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◎0445 『サンクチュアリ』 史村翔・池上遼一
△0444 『県庁の星』 桂望実
△0443 『きよしこ』 重松清
△0442 『生協の白石さん』 白石昌則
△0441 『銀行大統合』 高杉良


◎0445 『サンクチュアリ』 >史村翔・池上遼一/小学館文庫

 大学生の時に読んで非常に印象に残った作品。それまでは少年ジャンプや少年マガジンといった少年向けの漫画しか読んでいなかったので、遅ればせながら大人の世界を感じた作品である。少し余談になるが、私の通っていた大学は一人暮らしのアパートから自転車で5分ほどの距離。周りには多くの定食屋があり、そのほとんどがコミックスを揃えていた。今のような漫画喫茶はまださほど見られなかったが、昼食時あるいは夕食時に1〜2冊ずつ読み進めることが出来て、なかなか快適な環境であった。

 さて、本題に戻ろう。本書の主人公は二人。ヤクザの北条彰と政治家の浅見千秋である。この二人はカンボジア難民キャンプの過酷な条件から生還した戦友ともいえる間柄。彼らは政治家という表舞台とヤクザという裏の舞台から日本を覆そうと計画する。

 まずはその発想力、構想力に脱帽。2つの異なる世界の人間が協力し合うというのは、なかなか面白い設定で、他の作品にも名作が多いように思う。例えば、『サンクチュアリ』と同様に表と裏の世界を生きる男女を描いた小説『白夜行』、警察という舞台で、キャリアという管理職とノンキャリアの現場の刑事の友情を描いたドラマ『踊る大捜査線』など。しかし、ヤクザと政治家というのは、実際にありそうな話だが、後々の利害関係から結びついたのではなく、最初から目的意識を持って協力し合うという設定がよい。

 そういえば、先日発生したみずほ証券によるジェイコム株の誤発注事件に関して、面白い記事を読んだ。誤発注を起こしてしまった25歳エリート社員と、この混乱に乗じて20億円の利益をあげた27歳の男性とが裏で結びついているのではというもの。この記事を読んだ瞬間、『サンクチュアリ』を思い浮かべてしまった。まぁ、他愛も無い空想だが、ありえない話ではないかもしれない…。

 『サンクチュアリ』の二人だが、カンボジアからの帰国子女という設定により、彼らが日本を変えようとしている強い意志がビンビンと伝わってくる。一番印象的だったのは千秋が米国のビゼットを日本の小学校に案内する場面。日本の子供達は非常に従順であり、大量生産の為の工場の従業員としては最適であるという描写にドキっとした。日本人の没個性を強烈に批判されているように感じたのである。

 ラストはハッピーエンドとは言えないまでも納得のいく終わり方。☆千秋がベトナムで浴びた枯葉剤に倒れてしまうというのはなんともやり切れない思いが残るのだが、それでも日本が新しい一歩を歩み始めるという終わり方なので、まぁよしとしよう。名作であればあるほど、ラストシーンというのは難しく、賛否両論あるであろう。『沈黙の艦隊』なども、同じように納得はいくがやり切れない結末であった。

 最後に筆者について。原作の史村翔というのは『北斗の拳』で有名な「武論尊」と同一人物とのこと。ジャンプ系の集英社では武論尊、他者では史村翔というように使い分けているそうである。経絡秘孔(けいらくひこう)などという単語を生み出す発想力は底知れない。本作も氏の発想力が大いに発揮された名作と言えよう。

>2006.02.22.WED


△0444 『県庁の星』 >桂望実/小学館

 軽く読めるが、なかなか奥の深い作品、というのが感想である。突然、民間のスーパーで研修を受けることになった主人公の野村聡。役人意識全開で、スーパーのマネジメントに当たるのだが、従業員達は反発ばかり。私生活の方もなかなか上手くいかず、悪戦苦闘する姿が、コミカルに描かれている。

 サラッと読むとただのコメディだが、根底に流れる役人への不満・批判はなかなかのもの。人間というのは、一度馴染んだ文化や慣習をなかなか捨てられるものではない。役所における官僚主義や手続き至上主義といった、民間から見れば笑止千万な慣習も、彼らにとっては非常に重要なこと。そんな批判が見え隠れする。たまたま主人公の野村には柔軟性があり、民間の慣習や文化を受け入れることができたが、実際はこんなにうまくいくかどうか…。現に、同じく別の民間業者へ研修に出た友人は途中で挫折してしまっている。

 官と民で大きく違うのはカネの使い方ではなかろうか。予算という枠をいかに使い切るかを考える「官」に対し、いかに売上を伸ばしいかに経費を削減するかを考えている「民」では、カネに対する考え方が大きく違ってきても仕方のないことかもしれない。しかし、限られた予算をいかに効率よく使うか、という点においてはさほど変わるところはないと思うのだが。

 たまに役所へ電話をしたりすると、何様かと思うような担当者にぶつかることがある。横柄な態度の方ばかりではないのだが、たまに変なヒトにあたると、役所全体の印象が悪くなってしまう。貴重な国民の税金から給料を貰っているということを忘れている公務員が多いように感じるのだが…。国民は間接的とはいえ税金という対価を払っている「客」だという認識はおかしいであろうか。

 実際にこのような研修が実施されているのかどうかは分からないが、もし実例があるのであれば、今後も継続してもらいたいし、無いのであれば是非とも取り入れてもらいたい制度である。漫画化され、映画化もされるとのことだが、ぜひ公務員の方々に読んで欲しい作品。

 …他人の批判ばかりではなく、自分自身に置き換えてみる必要もある。私自身、1つの会社に10年以上在籍し、世間一般から見ればおかしな考えを持ってしまっている部分があるかもしれない。そんな自省を促してくれる作品でもある。

>2006.02.16.THU


△0443 『きよしこ』 >重松清/新潮文庫

 背表紙あらすじ:少年は、ひとりぼっちだった。名前はきよし。どこにでもいる少年。転校生。言いたいことがいつも言えずに、悔しかった。思ったことを何でも話せる友だちが欲しかった。そんな友だちは夢の中の世界にしかいないことを知っていたけど。ある年の聖夜に出会ったふしぎな「きよしこ」は少年に言った。伝わるよ、きっと─。大切なことを言えなかったすべての人に捧げたい珠玉の少年小説。

 ここしばらくはUSCPAの勉強で忙しかったのだが、まったく本を読まないというわけではなかった。電車の中、風呂、トイレなど細切れ時間を利用しての読書は断続的に行なっていた。さすがに試験直前はそれすら辞めてしまったが、ここ数ヶ月で何冊かは読了。そのうちの1冊が本書『きよしこ』である。

 受験勉強中に読むには少々重たい作品。吃音に苦しむ少年が、完全とはいえないまでもハンディキャップを克服し、成長していく物語である。最初は、短編集かと思っていたのだが、きよしという主人公を中心に据えた長編小説であった。主人公のことを「きよし」ではなく「少年」と表現していた為、最初は戸惑ってしまったのである。では、なぜ「少年」なのか。深読みしすぎかもしれないが、筆者は自分自身の経験を少年に投影し、この物語を紡いだのではないだろうか。自分の名前である「きよし」を頻繁に登場させるのは照れくさかったのでは…。

 少年の成長に合わせて、幾つかの章立てがしてあるのだが、一番印象に残ったのは『ゲルマ』という章。ゲルマニウム・ラジオから取ったというあだ名を持つ、ちょっとやっかいな少年との友情の物語である。きよしのことを「ドモ」と呼ぶなど無神経極まりないのだが、なぜか憎めないゲルマ。こんなヤツいたよなぁと自分の中学生時代を懐かしく思い出すとともに、少年時代というのはちょっとしたことが残酷な結果を招くということを再認識させられた。「気を遣う」という行為を覚える前の少年期というのは、非常に難しいものである。

 ほかにも色々と考えさせられるところが多く、軽々に感想の書けない作品。ただただ、重松清の懐の深さに感服。

>2006.02.13.MON


△0442 『生協の白石さん』 >白石昌則/講談社

 書店のベストセラーコーナーでよく見かけるなと思っていたら、妻が買ってきたので読んでみることに。東京農工大学の生協に対するリクエストから始まった、生協職員の白石さんと学生達の微笑ましいやり取りを本に纏めたもの。白石さんの回答がユーモアに溢れていて、いわゆる「癒し」効果を発揮したのが、売れ行き好調の要因のようである。

 このリクエスト用紙である「ひとことカード」が生協の掲示板に掲載されているそうなのだが、なんとなく真面目な印象の生協に、このような機知に富んだ回答が掲載されるとなると、学生の人気も出るであろう。学内を越えて、広く指示される理由も分かる気がする。中でも面白かったのは「プロ野球チップス」に対する白石さんのこだわり。特に土橋選手への思い入れが深いようで、回答の中に何度も登場する。ここで紹介しようとも思ったのだが、複数あるやり取りを断続的に見ることによって生まれるなんとも言えない可笑しさは、簡単に掲載できるものではない。気になる方は是非購入を。

 その代わりと言っては何だが、もう1つ面白いと思ったやり取りを紹介したい。「生協への質問・意見・要望:リュウとケンはどっちが強いんですか?同じだろ! →生協からのお答え:リュウとケンとは、この場合誰の事を指すのでしょう?(漫画のキャラクターか何かですか…?)推測の域は出ませんが、竜雷太と松平健の場合、全盛期ならおそらく竜雷太の方が腕力は上だと思われます」 リュウとケンとはゲームソフトであるストリートファイターのキャラクターだと思われるが、学生との親交の深い白石さんのことであるから、恐らく知っていてボケているのだと推測される。このようなユーモア溢れる回答が満載の本。簡単に読めてしまうので、本書に1,000円近く出すのは少し抵抗があるのだが、癒しを求めている方には良いかもしれない。

 掲示板といえば、ネット上の掲示板(BBS)を連想するが、こちらの方は白石さんの掲示板とは比べ物にならないくらい荒れているものが散見される。匿名性が高いとはいえ、ネットの上だけで強気になり、他人の誹謗中傷を繰り返すのはいかがなものか。かく謂う私も、匿名で書評なぞ書いているが、批判こそすれ誹謗はしたことがないと思っているのだが。文字にするとなかなかニュアンスが伝わらなかったりしてあらぬ誤解を受けることもあるであろう。ネットならではのコミュニケーション能力が求められている気がする。

>2006.02.09.THU


△0441 『銀行大統合』 >高杉良/講談社文庫

 背表紙あらすじ:三行統合なら生き残れる! 第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の各トップは世界でも例のない大再編に向け猛スピードで走り出した。困難な調整や会談の内幕など、最後の決断までの日々を圧倒的な情報量とリアリティで描いた実名企業小説。その後の迷走と再生のドラマも収録した完全版でついに文庫化!

 本書も再読。初読は2001.7.27で、珍しく単行本を購入して読んでいる。みずほ銀行誕生というのは、私にとっても印象的だったようで、古本ではなく、新刊を買い求めた記憶がある。ちなみに、私が初めて読んだ高杉作品は『大逆転』 これは、三菱銀行と第一銀行の未完に終わってしまった合併の内幕を描いた物語である。途中まで、勧業銀行と第一銀行の物語だと勘違いしており、合併が白紙に戻った瞬間、実話ではなくフィクションか?と錯誤したほど。高杉氏は、この『大逆転』に始まり、第一勧業銀行の総会屋事件を描いた『金融腐食列島・呪縛』、三行統合の一翼を担う日本興業銀行の歴史を描いた『小説・日本興業銀行』など、まさに「みずほ」の歴史を描いてきたといっても過言ではない小説家である。そういった意味で、「三行統合」は高杉氏に描かれるべき題材なのである。

 本書が面白いのは、全て実名であるということ。多少の筆者による加筆はあるにせよ、実在の人物が活き活きと描かれている。実名を出すことの難しさは大きいだろうが、そこは高杉氏のこれまでの実績と、筆力とで最後まで描ききっている。今回の主人公は興銀の西村頭取であろう。冒頭、パソコンを立ち上げて、基本的な考え方を書き出すところからして、リーダーとして方向性を示すことの大切さを教えられた気がした。ちなみに、この西村頭取の考えは、統合の基本精神として下記の5項目に整理されている。

 (1)お客様・お取引先に最高水準の総合金融サービスを提供する (2)株主、市場から高く評価され、我が国を代表するトップバンクとして、広く社会から信頼される (3)行員にとって働き甲斐があり、魅力に富んだ職場にする (4)事業分野、機能について、それぞれの特色・強みを最大限に発揮するとともに、徹底した合理化、効率化による統合の効果を最大限に追及する (5)各行の既往文化に拘らない新しい風土・企業文化を持った金融グループを創造する

 この西村頭取をはじめとして、三行から様々な人材が統合プロジェクトに加わっている。もう一人、注目したいのが第一勧業銀行の杉田力之頭取である。杉田頭取は、あの『金融腐食列島・呪縛』で急遽、常務から頭取に取り立てられた中山のモデルとなった人物である。新生・みずほ(旧長銀の新生銀行ではない、新しく生まれたという本来の意味。ちょっとややこしいな)の初代頭取として活躍している。ちなみに、『呪縛』でも悪役を演じていた陣内副頭取は、西之原敏州副頭取がモデルとのこと。

 さて、文庫本の本書では、単行本で触れられなかった、統合後のみずほについても描かれている。記憶に新しい、システムトラブルの内幕なども描かれており、単行本・文庫本とも未読の方には、完全版である文庫本を読むことをお薦めしたい。例のシステムトラブルは、起こるべくして起こったということがよく分かるであろう。また、先日読了した『起死回生』の筆者である江上剛も少しだけ顔を出す。みずほが一兆円増資を決め、有力支店長にハッパをかけるシーンで、銀行の姿勢に反発し、辞める決心をしたとのことである。

 二行統合だとタスキがけ人事が大変だが、三行ではそんなこともやっていられない、適材適所が可能になる、という触れ込みで出来た銀行だが、システムトラブルの原因を知ってみると、まだまだ問題は山積みのようである。今現在は、少しは機能し始めているのだろうか。三菱とUFJの統合もあと少し。こちらもシステムの関係で統合を延期しているが果たして大丈夫であろうか。大切なお金を預ける銀行なのだから、早く信頼性を回復してもらいたいものである。

>2006.02.02.THU

苗村屋読書日記 [89]

     



































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