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![]() △0495 『ジャンプ』 佐藤正午 △0494 『天国への階段』 白川道 △0493 『文体とパスの精度』 村上龍×中田英寿 △0492 『看守眼』 横山秀夫 △0491 『草にすわる』 白石一文 △0495 『ジャンプ』 >佐藤正午/新潮文庫 背表紙あらすじ:その夜、「僕」は、奇妙な名前の強烈なカクテルを飲んだ。ガールフレンドの南雲みはるは、酩酊した「僕」を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買いに出かけた。「五分で戻ってくるわ」と笑顔を見せて。しかし、彼女はそのまま姿を消してしまった。「僕」は、わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。失踪をテーマに現代女性の「意志」を描き、絶賛を呼んだ傑作。 本書も再読。初読は2002.01.05。失踪した彼女を探すというミステリー仕立てだが、警察や探偵が出てくるわけではなく、主人公の三谷が残された僅かな手がかりから少しずつ彼女の跡を追うという恋愛小説の一種である。最初に読んだときは非常に面白く感じたのだが、2回目である今回は若干の粗(アラ)が見えてしまった。しかし、ラストは完全に忘れていたなぁ。 その「粗」というのは、みはるの失踪のきっかけである。物語を面白くしようという筆者の意図だろうか、リンゴを買いにいったみはるの身に様々な出来事が一気に押し寄せる。ちょっといろいろ起こりすぎではないかというくらい一気に。確かにいろいろな出来事が起こった方が面白いかもしれないが、やりすぎると現実味がなくなってしまう。何度も書いているように偶然が多すぎる小説というのがあまり好きではないのだ。 これ以外の部分については総じて評価できる。特にラストへ向けての伏線の張り方はなかなかのもの。と書きつつ、ラストがどうだったかをまた忘れてしまいそうなので、備忘の為にネタバレ覚悟で書いておくが☆みはるが三谷の前から姿を消した最大の理由は、最終的に三谷と結婚する女性(鈴乃木早苗)からの無言電話であり、脅迫めいた手紙だったという事実には驚いた。☆ なるほど無言電話も差出人不明の手紙も物語の最初の辺りに出てくるが、こういう結末とは…。冷静に考えると「ありがち」な話だが、そんなありがちの話で読者をストーリーに引きずりこんでしまえるのは佐藤正午の筆力の高さであろう。 そういえば本書は蒲田が舞台となっている。『天国への階段』の舞台である大森海岸や平和島から近い町。みはるのマンションへ行く道や東邦大学の付属病院など、見知った風景が出てくると急に物語に親近感を覚えるのは当然のことだろうか。人にもよるのだろうなぁ。そうそう、もう一つ備忘録。「アブジンスキー」というカクテルはアブサンとジンとウィスキーをブレンドしたもの。別名アースクェイク(地震)だそうだ。 …なんだか今日は筆の進みが悪い。取り留めの無い感想になってしまっている。取り留めがないといえば、本書もそうなのだが。しかしながら、ところどころに佐藤正午流のキラリとした表現があるのは見逃せない。ちょっとだけ抜粋を。「ちなみに雰囲気がどれぐらい独特かといえば、カウンターのなかの未亡人は割烹着姿で客の注文に応じてシェイカーを振った」 「まさに笛吹きケトルの面目躍如といった感じの誇らかな音色だった」
△0494 『天国への階段』 >白川道/幻冬舎文庫 背表紙あらすじ:【上巻】家業の牧場を騙し取られ、非業の死を遂げた父。将来を誓い合った最愛の女性・亜希子にも裏切られ、孤独と絶望だけを抱え十九歳の夏、上京した柏木圭一は、二十六年の歳月を経て、政財界注目の若き実業家に成り上がった。罪を犯して手に入れた金から財を成した柏木が描く復讐のシナリオとは? 大ベストセラーとなったミステリー巨編。 【中巻】柏木の復讐のシナリオは着実に進んでいた。そんな中、元強盗殺人犯・及川広美が刺殺される。彼の更生を固く信じていた定年間近の刑事・桑田規夫は、弔いを誓い志願して捜査を開始する。その直後に発生した第二の殺人事件の意味とは?一方、柏木の背後には音もなく忍び寄る不気味な影が現れる。多くの思惑が交錯し、事態は急展開を始める…。 【下巻】復讐のため全てを耐え財を成した男。ただ一度の選択を生涯悔いた女。二人の人生が二十六年ぶりに交差した時、想像を絶する運命の歯車が廻り始める。次々起こる殺人事件。音もなく忍び寄る不気味な影。老刑事の執念の捜査。生者と死者。親と子。追う者と追われる者。孤独と絶望を生きればこそ、愛を信じた者たちの奇蹟を紡ぐ慟哭のミステリー。 最近、蔵書の整理を進めている。再読しそうにもない単行本や文庫本を古本屋に引き取ってもらった。結構な量で、車のトランクと後部座席が一杯に。苦労して運び込み、引き換えに2万円程度の現金と4千円相当の引換券を入手した。それでもまだまだ本が溢れている。特に再読しようと取ってある単行本は場所を取るのでどうにかしたいと常々思っていたのだが、本書はそんな蔵書整理を機に手に取ったもの。初読は2002.05.04。ゴールデン・ウィーク中のようだが、2日間で読み終えている。 さて、感想の方だが、ストーリーとしては面白い。主人公・柏木圭一が過去のいきさつから殺人を犯してしまうのだが、警察サイドではなく、犯人側から物語を展開しており、かつその殺人がやむを得ないものだと読者に思わせ犯人側に感情移入させている点は上手いと思う。『白昼の死角』や『白夜行』のようなノワール小説ではなく、主人公自身が自分の犯した殺人に怯え苦しむ様がよく描かれている。 しかしながら、犯してよい殺人などというものはなく、結局は警察の粘り強い捜査に追い詰められていく。最終的に逮捕には至らないものの、ラストは物悲しい。犯罪者と警察というミステリー仕立てだが、個人的には『照柿』と同じように、ヒューマン・ドラマの要素を強く感じた。 登場人物の相関関係は非常に複雑である。ネタバレになってしまうが、☆柏木に二人も隠された子供がいたり、かつて愛した人の夫がライバルだったり。☆ 一方でそれほど登場人物が多いわけではないので、ややこしさは感じず、複雑な人間関係がすっと頭に入ってくるのは筆者の筆力が高いからであろう。しかしまぁ、よくこんなにもどろどろした関係を思いついたものだと感心すらしてしまう。 その人間関係だが違和感がなくもない。柏木とその腹心の部下である児玉との関係は非常に強いものだが、果たして自分の敬愛する人の為に命まで投げ出せるものだろうか。また及川を殺してしまったときの柏木の心理状態だが、人を殺すというのは大変なことであり、普段冷静な柏木が果たして現実的に「殺す」という行為を選択するであろうか。そしてラストへ向けての数々の自殺。特に後半部分は人間関係が強すぎることと、「死」を軽んじすぎているのではないかという違和感が拭えなかった。 一方で北海道の牧場の描写は美しい。『優駿』でも感じたことだが、人の欲望が渦巻く競馬場の雰囲気と異なり、サラブレッドを育成する大自然のなんと美しいことか。名前までもが美しい「絵笛」という土地と、カネに塗れてしまった柏木の東京生活とが対比的に描かれており、長い物語に適度な刺激とコントラストを与えていたように思う。 そういえば、私も上京して10年余。以前にも書いたかもしれないが、東京に住んでいて思うのは、見知った土地が小説に出てきやすいということ。今回の事件の舞台となった平和島から大森海岸にかけての辺りには、一時期在住していたことがあり、なつかしく思いながら読み進めた。初読の頃はまだ神奈川県にいたので、この辺りの土地鑑はなかったのだが、こうして東京で年数を重ねるとともに、見知った土地の数も増えていくのであろう。柏木圭一と自分の人生を重ねるつもりはないが、ふとそんな感傷に浸ってしまった。 白川道の作品には格言めいたセリフがたまに出てくる。ちょっと格好をつけすぎの気もするが、なかなか洒落ているので抜粋しておきたい。
△0493 『文体とパスの精度』 >村上龍×中田英寿/集英社文庫 背表紙あらすじ:中田英寿の考え方や言葉を、よりわかりやすく、より広く伝えたい―。村上龍のその思いが結実した、六年間にわたる対談とeメールによる往復書簡。サッカーというスポーツ、そして「世界」でいかに戦い、いかに生きるか。本書はサッカーファンのみならず、自立した「個」として生きようとするすべての人に贈る、アスリートと作家の交流の記録である。日韓W杯以後の最新メールを追加し、文庫化。 中田氏、と書くのに何となく抵抗がある。やはり「中田選手」の方が響きがいい。引退後、当然のことだが各メディアとも「中田氏」と書くようになった。ドイツW杯の突然の引退から急に興味を持つようになり、関連する雑誌などを手にとって見た。そんな中の一冊が本書。 村上龍とは長い付き合いとのことで、本書は村上龍と中田英寿との対談やメールのやり取りを本にしたもの。サッカーだけでなく、仕事に対する姿勢や日本人としての在り方などが書かれていて興味深い。全体を通じて感じたことだが、二人の共通点は「当たり前と思われていることに疑問を持つ」ことであり、「自分が納得行くまで疑問を持ち続ける」姿勢だと思う。村上龍の小説にはそんな彼の姿勢が現れているし、中田英寿のプレイも然りである。 では、気になった部分を抜粋。
△0492 『看守眼』 >横山秀夫/新潮社 相変わらず「巧い」のだが、横山作品にしてはインパクトのない本であった。というのも、随分前に購入して、途中まで読んでいたのだが、そのままになっており、この休日で改めて最後まで読みきったのである。普通であれば、一気に読みきるであろう横山作品なのだが、途中で随分と間が空いてしまった。まぁ決算だのなんだので忙しかったせいもあるが。 いつものように、順番に感想を述べたいのだが、前半部分は少々失念している部分も有るので簡潔に。 『看守眼』…表題作。「かんしゅめ」と読むのだと思っていたら「かんしゅがん」と読むらしい。県警の機関紙担当の女性が主人公という、ちょっと変わった作品。『陰の季節』を生み出した横山秀夫らしいといえば、らしいが。一方、取材相手は看守歴の長い偏屈な男。彼からの原稿を入手するのに苦労するのだが、看守ならではの視点からある事件の真相追求に巻き込まれる。ちょっとした謎を丁寧に解きほぐしていく横山作品の真骨頂。 『自伝』…売れないライターに突如舞い込んだ大口の仕事。その裏に隠された意図と、浅墓な人間の悲しさ。人間の本性というのは日々の生活の積み重ねということか。 『口癖』…家庭裁判所の家事調停委員会の委員が主人公。なかなかこのようなキャラクターは思いつかないのではと感じるのだが、さすがは元新聞記者である。「それしきのことで」という口癖から一つの結末に至る。 『午前五時の侵入者』…警察のホームページにハッカーが侵入するという設定。HP管理者の警官が、事件を隠蔽しようと泥沼に嵌っていく様を描いた作品。この短編だけは結論が思い出せず再読してしまった。設定自体は、よくこんなことを考えつくなぁというほど面白いが、人物像や心理描写が横山秀夫にしては今ひとつといった印象。 『静かな家』…新聞の誤植がきっかけである事件の真相に迫るという設定。元新聞記者らしく、誤植の恐ろしさを上手く表現している。私は経理部に所属している関係で、数字の間違いには非常に気を遣っているが、このような文章を生業にしている人たちというのは、また別の気の遣い方があるのだなあと感慨深かった。どちらが大変とは比べられないが、数字には正解らしきものがある一方、文章というのは人によって受取り方が違ったりするので、数字よりも難しいのかもしれない。 『秘書課の男』…追うものと追われるもの。追うものでいた時には感じなかった恐怖を、追われる立場になると感じてしまうという深層心理。何事も良い位置をキープするのは難しいということ。守りに入ったとたんに運に見放されたりするから人生は分からない。結局は努力を続けるしかないということか。 本書は特に連作小説的な構成ではないが、あえて共通点を見つけるとすれば「保身」だろうか。自分の立場を守る為、保身に走ってしまう人々の内面を描いた作品集。
△0491 『草にすわる』 >白石一文/光文社文庫 背表紙あらすじ:「生きていたってしょうがないよ」。大企業を辞めた洪治は、最低五年間は何もすまいと誓い、無為な日々を過ごしている。ある日彼は、一年近く付き合う彼女から昔の不幸な出来事を聞かされる。死ぬことに決めた二人は、睡眠薬を飲む。絶望。その果てに彼が見たのは…(表題作)。なぜ人間は生まれ、どこに行くのか。「覚醒の物語」二編と初期に別名義で発表した一編を収録。 無頼、という言葉が似合うだろうか。筆者の作品には無頼の匂いを感じる。なんとなく佐藤正午に似た匂いも感じる。本書に収められた『草にすわる』という短編もそんな作品。 大企業を辞めてぶらぶらしている主人公・洪治。その恋人の曜子さん。田舎町で逢瀬を重ねる二人の関係に気だるさを感じながらも最後まで一気に読んでしまった。途中で、あまりにも簡単に命を投げ出そうとする洪治に腹が立って仕方が無かったのだが、最後には命の尊さに気付いてくれたようで、ほっとしたまま読了することができた。 本作品では主人公の洪治よりも曜子さんのキャラクターの方が面白い。公認会計士を辞めて田舎のスーパーで働いているのだが、もともと頭がいいこともあり、実際にスーパーを取り仕切っているような存在。洪治との出会いも実は洪治の母親が同じスーパーで働いていたからというもの。そのスーパーがリストラの一環で曜子さんをクビにしようと…。ラストの曜子さんの「まさかの一手」が爽快であり、気持ちのよい作品であった。 『砂の城』は老作家の心情を描いたもの。自分の心情を露悪的に描写する様は筒井康隆を彷彿とさせる。読み進めながらずっと筒井康隆の顔が頭から離れなかった。 『花束』は辣腕新聞記者の話。金融担当であり、銀行の合併をスクープするのだが…。作者自身が編集という仕事を通じて中央省庁の官僚や永田町の政治家たちと接した経験があるとのことで、その経験を生かした作品となっている。ちょっと青臭さを感じたが、それもそのはず、1993年の作品とのこと。こちらも主人公の平井よりも、辣腕記者・本郷さんのキャラクターの方が強烈。主人公が引き立て役という設定が好きなのだろうか。 全体を通して、悪くは無いのだが、様々な時期に書かれた作品を集めたとあって「寄せ集め」的な印象も拭えない。そもそも筆者は長編向きのような気もする。『一瞬の光』のような名作をまた書き上げて欲しいものである。 苗村屋読書日記 [99]
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