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◎0475 『優駿』 宮本輝
△0474 『レイクサイド』 東野圭吾
△0473 『鼓動 警察小説競作』 新潮社編
△0472 『決断 警察小説競作』 新潮社編
△0471 『錦繍』 宮本輝


◎0475 『優駿』 >宮本輝/新潮文庫

 背表紙あらすじ:【上巻】生れる仔馬が牡馬でありますように。風の申し子のように速く、嵐みたいに烈しく、名馬の天命をたずさえて生れますように…。若者の祈りに応えて、北海道の小さな牧場に、1頭のサラブレッドが誕生した。オラシオン(祈り)と名づけられた仔馬は、緑と光の原野のなかで育ち、順調に競走馬への道を歩みはじめるが、それと共に、登場人物ひとりひとりの宿命的な劇が、幕を開けた―。吉川英治文学賞受賞。 【下巻】母の肉は子の肉、子の骨は母の骨なり…。いのちの哀しさ尊さに突き当りながらも、虚無と喧噪のなかで人間の業から逃れられない男たち、女たち。だが、そういう彼らも、いつしかオラシオンの美しさ危うさに魅せられて一体化し、自らの愛と祈り、ついには運命そのものを賭けていった。やがて迎えるダービー決戦―。圧倒的な感動を呼ぶサラブレッド・ロマン。吉川英治文学賞受賞。

 初読は1996.06.24。10年も前のことである。社会人になってまだ少しの頃。それまではSFや歴史物中心の読書で、純文学的なものを読み始めたのはこの頃ではないだろうか。巧みなストーリーテリングで一気に読了したのを覚えている。しかし、私と『優駿』との出会いは小学生の頃にまで遡る。父が体調を壊して入院した際に、職場の同僚の方がハードカバーの『優駿』をお見舞いに持ってきてくださったのだ。あまり読書が好きではない父がその本を読んだかどうかは定かではなく、私自身もそのハードカバーを手に取ることはなかったのだが、『優駿』という文字が妙な存在感を放っていたのを記憶している。

 さて、本書はオラシオンという名馬を中心に、さまざまな人生を紡いだ作品。主人公といってよいであろう、トカイファームの跡取り息子・博正。オラシオンの持ち主となる和具平八郎という中小企業の社長とその娘・久美子。オラシオンの騎手となる奈良。この他にも魅力的な登場人物たちが、自分の悩みをぶつけ合い、成長していく様が描かれている。

 物語はオラシオンの誕生から始まる。この日にはトカイファームの娘と犬までが出産しているのだが、生命の誕生という神秘的な書き出しから、徐々に人間世界のドロドロとした描写へ移っていくところにも無理がない。気がつくとオラシオンのファンになり、物語に引きずり込まれている。また、サイドストーリー的に語られる奈良という騎手の成長譚も興味深い。競馬のことなど全く知らない私だが、素人にも分かりやすく解説してあり、それでいて説明臭くない辺りは流石である。

 私はどうも「成長譚」に弱いらしく、本書のように登場人物皆が逞しくなっていく物語はたまらない。主人公・博正はページを繰るたびに少年から青年へと脱皮していくし、老境の域にあるといってよい和具平八郎まで、生き別れとなっていた息子の病を知り成長する。それはまさにオラシオンという名馬の成長が皆を牽引しているようにさえ感じる。

 最後に印象的だった言葉を抜粋。「気品のない馬は走りません。いい競走馬は、すべて気品というものを持っています。人間もおんなじですよ。品のないものは大成しない」 最近は『国家の品格』がベストセラーになるなど、日本人が「品」を取り戻そうとし始めているように感じる。宮本輝は何年も前から「品」の大切さに気付いていたということか。

P.S.180,000 hits over! 【上巻】 【下巻】 >2006.08.15.TUE


△0474 『レイクサイド』 >東野圭吾/文春文庫

 背表紙あらすじ:妻は言った。「あたしが殺したのよ」―湖畔の別荘には、夫の愛人の死体が横たわっていた。四組の親子が参加する中学受験の勉強合宿で起きた事件。親たちは子供を守るため自らの手で犯行を隠蔽しようとする。が、事件の周囲には不自然な影が。真相はどこに?そして事件は思わぬ方向に動き出す。傑作ミステリー。

 『容疑者Xの献身』が直木賞を受賞してから、本屋でやたらと東野圭吾の本を目にする。『白夜行』のドラマ化も影響しているのだろう。もともと、結構好きな作家なのだが、これだけ騒がれると逆に手を引っ込めたくなるのは、どういう心理か。などと書きつつ、表紙の美しさにも惹かれて、本書を手にしてしまった。

 物語は、教育熱心な親たちが子供の受験合宿に参加するところから始まる。主人公の並木俊介は、普段は教育熱心ではないのだが、今回はたまたまの参加。他の親たちの加熱振りを少し異常と感じつつ、親としての役割をこなしていく。しかし、この団体は何かが変だと気付いていく。

 最初は、子供の受験サークルを隠れ蓑にした乱交パーティの催しかと勘ぐっていたのだが、真相はもっと深いものであった。「教育熱心」というキーワードから想像できそうなものだが、最後まで思い至らなかった。親たちが、なぜあんなにも必死で殺人事件を隠そうとするのか? 親の深層心理まで踏み込んでおり、なかなか興味深い作品であった。

 ☆しかし、背表紙あらすじの「親たちは子供を守るため自らの手で犯行を隠蔽しようとする」という一文は、ネタバレではないだろうか。

>2006.08.12.SAT


△0473 『鼓動 警察小説競作』 >新潮社編/新潮文庫

 背表紙あらすじ:その後、バーを訪れたのは、新宿で知らぬ者なき“鮫”だった(「雷鳴」)。たたき上げ警視と女性心理調査官が辿りついた真相は(「刑事調査官」)。娘を殺された退職刑事の“犯罪”(「誰がために」)。刑事の妻の危険な逃避行(「ロシアン・トラップ」)。現代っ子巡査が足を踏み入れてしまった事件とは(「とどろきセブン」)。正義とは一体何だ?混沌の世界を生きる警察官の誇りと苦悩を描く全五篇。

 『決断』と同時購入した本書。文庫本として2冊に分冊されているが、こちらの方が内容が充実していたように感じた。老刑事の鋭い視点を重厚に描いた『刑事調査官』(by今野敏)、殺人者に対して私的な復讐を図ろうとする『誰がために』(by白川道)、警官の妻の非日常的な事件を描いた『ロシアン・トラップ』(by永瀬隼介)と、読み応えのある短編が収められている。

 『決断』にも書いたとおり、本書は重複して購入したものだが、文庫本には納められていない高村薫のエッセイがある。その名もズバリ「警察小説を解剖する」というもので、高村薫の警察小説に対する考え方や、警察小説を書かなくなった理由が述べられていて興味深い。随分と重複購入を愚痴ってしまったが、このエッセイを読めただけでも価値があったと思う。

 せっかくなので要旨のみ抜粋しておこう。高村氏曰く、最近の犯罪は無差別的なものが増えてきており、被害者の交友関係などを調べても犯人像が浮かび上がってこない。警察小説というのは遺留品や交友関係から実証を重ね、推理を重ねて成り立っていくものなのだが、無差別殺人ではこのような推理が成り立たない。また、現実に起こる殺人事件があまりにも残酷になりすぎ、小説で描写するに耐えられない、とのことである。高村薫が警察小説を書くには、あまりにも現実の事件が悪化しすぎたということか。日本という治安大国の根底が揺るいできているというのは一国民として恐ろしいことであるし、また卓越した小説の書き手がミステリー界から手を引いてしまうというのは、一読者として哀しいことである。

>2006.08.11.FRI


△0472 『決断 警察小説競作』 >新潮社編/新潮文庫

 背表紙あらすじ:偽ドル札を掴まされた男と強面刑事の騙し合い(「昔なじみ」)。新任の駐在が嗅ぎつけた危険な匂い(「逸脱」)。秘密を背負った警官が知る寂しい犯罪者(「大根の花」)。イカれた奴らとパトカーの追跡劇(「闇を駆け抜けろ」)。自白の裏側に迫る孤独な刑事(「ストックホルムの埋み火」)。誤認逮捕の悪夢に苛まれるベテラン刑事(「暗箱」)。組織と個人の間で揺れながら真実を追い続ける警察官の凄みを描く全六篇。

 書店で平積みされているのを見て、何の迷いも抱かずに購入してしまった。もちろん兄弟編の『鼓動』も一緒に。家に持ち帰り「そういえば警察小説の競作が他にもあったな」と本棚をごそごそと探してみると…。小説新潮三月臨時増刊の『警察小説大全集』なるものを発見。表紙を見ると「全編書下ろし! 横山秀夫『暗箱』 高村薫『警察小説を解剖する』 乃南アサ『とどろきセブン』」といった文字が躍っている。……!。買ってきたばかりの文庫本と全く同じではないか…。

 本の読み手として、過去に読んだ本を間違えて買ってしまうのは非常に悔しいことである。しかし、言い訳をすると本書に関しては未読の積読であり、同じものだとは見抜けなかった。タイトルも変わっているし。しかし、臨時増刊の方は500円。今回の文庫本は660円(税込み)×2冊=1,320円也。やはり悔しい…。

 前置きが長くなってしまったが、そんな訳もあり是が非でも読まねば損と、一気に読了。当代随一の作家達の競作であり、読み始めると止まらない。面白い。中でも印象的だったのが佐々木譲の『逸脱』であろうか。北海道警察本部で現実に発生した裏金疑惑を元に、道内の警察官の一斉異動の余波を描いた作品。不慣れな土地での警察官の心理を巧みに描写した秀作である。

 横山秀夫も手堅くまとめている。『暗箱』とは刑務所のことだが、もう一つの隠された意味が…。やはり横山氏は短編向きだと思わせる作品。しかし、今回に限っていえば『逸脱』を推したい。他の作家の作品もなかなかの力作であり、読み終わった頃には悔しさも半減あった。

>2006.08.10.THU


△0471 『錦繍』 >宮本輝/新潮文庫

 背表紙あらすじ:「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。

 USCPA学習中に少しずつ読み貯めたものの感想を纏めて書いている。トイレ・風呂など細切れ時間に気分転換を兼ねて読書をしていたのだが、書評となると結構時間を食ってしまうので、そのままになっているものが何冊か。2〜3ヶ月分は溜まっているだろうか。早めに書かないと読後直ぐの新鮮な感想がふやけてしまう…。

 さて、本書。書き出しの部分のリズムがいい。あらすじにもあるとおり「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、」とダ行が連続しており、独特のリズムを生み出している。小説の書き出しというのは非常に大切で、読者の「読む気」を大きく左右すると思う。そういった意味では、秀逸な作品。

 しかし、実際の物語はというと、なかなか評価が難しい。女性と男性の往復書簡で構成される物語なのだが、やはり読者を意識した書き方になっており、リアリティに欠ける気がした。何年も会っていない男女が、自分の近況を報告するという形をとり、やがては当時何を考えていたのかといったところにまで踏み込むのだが、「説明調」の文章になってしまっているのは否めない。

 しかし、往復書簡というのも時代の変遷を感じさせる。今ならばメールでやり取りするのだろうか。履歴付で返信すると、自分が書いた文書の方が上に来るので、時系列で事柄を追おうとすると、下から読まなければならない。そこをあえて、メール形式で現在から過去へと遡っていくような小説を書いてみたら面白いだろうか? そういえば、小説ではないが、記憶が5分間しか維持出来ない男性を描いた『メメント』という映画は、現在から過去へ遡る形式でなかなか面白かった。時間的感覚が狂ってしまい非常に理解しにくかったが…。分かりやすさを追求してしまうと、本書のように説明が多くなってしまうのだろうなぁ。

>2006.08.08.TUE

苗村屋読書日記 [95]

     



































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