石一文/角川文庫 背表紙あらすじ:次期首相の本命と目される大物代議士を父にもつ柴田龍彦。彼は、四年前に起こした不祥事の結果、精神に失調をきたし、父の秘書を務めながらも、日々の生活費にさえ事欠く不遇な状況にあった。父の総裁選出馬を契機に、政界の深部に呑み込まれていく彼は、徐々に自分を取り戻し始めるが、再生の過程で人生最大の選択を迫られる…。一度きりの人生で彼が本当に求めていたものとは果して何だったのか。『一瞬の光』『不自由な心』に続く、気鋭の傑作長編。 同じ作家の作品というのは、どうしても別のものと比べてしまう為、ついつい辛口の評価になってしまう。白石一文という作家も、最初に読んだ作品である『一瞬の光』が素晴らしかっただけに、これを超える作品はなかなか出ないのではないかと感じていた。むしろ、傑作を書いた後に、レベルの高い作品を出し続けるというのは至難の業だとも思うのである。 作家に限らず、ミュージシャンなども同様ではなかろうか。私はどちらかというと凝り性で、気に入ったミュージシャンがいると全ての楽曲を聞きたくなる方なのだが、ある時、同じミュージシャンの作品でも良いもの悪いものがあるのだということに気づいたのである。(早く気づけよ、という感じだが) 当然のごとく、1つのアルバムの中に好きな曲とそうでない曲が混じっているのだが、若かりし頃はアルバムの全曲を聴かないと失礼だと思い、好きでもない曲まで熱心に聴いていた記憶がある。そう言った意味では、最近の音楽ダウンロードのシステムは好きな曲だけを選んで購入できる点で、利用者のメリットは大きいと思う。一方、ミュージシャンの方は、1曲たりとも手を抜くことが出来ず、大変なのではなかろうか。 話題がそれてしまったが、『一瞬の光』の後に読んだ『不自由な心』『僕のなかの壊れていない部分』に、今ひとつという印象を持っていた私にとっては、本書は起死回生の一冊だったのである。面白い本が一冊しかない作家であれば、あの一冊はまぐれ当たりだったのだと、見向きもしなくなる可能性があるから…。 白石一文の魅力は、仕事(今回は政治家の息子としての仕事)と恋愛のバランスを上手く取りながら物語を進めていく点であると思う。ビジネス小説であれば高杉良などのベテランでうまい書き手がいるが、高杉良に恋愛小説が書けるかというと、そうは思えない。しかし、白石一文は日常には多数転がっているであろう「仕事×恋愛」というシチュエーションを見事にこなしているのである。結構多くの小説を読んでいるつもりだが、この当たり前のような「仕事×恋愛」を上手く描いている小説というのは意外に少ないように思う。 さて、かなり前置きが長くなってしまったが、今回は柴田龍彦という政治家の息子が主人公。父は次期首相と目される人物なのだが、息子の方は今ひとつパッとしない感じで物語は始まる。息子がパッとしない理由というのが徐々に明かされていくのだが、このあたりの伏線の張り方や、真相を小出しにするあたりはなかなか技巧派で旨いと感じさせる部分である。 しかしこの筆者は少しくずれたエリートが好みなのだろうか。他の作品でも共通しているように感じるのだが、才能がありながら壁にぶち当たってもがき苦しむ主人公を描いていることが多いように感じる。もちろん挫折とか壁がないと物語が成り立たないと思うのだが、エリートなりの悩みというのがなかなか面白い。 本書も、女性問題がきっかけで大きな打撃を受けた主人公がもがき苦しみながら、徐々に立ち直っていく展開なのだが、思わず応援したくなるのは、筆者のキャラクター作りが成功している証左であろう。しかも、堂々と立ち直った後で、主人公が選択する最終的な判断が微笑ましく、思わず拍手を送りたくなってしまうような、ハートウォーミングなエンディング。先日読了した『疾走』も良かったが、どちらかというとハッピーエンド好きな私としては、安心してお薦めできる作品である。
×0418 『社長をだせ!−実録クレームとの死闘』 >川田茂雄/宝島社文庫 背表紙あらすじ:不思議なものでクレームは、逃げれば逃げるほど追いかけてくるのです。「クレームからは決して逃げられない」というのが、私の実感です。「あなたじゃなくて社長を連れていらっしゃい」と何度いわれたことか。しかし、なんと言われようと、「ぜひ私とお話をさせてください」と頑張り品質向上に反映させてきました。結果は百戦百勝。自分で解決できなかったクレームは一件もありません。 本書は3章立てになっている。第1章 私が噛みつかれた“トンデモない奴ら/第2章 すべて実例!こんなクレーマーには、この処方箋/第3章 現代クレーム事情 というもの。第1章は実体験を元にしているだけに、迫力があり非常に面白かった。しかし、である。第2章、第3章は、クレームに関する一般論のようなもので、実際にクレーム処理をされている方には参考になるかもしれないが、私にとっては今ひとつの内容。むしろ、自分はこんなに難しいクレームまで処理してきたんだという筆者の自慢のようにさえ感じてしまった。 クレーム処理について述べるのであれば、まずは正当なクレームに対する応対の仕方を踏まえた上で、悪質なクレーマー対応について触れるべきではないだろうか。悪質なクレームと、ちゃんとした顧客の正当なクレームとは分けて考えるべきである。正当なクレームはむしろ製品の改良に繋がることもあると述べてはいるのだが、取って付けたように感じるし、「企業側の論理」を強調しすぎているようにも思う。 実は先日ある企業のお客様相談窓口に電話を掛けた際、まともな対応をしてもらえなかった為に余計にそう思うのである。具体的には、実家から小包が届いたときのこと。中の荷物が破損していたので、宅配便(某大手企業)に問い合わせたところ、非常に横柄な態度。そちらの梱包の仕方が悪かったのではないか? 荷物を詰める前から破損していたのではないか? などまるでクレーマー扱い。あまりの酷さに上司を出せといったところ、しばらくし「お電話変わりました」と上の方が出てきたのだが…。一通り状況を話し終えて最後に、「失礼ですがお名前は」と聞いたところ、先ほどの担当者と同じ名前。おかしいなと思っていると、「実は先ほど対応させて頂いた○○です」 なんと声色を変えて対応していたのである。本当に頭に来たので怒りを伝えると、結局支社長が謝罪の電話をかけてくるという大事に至ってしまった。 果たしてこのような私の態度を「クレーマー」と呼ぶのであろうか。最初の担当者の対応さえ普通であれば、こんな大事には発展しなかったであろう。世の中にクレーマーと呼ばれる人が増えたため、企業も簡単に謝罪の言葉を口にしにくいのかもしれない。しかし、ワン・オブ・ゼムである一部のクレーマーの為に、大多数の普通の顧客が嫌な思いをするというのはいかがなものか。そんな思いがあったため、本書を読んだ企業の顧客窓口の人たちが、一般顧客にまで妙な対応を始めるのではないかという危惧を抱いてしまったのである。 筆者の本意は、先ほども書いたとおり「顧客の声を聞くこと」であろう。しかし、発行部数を伸ばす為だろうか、クレームの内容を面白おかしく修飾してしまっているがために、クレーマーの悪い部分ばかりが取沙汰されているように感じてしまった。筆者の本質である、顧客を大切にしたいという部分をもう少し前に出してもらい、通常のクレーム(文句ではなく要求)処理方法を明記して欲しかったと思う。鈴木京香主演でドラマ化までされたようだが、むしろフィクションとして悪質クレーマーをカリカチュアライズして描いた方が良かったであろう。なまじノンフィクションであるから、余計にイラだってしまうのであった。
△0417 『パーフェクト・プラン』 >柳原慧/宝島社文庫 背表紙あらすじ:第2回『このミス』大賞においてダントツで賞賛を受けた大賞受賞作がついに文庫化! 代理母として生計を立てている良江は、かつて出産した息子を救うため、ある”犯罪“を企てる。そして始まる「身代金ゼロ! せしめる金は5億円!」という前代未聞の誘拐劇! 幼児虐待、オンライントレード、ES細胞、美容整形……現代社会の危うさを暴きつつ、一気に読める面白さ。予想を裏切り続けるノンストップ・誘拐ミステリー、ここに登場! 誘拐というのは難しい犯罪であり、身代金の受取の際にいかに警察との接触を回避するかというところが大きな焦点となる。そう言った意味では、過去のミステリーも様々な身代金受渡し方法を構築してきている。ハイテク(当時の)を駆使した『99%の誘拐』、株券を身代金とする『誘拐の果実』などなど。今回は株式操作による儲けを身代金の代わりとしているところがミソである。これであれば警察との接触も不要であり、いかにも現代的なスマートな誘拐。なかなか着眼点はよいのだが… と思いきや、ストーリーはむしろパソコンのハッキングの方に舞台を移していく。筆者も株式関係よりもこちらの方が詳しいのか、なかなかの熱の入れよう。しかしながら、読者にしてみれば株価操作とハッキングの間に特段の結びつきもなく、無理矢理二つのアイデアを結び付けただけのように感じてしまう。 また人物の描き方も今ひとつ。キーパーソンとなる龍生の生い立ちなどもっと書き込んでも良かったように感じるのだが、さらりとかわしている。ラストの大円団に向けて、もっともっと一人一人のキャラクターを書き込むべきであろう。幼児虐待、ES細胞など、流行を追っただけの作品とも受け取られかねない。アイデアをどんどん盛り込むのは良いのだが、何か一本柱が欲しかったように思う。読者にページをめくらせる力はあるように思うので、次回に期待したい。
△0416 『ダメだ!この会社−わが社も他社も丸裸』 >倉田真由美・山崎元/小学館 村上龍主催のJMMでいつも独特の切り口を展開している山崎氏。転職の達人とも言われ、既に12回の転職を経験している。氏の実体験に基づく内容が満載で、転職を考えている人は必読の書かもしれない。 そもそも、社会をろくに知らない大学生が適当!?に選んだ会社が素晴らしく自分に合っていたというのは非常に稀なケースではないだろうか。特に我々30代前半の学生というのは、今の学生ほどネットなどで情報が入手できていたわけでもなく、バブルの後遺症で就職が厳しかった世代。多数の面接をこなしてやっとの思いで入社してみたら、というパターンが多いように思う。それでも10年も勤めるとそれなりに愛社精神も湧いてくるし、確かにやめたいと思ったことは何度もあるのだが、何とか続けているのが現状である。 転職に関しては「転職しないことがリスクとなりうる」という人と、「簡単に職を変わるような人が大成できるわけがない」という人がいて、非常に両極端な意見が多いように感じる。隣の芝生が青く見えるのは当然のことであり、処遇、給与、やりがい、などなど全く不満がない人は少ないであろう。しかし、本書を読むと「軽い不満」程度で転職するのは非常にリスキーだという気がしてくる。給料の高い外資系に憧れた時期もあったが、蓋を開ければ日本企業と変わらない人間関係に悩まされたり、やりがいだけを求めると年収が大幅に減りそうだったり。 よく言われるように「就社」ではなく「就職」を目指すこと。つまり、手に職をつけてどんな会社に行こうが、つまるところ今勤めている会社が潰れてもすぐに手を伸ばしてもらえるような人材になれるよう努力しておくことが肝要なのであろう。今の勤務先に不満を抱いている人、何となく焦りを感じている人は、ちらっと読んでみると良いかもしれない。
苗村屋読書日記 [84]
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