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![]() ○0435 『架空通貨』 池井戸潤 △0434 『起死回生』 江上剛 △0433 『実験小説ぬ』 浅暮三文 △0432 『新米国公認会計士試験 税法』 長岡和範 ×0431 『アメリカの連邦税入門』 長岡和範 ○0435 『架空通貨』 >池井戸潤/講談社文庫 背表紙あらすじ:女子高生・麻紀の父が経営する会社が破綻した―。かつて商社マンだった社会科教師の辛島は、その真相を確かめるべく麻紀とともに動き出した。やがて、二人がたどり着いたのは、「円」以上に力を持った闇のカネによって、人や企業、銀行までもが支配された街だった。江戸川乱歩賞受賞第一作『M1』を改題。 期せずして名作に出会ってしまった。作者は『果つる底なき』で乱歩賞を受賞した、池井戸潤。前作もまずまずの出来で、書評を見ると○の評価。ミステリーもビジネス小説も好きなので、両者が融合した小説は、少し評価が甘くなってしまうのかもしれない。しかし、以外にこの組み合わせというのは少ない気がする。 さて、本書は田神という町を描いた小説。辛島や麻紀といった主人公も登場するが、個人的には本書の主人公は田神という田舎町だと思う。それほどまでに、1つの町が異様な動きを見せるのである。前半は、倒産しそうな企業を助ける為に、私募債の早期償還を依頼しに行くというもの。元商社マンの教諭という設定に少し無理を感じないでもないが、ごく普通のミステリー仕立てである。(そういえば、『さよなら、小津先生』というテレビドラマが、元銀行員の教諭だったかな)しかし、後半になり、田神亜鉛という企業が一種の地域振興券を発行していることに気付く辺りから、面白さを増してくる。 田神亜鉛という、田神町で唯一の有力な企業とそれにぶら下がる下請け企業群。どこにでもありそうな構図だが、田神札と揶揄される地域振興券の存在から、様相が大きく変わってくる。もともとの本書の題名は『M1』というそうだが、これは通貨の流通量をあらわすもの。(CPAで勉強しました)ここからも類推できるように、主人公の辛島は田神札の流通量に疑問を抱き始める。☆果たして、通貨の流通量は適正なのか。過剰に印刷されているのではないか、という疑問である。☆ 先日見たテレビで、香取真悟が竹中大臣に、「日本の借金が膨大にあるが、なぜ、通貨を大量に発行して返済しないのか」という素朴な疑問をぶつけていたが、答えは簡単。貨幣の価値が下がってしまい、インフレが起こるからである。☆同じような現象が田神札にも起こっており、円と田神札が1対1でなくなってきているのである。それにしても、地域振興券とインフレーションを結びつける発想は素晴らしい。☆ 一時期、各地方自治体が、地域振興券や地域通貨を発行していたが、最近あまりニュースになっていないように感じる。地域に根付いてしまいニュース性がないのか、はたまた廃れてしまったのか。しかし、ちょっと目端の利く小役人がいれば、地域振興券を勝手に増刷、などという事件がおこってもおかしくない。いつぞや発行された国を挙げての振興券もよくよく考えると怪しいものである。 さて、話を戻して田上町。中心となる田神亜鉛の存続危機を前に、町は異様な雰囲気に包まれていく。この辺りの描写が素晴らしく、異国に迷い込んだような錯覚を抱かせてくれる。こういった世界は嫌いではなく、似たような感想を篠田節子の『夏の災厄』でも抱いたのを記憶している。ミステリーを超越した一種のパニック小説であり、映画化したら結構面白いのではないだろうか。作者はなかなか新しい作品を出していないようだが、ミステリーとビジネス小説を結ぶ、パイオニアとして、ぜひとも積極的な執筆活動をお願いしたいと思うのである。 地域振興券の他にも、もう1点、注目すべきスキームがある。ネタバレになってしまうので、グレイアウトで記載して終わりとしたい。☆マネーロンダリングのスキーム。(1)プレイスメント(隠匿)麻薬の売買など不正な手段で得た金をダミーの会社へ持ち込むこと。ダミー会社ではその金を使用して、別のビジネスを行なう。(2)レイヤリング(濾過)資金の出所を辿られないよう、前段階で隠匿された資金を様々な口座へ移動したり、名義を変更したりする。(3)インテグレーション(同化)隠匿、濾過された資金を最終的に合法的な資金として表社会に出す段階。
△0434 『起死回生』 >江上剛/新潮文庫 背表紙あらすじ:バブルの傷跡が癒えない銀行は、貸し渋り、貸し剥がしに狂奔を始めた。アパレルメーカーの常務を務める東亜銀行OBの若木豊も、同期入行で今はゼネコン副社長の臼井久貴も、バブル時代の債務と出身行のすげない対応に苦しめられていた。傾きかけた企業に群がる闇の紳士たち。そして彼らとのしがらみを断てない銀行のトップ。事業の生き残りを賭けて、男たちの熱い闘いが始まった。 以前読んだ『非常銀行』では、辛くも×の評価。銀行を舞台に小説を書くと、どうしても人事がらみの話になってしまうと感じた為。本書でも、人事の話が主要な部分を占めるのだが、銀行が中小企業を再生させようという、前向きな姿勢に好感が持てた。バブル崩壊に未だ苦しむ銀行の暗澹たる話が多い中、企業再生というのは非常に新しく面白いテーマだと思う。一方では政治家や企業舎弟がらみの不正融資もあり、銀行のダークな一面も描いているが、ラストではそれらの圧力をも跳ね返し、読後感はよかった。 ところで、銀行では、取引先のメーカーなどへの出向・転属というのはよくあることなのだろうか。銀行で、一通りの金融の実務を習得し、メーカーなどの経営でその実務を生かすというのは、ある種理想的なキャリアパスのようにも感じる。実際は、本書に出てくる蛭田のように、本体である銀行にしがみついて、そこでの出世を望む人が多いのかもしれないが。しかし、いわゆる「転職」を経験せずに異業種の経営を経験できるというのは非常によいこと。一部の企業が子会社社長などを経験させた若手を本社に呼び戻すという人事を始めているが、銀行も同じように、企業再建した辣腕を呼び戻すなどすればよいと思うのだが。 さて、本書の作者は、もうご存知の方も多いと思うが、『金融腐食列島』の主役の一人である。『非常銀行』執筆時は、まだ銀行に勤めていたせいか、あまりプロフィールが公になっていなかったように記憶しているのだが、今回は、文庫の表紙にしっかりと明記されていた。 >1954(昭和29)年、兵庫県生れ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。梅田、芝の支店を経て、本部の企画、人事部門に勤務。’97(平成9)年の第一勧銀総会屋事件では、広報部次長として混乱収拾に尽力した。2002年に、築地支店長を務める傍ら『非情銀行』を発表して作家デビュー。’03年3月、第2作『起死回生』の刊行と同時に、みずほ銀行を退行して、以後、執筆に専念している。 とのことで、なかなかの修羅場をくぐってきた方である。今回の物語も実話を元に書かれたとの事で、まだまだ面白いネタを沢山持っていそう。これからに期待したい。
△0433 『実験小説ぬ』 >浅暮三文/光文社文庫 背表紙あらすじ:交通標識で見慣れたあの男の秘められた、そして恐ろしい私生活とは?(「帽子の男」)。東京の荻窪にラーメンを食べに出かけた哲人プラトンを待っていた悲劇(「箴言」)。本の世界に迷い込み、生け贄となったあなたを襲う恐怖(「カヴス・カヴス」)。奇想天外、空前絶後の企みに満ちた作品の数々。読む者を目も眩む異世界へと引きずり込む、魔術的傑作27編。 カバー一杯に書かれた「ぬ」という文字と、「絶頂期の筒井康隆を彷彿させるアイデア」という帯に惹かれて購入。タイトルどおり、実験小説の短編集だが、読み始めてすぐに引き込まれてしまった。その最初の短編が『帽子の男』である。交通標識に出てくる男(そういえば帽子をかぶっている)を描いた作品なのだが、時には自転車に乗ったり、時には子供の手をひいて歩いたり。普段、何気なく目にしている道路標識を、ここまで味のある小説に仕上げたのは、なかなかである。最後は生活苦になり道路工事をするはめになり、更には…。ラストのオチもしっかりと効いており、面白い作品であった。 しかし、実験小説の難しいところは、クオリティを維持することではなかろうか。そう、ポンポンと素晴らしいアイデアが湧いてくるわけでもなく、他の作品は今ひとつであった。いみじくも帯で引き合いに出された筒井康隆だが、彼の絶頂期のアイデアは凡人の域ではなかったと再確認。 27編の短編とのことだが、他に面白かったのは次の2つ。まずは『小さな3つの言葉』 「Three little words」とも言い、大事なことは英語の3単語で表せるというもの。死体を酒樽に漬けておき、そこから出来た酒を飲むと死者と会話が出来るという発想が面白い。3つの単語が上手く聞き取れず、伏字が出てきたりするのも作品を盛り上げている。 次に『参』 実際は「参」の旧字体がタイトル。これは、「轟」「森」「姦」のように3つの漢字を組み合わせたものなど、珍しい漢字のコレクションである。最初はただのコレクションで、漢字の意味を羅列するだけだったのが、徐々に漢字の解説がストーリー性を帯びてくる。これもオチがしっかりしていて、なかなか。しかし、ここに出てくる漢字は全て実在するのであろうか。作者の創作もかなり入っていそうな気がするのだが、それもまた一興。 残念ながら、他の作品の中には理解不能のものも含まれていた。高校生の頃に読んだ筒井康隆の作品は、結構頭にすっと入ってきたのだが、それだけ頭が固くなったということだろうか。だとすれば、あまり喜ばしいことではない。まぁ残業疲れの頭にはちょうど良い刺激なのかもしれないが…。
△0432 『新米国公認会計士試験[重点解説シリーズ]税法』 >長岡和範/清文社 USCPAの受験テキストとして書かれただけあって、『アメリカの連邦税入門』よりは格段に分かりやすいのだが、どうも細部に入りがちで、全体が捉えにくい構成になっている。そもそも税金というのは、個人への課税を例に取ると、
[Income] - [Exclusion] = [Gross Income] という構成になっている。文字だけで表示するには無理があり、非常にわかりづらいと思うのだが、この基本構成が冒頭で触れられているだけなので、初心者には、全体像が理解しづらいのである。重要なコンセプトなので、各章毎にしつこいくらいこの構成を表示し、今、何を学んでいるかが分かるようになれば、使いやすくなったのではないかと思うのである。 米国では日本と異なり、全ての個人が確定申告を行なっている。よって、基本的な知識というのは皆が持っているのである。確定申告になじみのない日本人が、税金の勉強をするのは、この辺りからもとっつきにくいように感じる。また、CPAたるもの、一般人と同じような知識しか持っていないのでは意味がないため、結構細かいところまで聞いてくるのが、この科目の特徴である。個人の税金を例に取ると、前述の、[Exclusion][Avobe the line deductions][Itemized deductions]について、出題されるパターンが多い。つまり、医療控除はどの部分で行なわれるのか、受取った保険金は所得として課税されるのかなどなど。 暗記科目であり、日本の税金とは全く異なるので、今ひとつ、勉強しようというモティベーションがあがらなかったのだが、講師曰く、「アメリカ人は税金が大好きだから、話題が増えるよ」とのこと。日本に来たアメリカ人に、寿司は食えるか、食ったかと、食べ物の質問ばかりを繰り返すより、Itemized deductionsはどうしてるか、と聞いたほうが、確かに高尚ではある。普段使わない単語も出てくるので、ボキャブラリー増強にも役立ちそうである。
×0431 『アメリカの連邦税入門』 >長岡和範/税務経理協会 米国の税法を学ぶ為に購入。USCPA受験に向けてである。「税の垂直的公平と水平的公平」などという言葉は本書で学んだ。(試験には出なさそうだけど…) しかし、本書のターゲットが中途半端な気がして、あまり使い勝手の良いものではなかった。受験勉強の参考書としては、『新・米国公認会計士試験重点解説シリーズ』の方がよいであろう。 そもそも参考書には、3つのタイプがあると思う。(1)初心者にも分かるように出来るだけ簡略化し、具体的な解説をふんだんに使ったもの。『結構使える! つまみ食い「新会社法」』など、このタイプの好例であろう。(2)実務でも使えるよう、詳細に書かれたもの。この手のタイプは全てを読破するのではなく、参考書代わりに使うのがよいであろう。そのためにも目次や索引が充実していないと使えない。(3)受験用の参考書で、受験勉強最終段階の暗記用のもの。図や表などを多く使い、シンプルにまとめてあるものがよい。細かな説明は省略している為、初心者には厳しい内容かもしれないが、ある程度学習が進んだ者にとって、初歩的な解説は邪魔になってくる。WILEYなどが好例。 本書は、残念ながら、これらの(1)〜(3)のどれにも属していない。あえて言うならば(1)をターゲットにしているのだろうが、英語を日本語に直すのがなかなか難しいようで、逆に分かりにくくなってしまっている。例えば、パートナーシップという、これから日本にも導入されるであろう制度の税務について述べた部分を抜粋してみよう。 >パートナーが資産をパートナーシップに出資してパートナーシップ持分を取得したときには、パートナー、パートナーシップともに、原則として利益または損失を認識しません。パートナーシップは、納税主体ではありませんので、原則として出資された資産について、パートナーシップがパートナーの税務簿価を引継ぎます。一方、出資の対価としてパートナーがパートナーシップから受取ったパートナーシップ持分は、パートナーが出資した資産のパートナーの税務簿価に等しい額となります。 ?????。今でこそ、ある程度勉強が進んでいるので、なるほどそういうことかと、理解できるが、初心者が読むと混乱を招くだけのような気がする。もう少し例示を多く取り入れ、図示を増やせばよいのではないだろうか。内容は充実しているので、改訂版に期待。
苗村屋読書日記 [87]
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